4『正義のヒーロー』

「クソっ!!」

「いや、あれは十中八九彼奴等が悪いだろう。

 なんの為に、国が避難マニュアル作っていると思っているんだ、避難のためだろ」


 黒焦げになった人間だった物を横目に、1人はエネルギー体の刃を打ち込み続け、1人はその報復の電気玉を1つでも多く相殺する。


「ロイデアが出現した時に、電気機器を使うのは御法度だろ、常識と聞いたが?

 後は、建物の近くに近寄らない事だっけか?

 木は特に駄目なんだったな」

「分かってるさ!!」


 ロイデアが現れたのは最近の話でも無ければ、ここ数年の話でもない。

 先代の経験や、命を懸けた研究により対策方法は世界中で様々な形で伝承されている。

 それでも、被害はなくならない。

 それどころか、スマホの出現とSNSによる承認欲求という重しによって、ここ数年で死者は目に見えて増えている。

 ある程度の犠牲は割り切らなければいけない。

 約束を守れない人間も守れるほど、ロイデアは甘くない。


 それでも、救えなかったという事実は背中に重く伸し掛かる。


「ん?ああ」


 スワンプマンは、刃を止めて来訪者とは反対方向を見た。


「契約者」

「なん…だっ」


 彼が攻撃を止めたので、報復として飛んできていた電気玉もガクッと数を減らしたので、息をなんとか取り戻しながら反応する。


「時間だ。

 撤退するぞ」


 残っている蓄積エネルギーで、でかい刃を作り出し来訪者にぶつける。

 気の流れから想定していたのか、ロイデアも刃とほぼ同等のエネルギーの玉をぶつけて相殺していた。

 その反動で、衝撃波が発生し周りのビルの窓ガラスがパリンパリンと割れていく。

 スワンプマンは急降下して哲哉の腰を掴むと、そんなガラスの雨が降る前に来訪者を素通りし


「スワンプマン!!」

瞬月しづきも言ってただろ。

 我々は、善人ではない。

 悪人でもないかも知れないが、ダークヒーローと名乗るには微妙な、善人ではない存在でしかないと」


『何がなんでも、第一に特務機関から逃げる事を優先しろ。

 目の前で、殺されそうな奴が居ても…だ。

 俺らは褒められる存在じゃないことを忘れるなよ』


『道を開けて下さい!!車両が通ります!!道を開けて下さい!!』

「特務機関だ!!特務機関が来てくれた!!」


 スピーカーから流れる音声、ゴツイ戦車のような車両が二台、人々を引かないように現れた。

 凱旋パレードかと見間違えるレベルに、不安と恐怖が伝染しつつあった民衆はその放送を聴くや否や元気を取り戻し、道の両橋に捌けて歓声を贈る。


「全員指定地に着け!!!

 --君は、市民の避難の手助けにあたってくれ」

「了解しました、学正がくしょう隊長」


「……兄さん」

「ふーん、あれが契約者の血縁か。

 あんまり似ていないな」

「……まあ、一回り程離れているし」


 だいぶ距離を離した高層ビルの上。

 到着した、正規正義のヒーロー達の活躍を顔を見られないように、柵の間からぼんやりと見つめる。

 スワンプマンは、契約者である青年にしか見えない為(時折、見えるものも存在しているが)柵の上に立ち、戦場を観戦している。

 対ロイデア戦において倒すという勝利は存在しない。

 気のエネルギー体であるロイデアに攻撃を当て、被害を減らし早々に退場して貰うのこそが唯一で安全な手順である。


「んー、もうそろそろだな」

「そうか」


 ドレスを纏った来訪者ロイデアの輪郭がグニャリと揺れる。

 帯雷体という止まり木を持たないロイデアは、常にその構成エネルギーを擦り減らしていく。

 あれだけエネルギーを使ったのだ、顕現最低基準を下回ったのだろう、ロイデアからの攻撃も止み、輪郭は揺らぎそして何もなかったように消えていった。

 彼女?はこのまま、気の流れに乗り彼のいう最果ての故郷に帰るのだろう。

 ……そして、目を覚ましてこう思うのだろうか。


『ああ、なんか変な夢を見ていた気がする』と。

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