7『重要指令』

「ラプラスの……悪魔?」

「名前ぐらいは聞いたことあるだろう?」

「いち…おう?」


 聞いたことはあるが、内容までは流石に覚えていない。


「フランスの数学者であった、ピエール=シモン・ラプラスが1812年に自著で提唱した、全知の『知性』の事だな。

 未来予測が可能なロイデアという認識位でいい」


 スワンプマンが、そう付け加える。


「いわゆる思考実験の1つだな。

 説明の際は、スーパーコンピューターとも呼称される……まぁ、未来予知ではなく、未来視でもなく、未来予測が出来る存在と思ってくれればいい。

 ロイデアの真名看破はあまりよろしくないので、参謀長と呼んでくれ」

「は、はぁ」


 参謀長は、彼と同じ事を復唱する。

 まるで、悪の組織のボスの様な風格の彼女?は肘をついてはぁとため息をつく。


「夏季休みが取らせれなかったから、正月休みは取らせてやりたいと知里ちさとが言うのでな、予想も20%だったし、許可出したが…」


 ギシッと椅子が軋む。


「はぁ、2週間後の予測は余裕で低確率を引くのがなぁ…」

「運がなかったと割り切った方がいいんではないか?参謀長殿?」

「まぁ、期待の新人がいるし良いとするか」

「はぁ……はぁ!?!?」


 右から左に聞き逃していたが、聞き捨てならない会話が聞こえてバッと顔を上げる。


「え、いや、無理ですって!?」

「中身を聞く前に無理というのは頂けないぞ、新入り。

 なに、そこまで難しいことでは無い。

 厄介なことではあるが。

 というより、瞬月しづきは護衛で私の側を離れられない、勝浦は非戦闘員なので戦えない。

 つまり、お前は受け入れる以外の選択肢は無いぞ」

「良かったな、期待の新人」


 スワンプマンが、目で笑う。

 僕は、頭を抱えたが仕方ないので腹をくくって前を向いた。


「なに、難しくないというのは本当だ。


 帯雷体の予想が出た、故にその帯雷体を視察してきて欲しい。

 君が危険と感じたら、殺しても構わない」

「殺してもって…」


 帯雷体ということは、私や瞬月さんのような人のことを指すわけだ。

 しかし何故、殺すなんて物騒な言葉が出てくるんだ?

 動揺で目を泳がしていると、彼女は深いため息をついた。


「して少年よ。

 君は、ロイデアを構築する3大要素を正しく認識しているかね?」


 巷でいわれており、現代の通説となっているロイデアを形造りその強さを決める3大要素…たしか…。


「規模•認識•普遍ですよね?」

「その通り」


 手を前に組み、こちらを見る彼女の後ろから光が漏れており、いつもと違うその雰囲気に思わずたじろぐ。


「その型としているモノの大きさは、そのまま力となる。

 水より海が、巨木より森が強くなる。


 認識のズレが少ないモノは、そのまま力となる。

 闇より死が、神より殺人鬼が強くなる。

 普遍的であるかもとても重要だ。


 例え、ロイデアが現代ではなく全盛期の力を保持する存在であれど、普遍的でないものは安定さに欠ける。

 現象に名をつけただけの存在より、物事に名をつけた存在の方が強いだろう。


 ロイデアは、この3要素を比較してその強さという名のエネルギー保存量が決められている」


「故に、先日の様な迷子のロイデアは自然現象や自然のロイデアが殆どを占めている。

 人が造ったものより自然は大きく、その多くは普遍的であるのは、人に由来するロイデアでは届かない領域だからだ」


 スワンプマンの彼が、横で補足を入れてくる。


「が…」

「が?」


 彼女は、足を組み直す。


「ロイデアと帯雷体を表す言葉に、こんなものがある」


「ロイデアの強さと、帯雷体の強さは反比例すると」


「そもそもの話をすると」


 話を合わせていたかのように、スワンプマンの彼がまた話す。


「ロイデアとして強い存在は、帯雷体を必要としていないが…それを除いても、ロイデアとして強いというのは、認識が安定している、それはすなわち解釈の余地が無いということに等しい」

「先日の芦立区に出現したロイデアは、私より強いが…

 きっと、あのロイデアと契約した帯雷体がいたらそれはお前の方が強いぞ、哲哉」


「それを踏まえての任務である。


 本目的は、とあるロイデアと契約し帯雷体となった人物の視察である。


 その人物が、今後の社会にとって癌にしかならないのであれば殺す他ない。

 君に、そのジャッチをしてほしい」


 彼女の目が、こちらを射る。

 否定を容認しない、その目は任務を告げる。


「『正義』のロイデアの出現予想だ、隊員諸君」


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