第9話 詐欺師、柄にもなく悪党を成敗する
相変わらず、デブに接触し、宝石、魔石類を見せびらかせる単調な日々を過ごした。
そして、本日、今日、この日。
夕闇に紛れるようにしてデブが俺の画廊へと直接現れた。
自らの固い意思とともに何かを求めてやってきた。
若干、一名、招かざる猫族の女も店外にいるようだがこれは問題ではない。
むしろ好都合だ。
「ジョン殿、あなたがお持ちになっている作品を見せてもらってもよろしいですかな?」
「ええ、是非ともご覧ください。ドワーフの技師が作った宝石、魔石の指輪類から女神マリアリア様が描かれた絵画、彫刻まで取り扱っておりますゆえ……」
ふん、さてさて何に興味を示すのやら……。
当たり障りのない商品をまずは物色しているようだ。
「ああ、これはユニコーンのツノで作られたブレスレットですね。ドワーフの錬金術師にあつらえてもらったものです」
「ほほー」とデブは興味深く見ている。
「いやー、値が張りましたが、それだけの価値はありますね。なんせ金運が上がりますから」
「それは素晴らしいですな!!!」
「ええ、ますます教会への寄付金も増えることでしょう」
「なんと!!!」とデブは先ほどよりも驚きの声をあげたが、すぐに「……しかし、ジョン殿、これだけではないでしょ……?」と睨むように俺を見た。
「……ではとっておきの秘密をお披露目しましょう。さあ、こちらへどうぞ」
画廊の奥——隠し部屋へと繋がる空間魔法で転移した。
▲▽▲▽▲
デブは一瞬、転移に伴うめまいでもしたのだろう。
「うっ」という声をあげて、ふらふらとしたようだが、すぐにこの部屋の様子に「おおー」と驚きの声をあげた。
画廊から隔離した空間——四方をショーケースで囲まれた特別な部屋へようこそ。
ここにあるものは全ていわくつきのものばかりだから、少し閉じ込めておく必要がある。
「トテルさん……こちらを見てください。実は、これは女神マリアリア様が降臨した際に描かれたとされる天才画家ノウ・ハウハウ氏による『女神降臨』の絵画です」
「ほ、ほおー。かなり興味深いですな……それにしても、この禍々しい雰囲気は?」
「気がつきましたか……この絵画の中には魔物が閉じ込められていると言われているんですよ。よく見てください。空に描かれた女神マリアリア様の下方——地面に、ミノタウロスがいるでしょう」
「なんと!?ここに、ミノタウロスが封印されていると言うのか!?」
「ええ、なんでも画家の天才は封印魔法の天才でもあったそうですよ。彼の作品には必ず一体以上の魔物が封印されている、などと噂されていますね……ハハハ」
「そ、そんなこと聞いたこともありませんぞっ!」
大司教——トテル・スクレプスは脂肪の塊と化した身体を後ろに引いた。
まあ、当然、怪しむよな。
それでも証拠を示すことなんて容易い。
「実は魔物が封印されているかどうかを見極めるのは簡単なんですよ」
「ほお……」
「さあ、見てください!ミノタウロスへと魔力をこめると——」と俺は手を伸ばして、僅かな魔力を絵画へと込めた。すると、一瞬、絵画が発光した。
「ほら、このように魔石が取り出せるんです」
紫色の魔石が絵画からこぼれ落ちるように、出現した。
そして、俺の掌サイズの特大の魔石がポトンと乗っかった。
「な、なんと言うことかっ!?」と言って、デブは絵画を覗き込んだ。
ふん、ここで最後のダメ押しだ。
「この絵画からは適切に魔力をこめるとこうしてミノタウロスの魔石が半永久的に生成されるんですよ」
「——っ!?」とデブの血走った瞳が絵画に釘つけられている。
「この絵画は、教会が所有するべきでしょう。私からお譲りさせていただきたい——」
「そ、それはなんと信心深いっ!」
「ですが!見ての通り、かなり希少価値の高い作品になりますので、流石にタダでお譲りするのは……」
「い、いくらだっ!?」
デブは、やや興奮したような声を上げた。
「そうですね……金貨1万枚、これでどうですか?」
「ば、ばかな!?そんな大金用意することなんて——」
