第2話 大衆酒場にロマネコンティの荒らし!

「お客様、お店への酒姫の同伴は御遠慮しております。」


店の中に入ろうとする小太りのおじさんを、店員が止めている。


「大衆酒場は安い酒姫しか居ないから、ちょっと高級なロマネコンティちゃんと来てやってるんだ!なぁ、ロマネコンティちゃーん?美味しいご飯食べようねー。」


「エビアンウィ!」


派手な服を着たロマネコンティと呼ばれた女性は外国出身なのか、日本語では無い言葉で答えた。


酒姫。蔵人にスカウトされて酒蔵に所属し、歌やダンスを踊ってライブ活動をしたり、テレビのバラエティー番組に出演したりする女性の総称、通称「酒姫」。

ただし、それはごく一部の酒姫の話であり、多くの売れない酒姫達は、酒場で指名されて客とお話することを生業としている。


「この店は安っぽいなぁー!働いてる酒姫もさぞ安いんだろうなー?!」


おじさんが再度暴言を言ったところで、奥から水色の単発の女性が出てきた。


「おい、お前。高い酒姫連れてるからって自分に酔ってるんじゃねえのか!?水でも飲んでとっとと帰りな!」


そういうと、持ってたコップの水をおじさんへ浴びせた。


「ちょっとちょっとやりすぎですよ!ダメですよー!!」


奥からもう1人、透き通るような色白の女性が出てきた。


「お客様、申し訳ございません。お拭きいたします。」


「いいっ!なんてことするんだ!客にこんなことするなんて、こんな店二度と来るか!お前らどこの酒蔵出身だ!」


「あたしはどこにも所属してないただの雑用だよ!水野メヨってんだ!覚えとけ!」


「ふん、酒姫にもなれないただの水か。ん?こっちのお前は見たことあるぞ?確か...、南部美人じゃないか?水のように透き通る肌、癖のない声。」


「...はい。そうですが。」


「お前はこんな安い店にいるんだな!だから品評総選挙でも上位に食い込めないんじゃないか!水のような透明感を売りにしたって、それだったら水にするわ!」


「おい!!お前なんて酷いこと言うんだ!!」


捨て台詞をはいて、おじさんはロマネコンティと一緒に逃げていった。


「気にするな、南部...。お前はそのままでいい。お前の良さはいつか世間に分かってもらえるはずだ。」




その時、僕は客席にいた。


「えぇー、お酒は苦手なんですが…」


僕の名前は下戸田麹。

お酒が苦手な社会人一年生。今日は先輩の上戸先輩に連れられて大衆酒場へとやってきた。


「長かった新人研修も終わっただろ?今日は俺が奢るから酒場デビューしてみようぜ!」


「強引に酒の席に誘うのはパワハラですよ、先輩?僕がお酒苦手なのは事前に言いましたよね?酒場なんて初めてですよ。」


「まぁ、ご飯食べるだけでも良いんだよ!お前を祝いたいんだ!俺のキープしている酒姫がいるから、気が向いたら一口だけでもお喋りしてみたらいい。店員さーん。鶏南蛮とキープしてた酒姫お願いしまーす。下戸田、お前も好きな物頼んでいいぞ!」


上戸先輩は良い先輩だ。

僕も友達が多い方では無い。人との付き合い方もあまり得意では無いので、引っ張っていってくれるのは少し嬉しかったりする。


「そうですね、気が向いたら一口だけ。まずは食べ物を選ばせてください。何にしようかな...。」


僕がメニューを選んでいると、先輩の注文がすぐに届いた。


「おまたせしました、上戸さん。キープして頂きました酒姫です。」


片方は色白の透き通った肌。濁りの無い瞳。黒髪の日本美人のような酒姫だった。

もう片方は、少し焼けた褐色の肌で、青い髪色のショートカットで活発な雰囲気の酒姫だった。そんな酒姫が2人やってきた。


「再度お越しいただきまして、ありがとうございます。上戸様。」


「久しぶりー!なかなか来ないから、私達忘れられと思っちゃったよー!」


酒姫2人は僕と先輩の隣の席にそれぞれ着いた。


「久しぶりー!忘れてないよー!特別な日に来ようと思って今まで我慢してたんだよ!こちら俺の"初めて"の後輩、下戸田!そうそう下戸田、酒場ではな、連れてこられた酒姫とはまずは1口ご挨拶をしなきゃだぞ!」


上戸は先輩風を吹かせて下戸田に自己紹介を促す。そう言われてしまったら挨拶するしかない。


「...初めまして。下戸田と申します。こういう場は初めてなのでどうしたらいいか分からないですが、よろしくお願いします。」


おじおじしなが、挨拶をする。


「後輩君、そう固くなるなー!酒場は楽しまないと!私は泡盛!よろしく!」


「泡盛ちゃんはちょっと癖があるから気をつけてなー?気が合えば、元気いいから朝までだってお話出来ちゃうぞ!」

間髪入れずに上戸がアドバイスをする。


続けて隣にいた酒姫が挨拶をする。


「私は南部美人と言います。お食事をメインにされるということで、私が得意なところです。邪魔になりません。...水でも良いじゃないかと言う意見はありますが...、...よろしくお願いします。」


「南部ちゃんは優しい子で癖がないから、初めての酒場には丁度いいかもしれないぞ!...ん、なんか元気ない?南部ちゃんなんかあった...?」


「...いえ、大丈夫です...。」


この後、先輩は泡盛ちゃんとどんちゃん騒ぎをし、僕は少しだけ南部ちゃんと話した。

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