6『貴方は?』

「哲也着きました!」

「お前さんも来れたか」

瞬月しづきさん、お待たせしてしまってすみません」

「いや、大丈夫だ。

 来れただけ、上々だ」


 都心の超高層ビルのエレベーターを飛び出し、カードを認識させて本拠地こと永全グループの秘密の部署に慌てて入る。


 そこに居たのは、瞬月さんだけであった。

 隊員メンバーの中ではずば抜けた常識人なのに、相変わらずやっっすいダボッとしたTシャツと短パンの、いかにもパチンコ屋に居そうな(偏見)雰囲気を醸し出している、1回り上の兄とほぼ同世代であろう、瞬月ことはかり瞬月しづきさんはこちらを見るとフッと笑った。


「来れただけ…?

 もしかして、他の皆さんに何かあったんですか?」


 基本、ロイデアは何時何処で出現するのか分からないためか、本拠地という名の仕事場はこのビルであるが、隊員メンバーは首都である東宮あずまみや都のあちこちに散らばっているためか、名前は教えてもらったが、まだ会ったことのない人が普通にいる。


「……」


 瞬月さんが、ぐっと黙る。


「ただ、戦闘民族共が有給を取っているだけだよ」

「あ、勝浦かつうらさん」

「確立20%だったから、許可出たらしいが…やっぱり、台風予想と同じで遠い先の予測はブレが出るのがネックだな」


 横の仮眠室より、目の下に大きな隈を携えて現れたのは秘密結社のたった1人の女性技術班である勝浦姫乃さんだった。

 長さが揃っていない髪を、後ろで雑に括り、欠伸を携えながら頭をガシガシと掻いている。


「ふはあぁぁぁ……瞬月、お前さんのロイデア能力で回収しに行ったらどうだい?」

「出来ないことはないが……家まで送ってやろうか?所長?」

「下の名前で呼ぶなってんだろ、ぶち殺すぞ。

 後、いらんわ、お前の能力苦手なんだわ」

「それが、アンサーだわ……嫌がれるんだよ」

「そういえば、瞬月さんの能力ってなんですか?」

「あ?まだ、話してなかったっか?」

「そういえば話されてなかったな、忘れていた」


 ぽんぽんと交わされる言葉のリレーを見ていたが、瞬月さんの能力知らないな…と割って入った。

 ちょうど同じタイミングで、どこに行っていたのか、あまり離れることはできないと自分で言っていたのに先程まで姿が見えていなかったスワンプマンがフラッと自分の横に現れた。


 瞬月さんは、こちらを見ると先程の深刻そうな顔を多少和らげていた。


「と言っても、俺も俺のロイデアと話したことがあるわけじゃないんでね、合っているのか不安なんだけどな」


 パチンと指を鳴らすと、目の前にいた瞬月さん居なくなった。


「え?」

「こっちだよ」


 ぽんと肩を叩かれる。

 ばっと後ろを向く。

 ニコッと笑った瞬月さんが、してやったりという顔で先程の指定地に戻っている。


「……は????」

「流石に驚きすぎだろ」


 スワンプマンが、ポカンとしている僕のことをジトッと見ている。


(いや、君はなんでそんなに落ち着いているんだよ!?)


 テレパシーで彼と会話を試みようとチラッと彼の方を見たが、彼は何してんだこいつという顔をしていたが、ああ……と呟くと。


「俺は、お前の考えていることは分からないからな」

(嘘だろ!?)


「やっぱり、お前のそれテレポーテーションなんじゃないのか?」

「なんか、それにしては変な感じがするんだがな」

「分かる」


「話をしていいか?」


 正面の、いつも隊長が座っている体格に合っていない椅子から声がする。

 空気がピキッと張り詰める。

 声はいつもの知里隊長のものなのに、声のトーンに抑揚がなく、元気もない。

 同じ人の筈なのに、会ったことない人がそこにいるようだった。


(それよりも)


『哲哉!!おかえり!!』


 いつも、顔を見せると誰よりも最初に気づいてそうやって声をかける隊長の声を今日は聞いていない。


『まあ、俺の居場所は隊長の横だからな。やらんぞ』


 あんな恥ずかしいことを、真顔で言い放っていた瞬月さんが隊長の横ではなく、こちら側に立っている。


「……貴方は、一体?」


 椅子がギィとこちらを向いた。


 やはりそこに居たのは、隊長の姿をしたであった。


「『ラプラスの悪魔』と言えば伝わるかな?


 知里彼女と契約している、しがないのロイデアだよ」

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