「あーそれならば、この作品の本当の価値がわかる別の方にお譲りすることにしますね……」
「ま、待ってくれっ!少し考えさせてくれ!」
「いいえ、残念ながらそれは難しいですね」
「なぜだ!?」
「いやー実はですね、すでに先約がいらっしゃるんですよ」
「なんだとっ!?誰だそいつは!?」
「いやいや流石にお教えすることはできませんよ……ただし、あなたと同じ教会の人間とだけとはお伝えしておきます」
「——っ!?」
「わかりました、仕方ないですね……」
俺は申し訳なさそうに謝った。
すると、デブは何かを閃いたかのように声を上げた。
「そ、そうだっ!ジョン殿!でしたら提案がありますぞっ!ワシの全財産……前金で金貨1000枚を渡すっ!残りは、毎月、西方地区の寄付金——」
デブは俺に裏取引を持ちかけてきた。
前金で金貨1000枚は用意できるのか。
こりゃあ、フランから聞いていた情報通り、教会以外からも収入を得ているのが確定したな。
「……いいでしょう。私も少しでも女神様に協力したいので、是非とも有効にお使いください」
「ジョン殿、なんと信心深いお方か!そうでしたか!わかりました!そういうことでしたら、私の方で寄付の申請書を記載しておきましょうとも!ガハハハ」
気色の悪い笑い声をあげたデブは、即金で金貨100枚を俺へと差し出した。
俺はデブへと絵画とそれとともに一般人でも魔力を生成することができるマジックアイテムを渡した。
そして、デブは終始気色の悪い笑みを浮かべたまま帰っていった。
▲▽▲▽▲
深夜。
西方地区の管轄をしている西方地区本部の一室。
青白い月の光が窓から差し込み、薄暗い室内を青白く照らしていた。ゆらゆらと蝋燭の光が一つ揺れている。
すでに教会の離れに住み込みで暮らしている敬虔な信徒たちは寝静まっている。その中で人の気配が一つあった。
巨体な人影——トテル・スクレプスは笑みを堪えていた。
テーブルの上に置いてあるマジックアイテムへと左手を伸ばした。単なる人間でも魔力を発生させることができる装置だ。
そして、脂肪で包まれた右手を絵画へと伸ばした。
「さあ、魔石よ……現れよっ!」
絵画が発光して、魔石が絵画の中から産み落とされた。
ポトンとカーペットの上に落ちた紫色の光沢のある塊は、月光を乱反射させた。
「……美しいっ!これが、伝説の魔物、ミノタウロスの魔石……!ふ、ふははは」
あまりにも簡単に魔石を手に入れることができて、トテルは笑い声が込み上げてきた。
その時だった。
バタバタと足音が聞こえたかと思ったら、すぐにドアが開けられた。
「な、なんだねっ!?」
トテルは何が起きたのかわからずに、焦り声をあげた。
しかし、数人の聖騎士の中から、一人前に出てきた。
猫族のやや背の小さい女——ルナード・アルジョンテは、銀色の髪をかき上げた。そして、キッと茶色の猫目を細めた。
「大司教トテラ・スクレプス!あなたを教会への反逆罪で拘束するっ!」
「——何をっ!血迷ったかっ!?私は大司教だぞ!そんなことするわけがないだろっ!」
「往生際が悪いですね?あなたが持っているものをよく見てください」
「は……?」
「そのマジックアイテムは、魔王を復活させると言われる闇魔術です」
「ば、馬鹿な!そんなわけ——」
トテルは先ほどまで触れていたマジックアイテム見ると、見たこともない形の禍々しいドクロが置かれていた。
「こ、こんなマジックアイテムなんて知らないっ!そもそも、ワシは魔力を持っていないただの人間だっ」
「何を言っているのですか、大司教……いえ、元大司教トテラ・スクレプス。あなたが闇魔術を行使したことは、あなたの手の甲に魔法陣が刻まれているじゃないですか?」
「う、うそだっ。これは何かの間違いだっ!」
「とぼけるのはもういいです……後は、裁判で聞きます」
はあ、とため息をついてから、ルナードは視線を後ろに控えている部下たちへと向けた。
部下たちはこくりと頷いて、今にでも取り乱して暴れ出しそうな巨体な元大司教を拘束した。
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