(※別視点)姉妹の決意
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リタとアリシアが消えて。アルティは椅子に座ってぼんやりとしていた。
双子。お姉ちゃんなのかな。妹、なのかな。わからないけど、でも、姉妹なのは間違いない。
姉妹がいるなんて知らなかった。でも、はっきりと顔を見た時、確かな繋がりがあるのを感じて、それがなんだかとても嬉しくて。
そして同時に、それを奪われていたと知った時に、アルティは両親を初めて軽蔑した。
今からまたお城に戻ることになる。それがとても、憂鬱だ。
「はあ……」
ため息をつくアルティの目の前に、シルフがふわりと舞い降りた。ぽすんと椅子に座り、どこか楽しげな笑顔でアルティを見つめてくる。
「おつかれ、アルティ。リタはどうだった?」
「優しい子、です。きっとお父様たちを殺したいと思っていたのに、私のために我慢してくれました」
「うん。アルティがいなければ、リタは多分ハイエルフを根絶やしにしただろうね。あの子は、敵には容赦がないから」
それを聞いてしまうと、自分の判断は間違いなかったのかと不安になってしまう。アルティから見ても、両親は救いようがなかった。邪悪しか感じなかった。殺されても文句はなかったかもしれない。
それでも、自分の両親で。そしてそれ以上に、あんなクズのために、リタに手を汚してほしくなかった。なんとなく、気に病むと思ったから。わたしから両親を奪った、ということに。
「もっと仲良くなりたいなあ……」
「あの子は精霊側だ。譲らないよ」
「分かっています……」
シルフの態度から、リタが精霊たちに愛されているのはよく分かる。リタも精霊たちに懐いていて。それが、とても羨ましい。わたしもリタと仲良しになりたいのに。
でも、これで縁が切れたわけじゃない。聖域には来てくれるみたいだから、またお話ししたいな。
「ところで、アルティ。ここからが本題だ」
シルフの真剣な表情に、アルティは居住まいを正した。こくり、と小さく喉が鳴った。
「ボクたち精霊は、君たちエルフを、特にハイエルフを絶対に許さない」
そうだろうな、と思う。先代の守護者と今代の守護者、両方に敵対して、精霊が怒らないわけがない。すでに里を滅ぼしたと言われても、アルティはきっと驚かないだろう。
もっとも、精霊たちが直接手を下すことはない、はずだ。ただ魔力の流れを遮断するだけ。たったそれだけで、里は滅びるだろうから。
「でも」
シルフの言葉に、アルティは顔を上げた。
「アルティは、別だ。リタも言ったように、君のことはボクたちも好ましく思ってる。他のハイエルフの言葉に惑わされず、ちゃんとボクたちの言葉を聞いてくれた君は」
だからチャンスをあげるよ。シルフはそう言った。
「君がエルフたちをまともにするんだ。今の大人たちはもうどうしようもない。だから今すぐにとは言わない。けれど、君たちの世代からは変えられるはずだ。それが、君の責務だ」
「わたしの、責務……」
「できるよね?」
自信があるかと言われると、微妙なところだ。けれど、少なくとも。アルティの片割れは守護者になった。そんなにすごいことをした人の姉妹だ。これぐらいできなくてどうする。
「わかりました。わたしが……エルフを、変えてみせます」
アルティがそう宣言すると、満足そうにシルフは笑った。
「ちなみに。さすがに罰ぐらいは与えるから。魔力の遮断まではしないけど、制限は受けると思ってほしい」
「当然です。ご温情に感謝します」
シルフの期待に応えるために。そしてリタを失望させないために。アルティは決意を新たに立ち上がった。
そうして、お城に戻って。
「あいつを、追え……! このままにしておけるか!」
「忌み子は殺さなければ……!」
狂ったように叫ぶ両親とうろたえる兵士たちに、アルティは心が冷めていくのを感じた。
つかつかと、父たちの方へと向かう。父もすぐにそれに気付いた。
「おお、アルティ! お前からも……」
父が何かを言うよりも先に、魔法を使う。両親を床に叩きつけ、父から指輪と王冠を奪った。
「精霊様。両親に魔法を使えなくするための呪いを」
『おっけー』
そんなシルフの声が聞こえて、そして両親の顔面に黒い幾何学的な模様が刻まれた。こうして目立つ場所に刻むあたりに精霊たちの怒りを感じられる。
「な……っ!」
父たちは狼狽してる。いい気味だ。
アルティは王冠を被り、そして臣下たちへと振り向いた。
「エルフは先代の守護者と今代の守護者を敵に回し、精霊の怒りに触れました」
ざわめくエルフたち。中には絶望して膝をついた人もいる。それらは全て自業自得なのに。
「今代の守護者、リタが見逃してくれたため、最悪の事態は免れています。けれど、精霊たちの怒りは薄れていません」
このままなら、きっとエルフの里は滅びる。それはみんなも分かっているはず。だから。
「直接の原因の王は、排除します。ここから先は、わたしが……。私が皆を導きます」
「は!」
そう宣言すると、皆がその場に跪いてくれた。アルティを認めてくれるかのように。まだ幼いアルティに従うように。
もう何も知らない子供ではいられない。まだまだ未熟だと自分でも分かっているが、そうも言っていられない。だから、アルティは皆の前で堂々と立つのだ。
「あ、アルティ……。考え直すのだ……」
「そうよ……アルティ、いい子だから……」
未だにそんなことを言う両親にアルティは冷え切った視線を向け、そして言った。
「この二人を、部屋に閉じ込めてください」
「了解致しました」
兵士たちに連れられていく両親。何かをわめいているが、もうアルティの耳には届かない。血の繋がった両親なので処刑したりするつもりはないが、王としてはもうだめだ。
ゆっくりと息を吸って、吐き出して。そうしてから、アルティは新たな王として、エルフたちに向き直った。
「世界に、精霊たちに誇れる里にしましょう」
それに異を唱える者は、誰もいなかった。
・・・・・
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