リタの裁定
アリシアさんに振り返る。知っていたのかなと思ったけど、アリシアさんは勢いよく首を振った。知らなかったみたい。
スランドイルとタイテーニアを見る。何故か、顔が真っ青だ。
ああ、そう。そうなんだ。そう、なんだ。
気が付けば。私は二人を風の塊で床に叩きつけていた。
「ぐがっ」
「あうっ」
短い悲鳴を漏らしてるけど、そんなことも気にならない。とても、とても、むかむかしてる。
『あかんやつやこれ』
『すぷらった注意報』
『いつも以上に表情が抜け落ちていて怖い』
どうしよう。どうしてやろう。ああ、でも、そうだ。その前に。
「シルフ様」
「はいはい。なにかな?」
「師匠は、仕返ししたの?」
「いや、無抵抗。結界は張ってたけど、反撃はせずに帰ってたよ」
無抵抗。そっか。つまり、無抵抗な相手に対して、攻撃したということだね。
なにそれ。
「よし、殺そう」
そう言って、杖を向けて。
間にアルティが割り込んできた。両手を広げて、立ってる。私と、あいつらの間で。ふるふると恐怖に震えて、それでも立ってる。
「どいて」
「だめ……! お願い、こんな人たちでも、わたしの両親なの……! わたしが、わたしがどうにかするから……! だから……!」
「…………」
両親。親。よく分からない。分からない、けど。
師匠が死んでしまったと聞いた時のことを、ちょっと思い出した。あの時は私も我を忘れて泣いてしまった覚えがある。すごく、すごく悲しかった。
んー……。そう、だね。アルティはとてもいい子だから、同じ思いをしてほしくない。
だから、今日はここまで。
「わかった。何もしない」
私が杖を下ろすと、アルティが大きな安堵のため息をついた。
『よかった、マジでびびった』
『マジギレしたリタちゃんはかなりの迫力でした……』
『ちびった』
『せめて我慢しろw』
怖がらせてしまったことだけは、ちょっと反省する。
「あの……。少し、お話しできない、かな? 姉妹がいるなんて知らなかったから……ちゃんと知りたいなって……」
「んー……。でも、そいつらは私に出ていってほしいみたいだけど」
スランドイルとタイテーニアに視線を向ける。未だに這いつくばったままだ。一体何をして……。あ、そっか。風の魔法、そのままだった。解除してあげよう。
解除してあげると、エルフたちが恐る恐るといった様子で顔を上げた。
「追放だっけ。いや、処刑かな? どうするの?」
「ぐっ……!」
スランドイルが悔しそうに歯ぎしりしてる。ちょっとおもしろい。
『これはいい煽り』
『統括精霊に見限られてる以上どうしようもないわなw』
『ちょっと控えめだけどいい気味だ』
これぐらいは別にしてもいいよね?
「ん。もういいか。私もここには二度と来るつもりはない。よかったね、スランドイル、タイテーニア。お互い、二度と会いたくないでしょ」
「ああ……! 二度と来るな!」
「ん。ちなみに。精霊様にはちゃんと報告するからね」
「は……? 精霊様?」
「世界樹の精霊。ボクたちの一番上だよ」
シルフ様の補足にスランドイルたちの顔色が青を通り越して土気色になった。まさか、何もないとでも思っていたのかな。
でも安心してほしい。ただの脅しで、実際に何かをしてもらうわけじゃない。ただ、何かあるかもしれないと怯え続けていればいいと思う。この先ずっと、ね。
「じゃあ、やっぱり行ってしまうの?」
そう聞いてきたのはアルティだ。えっと……。どうしよう。私もアルティのことは嫌いじゃない。お話しぐらいはいいと思うけど……。でもここはだめだ。私ももうここにはいたくないから。
どうしようかなと思っていたら、シルフ様がそれなら、と提案してくれた。
「森の中心部に来るといい。ボクの今の住処で、エルフたちは誰も入ってこれないよ」
「聖域に……!? いいんですか!?」
「いいよいいよ。アルティはボクの言うことを聞いてちゃんと育ってくれたからね」
なるほど。やっぱりアルティにいろいろ吹き込んだのはシルフ様だったみたい。スランドイルたちもそれに気付いたみたいだけど、何も言えないのか顔を憤怒にゆがめている。
気持ちは分からないでもないけど……。精霊に対して勇気があるな、とはちょっと思う。
シルフ様は何も気にしないだろうけど。精霊からすれば、やっぱり気にする価値もないことだから。
「それじゃ、行こうか。そっちの、アリシアだっけ? 来る?」
「是非」
というわけで、シルフ様の案内でみんなで移動することになった。
「お待ちください! せめて護衛で兵士を……!」
「何の護衛? ボクがアルティに手を出すと?」
「い、いえ……! そんなことは……!」
「あっそ。じゃあいいでしょ」
兵士さんには悪いけど、アルティはちゃんと無事に帰してあげるから放っておいてほしい。
改めて。シルフ様の案内で、森の奥に向かった。
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