第6話 詐欺師、情報を集める

 やあやあ、ブールくん久しぶりだねー。

 このやりとりは何年振りかなー。

 

 まあ、僕はブールくんのことを逐一聞いていたから、そこまで久しぶりという感覚ではないのだけど……きっとブールくんからしたら久しいだろう?


 おっと、怒らないでくれよ。


『師匠は自分だけコソコソと俺のことを探っていたのか!』


 ははは、そんな言葉が聞こえてきそうだ。


 僕だって別にブールくんのことを怒らせたくはなかったんだけど……僕にもそれはそれは深い事情というものがあって仕方なく姿を消すことしかできなかったんだよ。


 だから一旦僕への個人的な怒りは押し殺して、最後までこの手紙を読んでくれはないかな。


 きっとブールくんはあの子——ファンセ・ヴェルテくんのことを助けてあげないと後悔するだろうからね。


 僕がファンセくんと出会ったのは、ほんとに偶然だ。

 彼女たちの劇団がホーロビール王国で公演をしていたところを訪れた時に出会ったんだ。


 え?どうせ口説こうとして近づいたんじゃないのかって?

 そ、そんなことないから!

 流石に君と同じくらいの年の子には手を出したりはしないさ、ハハハ。


 ……コホン。

 それでここからが本題なんだよ。


 今、君の目の前にいる歌姫——ファンセくんは、君と同じ系列の孤児院出身だ。


 察しの良い君ならば、これだけでわかるだろ?


 そうさ。


 ファンセくんも稀有な魔法を使うことができるんだよ。


 ブールくんが空間魔法を使うことができるように、彼女もまた特別な能力の持ち主なんだ。


 ん?

 でも魔法の流れが全く感じられない、一般人だろって?


 そうだね。その認識はある意味で正しい。

 でも、ファンセくんの職業はなんだったかな?

 思い出してごらん。


 うん、そうさ。

 舞台女優でもあり……そして、歌姫だ。


 だからね……ファンセくんもブールくんと同じさ。

 

 本質的には、あのろくでもない研究機関に実験体として扱われていた存在なんだよ。


 そうであるからこそ、ブールくん、君が彼女——ファンセくんを助ける意味があるだろう?


 ただし残念ながらというか幸運にもと言った方がいいかもしれないが、ファンセくんは自分自身の能力に気がついていないみたいなんだ。


 きっとファンセくんの幼い頃の記憶が欠落していることと関係があるのだろうけど……そこら辺のことはブールくんに任せるよ。


『そもそも彼女の能力がわからないんだ!』って声が聞こえてきそうだね。


 確かブールくんは一度もファンセくんの舞台を観たことがないんだもんね。


 実は……彼女の歌声には、魔力を増幅させる力があるんだ。

 増幅魔法の使い手さ。


 それもとてつもなく強力な魔法だ。


 今は意識せずに四方八方の人に歌声に乗せて、魔力増幅の魔法を無意識に使ってしまっていて効果も薄れてしまっているがね。


 本来であれば範囲を縮めたり、特定の人だけに力を与えることもできるんだ。


 だからこそ……危険なんだ。

 それこそ本当の一般人であってもその気になれば、強力な魔法を使うこともできてしまうかもしれないからね。


 おっと残念ながら時間がないみたいなんだ。

 ここからは端折ってしまうけど……。

 僕は少し手が離せないんだ。


 だから僕の代わりにファンセくんのことを助けてほしい。

 

 これは師匠としてのお願いでもあり、依頼だ。


 流石に彼女が何も知らずに歌っているのは不憫だからね。


 それに元王宮魔術師として『ヘロベロ草』——違法薬草の密売も看過できないからね。

 

 まあ、そちらの処分についてはこの際ブールくんに任せるよ。


 ああそうだ。

 借金のことは、ほんとにごめんね。

 どうしても資金が必要でご令嬢方を誘惑して借りちゃった。

 てへっ。


 ▲▽▲▽▲

 

 くっそ……師匠のやつ何が『てへっ』だ。

 こっちはこれまでどれだけ苦労して闇ギルド経由で借金をご令嬢たちに返したきたと思っているのか。

 

 普通に返すことができないから、わざわざ非効率な方法を取っているというのに……。


 その時だった。

 カランカランという鈴の音が鳴った。

 

 フランは人懐っこい笑みを浮かべて、ひらひらと右手を振った。

  

「ようっ!親友!まさか、こうして王都で再開できるとは思わなかったぜ」

「商人か?」

「まあな。ちょっと面倒な仕事だな」

「そうかよ……」


 どうやら相当手こずっている仕事らしい。

 一瞬、フランはキマリ悪そうにガシガシと髪をかいた。


 俺の隣に座ると、綺麗な女性の店員が静かに近づいてきた。


「ご注文はいかがなさいますか?」

「あ、じゃあ同じやつで」

「……かしこまりました」


 店員さんはお辞儀をして、俺たちの席に結果を張って行ってしまった。

 闇ギルドとはいえ、一応、ちゃんと接客をするのがこの喫茶店――『トリニコ』の良いところだ。


 それにわざわざ結界を張ってくれるサービス精神に溢れている。

 だからここを気に入っている。


「それで何しているんだ?わざわざ危険を犯してまで王都におしゃべりに来たわけじゃないだろ?」

「ちょっと野暮用だ。それよりも情報が欲しい」

「それで……今回は誰の情報が欲しいんだ?」

「劇団ララビッツのダレックスとホーロビール王国のヤサーシソ王子」

「はあ……教会の次はホーロビール王国って、外交問題にでも首を突っ込むつもりか?」

「別にそういうわけじゃない……ちょっと人助けだ」

「はあ?お前が人助け?金に汚いお前がか?」

「っち、いちいち茶々を入れるな。それで情報はあるのか、ないのか……答えろ」

「へいへい」

 

 そう言ってめんどくさそうに、アーカイブの魔法を使った。

 掌ほどの大きさの本がフランの手元で浮かんだ。


 パラパラと自動的にめくられていく。

 

 横にいる俺ではわからないが、術者であるフランは「ふむふむ」と独り言のようにつぶやいた。数秒ほどして、パタンと閉じられた。


 それから二人のことを詳細に教えてくれた。


 ——ダレックスとヤサーシソどちらも、ロクでもない人間らしい。


 ニヤッと嫌な笑みを浮かべて、フランが俺を見た。

 

「俺にも一枚噛ませてくれ」

「……は?フラン、正気か?」

「正気さ。こいつらが『ヘロベロ草』を売り捌いているならば、暗部としてもちょっとばかり見逃すことはできないんでね?」


 いつものように陽気な雰囲気から一転して、フランの声が低くなった。

 珍しく怒っているようだった。


「わかった。俺の方は別にそれで構わないが、あくまでも俺のやり方に従ってもらうことになるがいいよな?」

「いいぜー親友」

「ああ、その前に一つ頼みがある。いつもの宿に歌姫がいるんだけど、俺が戻ってくるまで護衛を頼む」

「まさか誘拐したんじゃないよな!?」

「するか!」

「じゃあなんで一緒にいるんだよ?」

「それは……色々あるんだ」

「はあ、やれやれ……わかったぜ親友」


 何か言いたげな表情をしたが、フランは首を縦に振った。

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