9「影」

「お騒がせしてしまってすみません」

「え、ああ、はい、あれ」


 血塗れの自分と然程変わらない年齢であろう彼は敵意はないですと言わんばかりに、手を挙げてヘラッと笑う。

 赤を纏った、目に優しい金髪が風にサラサラと揺れる。

 その足には、2人の黒いスーツを身に纏った大人が倒れている。

 おかしい気がする。

 けど、何がおかしいのか分からない。


「ん?あ、ああ。

 こいつら、悪い奴なんです!」

「悪い奴?」

「ええ、か弱い年寄りを騙す詐欺師集団の構成員なんです」

「そうなのか」


 冷たい目で人だった人を見つめ、足で死体をゲシゲシと蹴っている。

 悪い奴ならしょうがないな……本当にそうか?


「あ、銃もきちんとものですからご心配なく」

「なら、安心か…?」

「悪い奴は、成敗しないといけないですからね」

「……君がそういうならそうだね」


 何処かでカラスが、カーと鳴いている。

 青年は、死体をそのままに血塗れのままこちらに近付いてくる。

 それは、出口がこの道しかなくその道を塞ぐように僕が立っているからだ。


「そう、ボクがやっていることは間違っていない。

 悪人は死を持ってその罪を償うべきだ。


 道、開けてもらってもいいですかね?」

「あ、ごめんね」

「いえ、こちらこそご迷惑かけてすみません。

 今度は、周りにも迷惑かけない様に工夫しますね」


 ニコッと彼は笑う。

 身体を寄せて、彼が通れるように道を開ける。


 相変わらず手に銃を持ったままの彼は、そんな人を殺せる道具を持っているとは思えない爽やかさで軽く会釈をしてスタスタと光の方へ帰っていく。


(悪人を自ら殺すなんて、なんて感の強い青年なんだ……)

 一応、自分も成り行きでダークヒーローしているのだから、彼の様な心持ちを持たないといけないかな…。

 もう1度正面を向いて、人だったものを見る。

 赤い水溜りが、地面の筋を通って広がっていく。

 あの軽トラの日のことを思い出して、眉をしかめた。

 足音が、遠くなっていく。

 …こんなところにしてもしょうがない、自分も早く表通りに戻らなければ。

 くるっと翻して、彼の後を応用に来た道を戻ろうとした。


 目の前に落ちるは、雷の筋。

 空から見下ろす、瓜二つのスワンプマン

 バチッッという衝撃が体を巡り、回らなかった頭がスッキリとした。


 正義の為であろうと、個人成敗が許される訳がない。


「スワ…カゲ!!」

「あ?」


 昨日、彼から要求されていた呼び名を叫ぶ。

 実際は、考えていなかったので今直感で思い付いた名前を叫んだだけであるが。


「彼は!!」

「走れ。

 遠くまで行ってない、走れば間に合うさ」


 ダッと駆け出す。

 行きは躊躇したその境界線を、勢いよく飛び越えて表通りに戻る。


 いきなり明るい所に出たので、視界がカチカチして思わず腕で目元を覆ってそれを見る。


「うーん、中々使い慣れないものですね……それとも、貴方も帯雷体ですかね?」

「正義の帯雷体だな、お前!!」

「あはは、やっぱり君も犯罪者こちら側か」


 彼は、光輝く空間で相変わらず血を纏いながら、不気味に笑う。


「ボクの名前は、かがりただし

 この世界に正義の制裁を下す者さ」




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