8「境界線」

「正義のロイデア…?」

「そうだ」


 正義とは強そうだが…本当に新人の僕に務まるのだろうか。


「ああ、ちなみに正義のロイデア自体は特別強くない」

「え!?」

「規模はでかいかもしれないが、認識はガッタガッタで、普遍的もないとなると正直ロイデアとしての力はクソ雑魚だ。

 そもそも、ロイデアはどう頑張っても人間由来より自然由来の方が強いからな」

「嘘だろ…」


 え、正義が弱いのはなんか嫌というかショックだな…。


「油断はいけないぞ」


 瞬月しづきさんが、忠告する。


「ロイデアとしては弱いが、帯雷体となった時の強さは折り紙付きだ」

「……」

「なに、安心するといい少年。

 人柄を見てくるだけでいいんだ、そう気張るな」


 勝浦さんが、バシバシと背中を叩く。

 安心する要素が1つもなかったのだが?


「この装置を渡しておく」


 瞬月さんを通して、ラプラスの悪魔より小さなボタンが中央にある装置を渡される。


「『ヤバい』と思ったら押せ。


 こいつが、瞬間移動して迎えに行ってやる」

「相手が、殺害対象の時も押したらいい。

 殺すのは、俺がしてやるよ。

 だから、思ったままに判断を下だせ」


 蛍光灯に照らされた少女が、見覚えのある笑い方で微笑んだ。


「期待しているよ。

 学正哲哉くんに気紛れの我が同胞、良い結果を待っている」


 スマホがピロンと通知を鳴らし、その画面には何処かの地図が印されていた。



「お前のこと、知っていたんだな」

「まぁ、確証はないだろうけどな」


 電車に揺られ、経費でホテルに泊まった次の日。

 この町の何処かにいると言うことまでしか予測が出ていないらしく、追加で分かったことがあれば随時連絡してくると言うことで、変な人が居ないか、スワンプマン探知機を傍らに町をブラブラと歩く。


「そうなのか?」

「あれは、知里隊長に帯電している。

 そういうロイデアは、感覚が君達知的生命体に寄る。

 私もあれも、思考実験という人の考えた空想が元で似ていること、未来予測のロイデアであること等の理由で予測しているんだろう」

「はぁ」


 いまいち分からない…。

 ロイデアに関しては、未だ謎なことも多い。

 ロイデア本人達にとっては、人間が息をしたり利き腕の使い方と同じ様に『出来て当たり前』らしく、言葉にするのはいささか面倒で、説明するにしても難しいらしい。


「しかし、平和で何処にでもある町だな」

「23区外だしなぁ…田舎っていう程離れてはないけど」


 東宮あずまみや都の市の1つ、武蔵むさしの市。


「まぁ、戦争しているわけでもないこの国では大抵こんな感じか」

「…そうだね」


 最後の戦争より結構な月日が経っている。

 僕だけではなく、僕の両親も戦争未経験世代である。

 平和ボケといわれるが、戦争がないことはいいことだとは思う。


「……」

「スワンプマン?」


 ピタッと立ち止まり、何処かを見ている彼の方を向き首を傾げる。

 もしかして、現れたのか?

 だとしたら、何故教えてくれないのだろうか?


 パンッ


「……えっ?」


 乾いた音が何処からかした。

 日本では、聞き慣れない乾いた音である。

 だけど、映画の中……洋画で聞き馴染みのある音がした。


「っ!!」


 音のした路地裏の方に、駆けつける。


 日の当たらない路地裏。

 表世界と切り離された裏世界のように広がる空間がそこには広がっていた。

 影と光の線が明確に現れており、その線を越えることを心理的に躊躇してしまう。

 ただの影が、なんとなく超えたら本当に戻れなくなる気がした。


 パンッ、パンッ、パンッ


 再度同じ音が閑静な住宅街に響く。


「い……かなきゃ」


 境界線を飛び越えて、路地裏をぐんぐん進む。

 路地裏の奥底、行き止まりの最果てを前に足は歩みを止めてピッっと止まって彼を見る。


「ん?ああ、こんにちは」


 硝煙をゆらゆらと生み出している黒い銃を持った、血に塗れた青年はこちらに気づくとニコッと笑った。

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