第2章

プロローグ

「今宵は劇団『ララビッツ』の公演にお越しくださいまして誠にありがとうございました!」


「ブラボー」「ヒューヒュー」「最高だったぞー」


 観客席から歓声の声が上がる。

 多くの人たちが拍手や歓声を舞台の俳優たちに送っている。


「ふふ、ありがとうございます。こんなにも大きな声援をいただき、こうして多くの人々に私たちの演技を見ていただけて———うう、ぐす」

「もう、劇団長、泣かないでくださいよっ!」

「そうだ、お客さんの前だ!最後まで頼むぜー」

「ええ、そうですよね」


 ラビット族の女は、涙を袖でふいて顔を上げた。


 どうやら看板俳優が失踪したことで、台本を変えたり配役等を調整するなど、かなり気苦労をかけてしまったようだ。

 

 疲れているとは聞いていたが……なんとか公演が終わってよかった。

 いや、まあ他にやりようがなかったから仕方がないんだけど。


 劇団員たちはお辞儀をしたり、手を振ったり、観客たちの拍手や歓声に応えていった。


 そしてヒロイン役のファンセだ。

 エメラルドグリーンの瞳が一瞬だけ俺のことを見た気がした。


 ……全く初めからこんな綺麗な笑みを浮かべられるなら、普段からその表情を見せろよ。


 まあそんなこと絶対に歌姫さんの前では言えないけど。


 カーテンの幕が降りていく。


 ちょうど隣の特等席に座っているホーロビール王国の王子も立ち上がったようだ。

 

 俺はその光景を横目に観客席から立ち上がる。


 取引とやらはほんとにこの後すぐに行われるらしい。

 執事らしき男に二言ほど何かを言って、会場の扉をそっと開けて行った。


 全く……忙しないにも程があるだろ。


「あら……もうお時間でしょうか?」

「ああ、そうみたいだ。行くぞ……ドーレ」

「ふふ、やっと名前で呼んでくれましたね?」

「っち……そんなこと言っている場合じゃないだろ」

「あらあら、照れていらっしゃるんですか?」

「うっせ」

「ふふ、揶揄いすぎてしまいましたね。では、行きましょうか……私のご主人様」


 ドーレは俺の腕を取った。


 黄金色の瞳が俺を見て、ニコッと口元に笑みを浮かべた。


 相変わらず危険を承知の上で自ら首を突っ込に行くのは理解できないが、まあ今回はこの腹黒聖女様のおかげでここまで来れたから多めに見るとしよう。

 

 さて——仕事を始める時間だ。


 詐欺師として——あの王子を騙すとしよう。


 背中越しに大歓声が聞こえてきたが、俺たちは会場を後にした。

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