スランドイルたちの癇癪

「は……?」


 スランドイルが固まった。タイテーニアは怪訝そうにしてる。気付いてないのかも。こいつらからすれば、すでに死んでるだろうと思ってるから、かな。


「久しぶり。お父さん。お母さん。精霊の森はとても楽しかったよ」

「……っ!」


 そこで、気付いたらしい。すぐさまスランドイルとタイテーニアが杖を構えた。なるほど、魔法使いとしては、それなりに優秀なのかもしれない。

 まあ、無駄だけど。すぱっと風の刃で二人の杖を真っ二つにしておいた。ついでに防音の魔法陣も。ちゃんと娘にも聞かせてあげないと、ね?


「まさか、貴様……!」

「ん。あなたたちが捨てた子供。残念だったね、いない者として扱ってきたのに、まだ生き残っていて」

「何をしている! そいつを殺せ!」


 スランドイルが叫ぶと、すぐに兵士が反応した。剣を抜いたり、杖を構えたり……。とりあえず、兵士を風の塊で押しつぶした。殺さない程度に加減して、そのまま押さえつける。そこでおとなしくしていてほしい。


「何を……!?」

「諦めた方がいい。言ったはず、優秀な魔女だって」

「アリシア! 貴様、分かっていて連れてきたのか!」

「もちろん」

「貴様あ!」


『めっちゃキレてるwww』

『さっきまでの威厳はどこいったw』

『きゃーこわーいwww』


 なんだかすごく怒ってるね。ちょっとおもしろい。


「あ、あの、お父様? お母様? これは、どういう……? その子、わたしと同じ顔じゃ……」

「黙っていなさい、アルティ!」

「何も気にしなくていいのよ! すぐにいなくなるから!」


 いや、いなくならないよ。せっかく来たんだから、言いたいことは言って帰る。それに、アルティに黙ってるのも不公平じゃないかな。私はそう思う。だから。


「初めまして、アルティ。私はリタ。あなたの双子の片割れ」

「え……?」

「よせ! 聞くなアルティ!」

「黙りなさい忌み子!」


 今更黙っても遅いと思うけど。アルティも、もう察したみたいだから。信じられないものを見るような目で私を、そして両親を見てる。


「お父様? お母様? わたしに、姉か妹がいたのですか?」

「そんなわけがないだろう!」

「あれは無関係の子よ!」

「じゃあどうして、同じ顔なんですか?」


 スランドイルたちが言葉に詰まった。それが答えだって言ってるようなものなのにね。

 アルティは、とても複雑な目で二人を見てる。失望と、諦観と、あとは怒り、かな? そんな色がある、気がする。


「不思議」

「え? えと……お姉様? それとも、妹……?」

「どっちが先かまでは知らない。それより、不思議。アルティはハイエルフらしくない」


 ハイエルフと物心ついた時からずっと一緒にいたのなら、その考え方もハイエルフらしくなると思う。双子で銀髪が忌み子というのは、ハイエルフでは知っていて当然だ。

 もちろんアリシアさんみたいな例外もいるけど……。むしろアリシアさんも不思議だよね。どうしてそんな考え方になったのか。

 ちょっとだけ疑問に思っていたら、アルティが教えてくれた。


「わたしは、精霊様とよく会うの」


 精霊様。私が言う世界樹の精霊のことじゃない、はず。多分、この森に住む精霊を精霊様と呼んでるんだと思う。統括精霊とかもいるはずだから。


「精霊様に忌み子の話は聞いていて、その文化は悪いって聞いていたからお父様たちにもどうにかしないといけないって伝えていたのに……」

「いや、それは……」

「まさか、当事者だったなんて」


 アルティの目は、心底軽蔑した、と言いたげに冷たいものだった。

 アルティの考え方は精霊の誰かが教えたみたい。もしかしたら、アリシアさんもどこかで精霊と会って話をしたのかな。

 アルティはそれをスランドイルたちにも話したみたいだけど……。私でも無駄だと思う。長い年月をかけて定着した固定観念だから、もうどうしようもないよ。

 スランドイルはアルティから視線を逸らし、私を睨み付けてきた。


「おのれ……! やはり忌み子ではないか……!」


『ここまで見事な責任転嫁はなかなかないぞw』

『なんかいい加減見てるこっちも腹立ってきたんだけど』

『もう聞きたいことは聞けたし、帰ろうぜ』


 それもそうだね。アルティがいれば、エルフの里は少しずつ変わっていくかもしれない。だから、うん。様子見にしよう。正直今すぐ殺したいけど、それもまたやっぱり忌み子だって言われそうで、またいらいらしちゃいそうだから。

 それじゃ、もうさっさと帰って……。


「そうか! あの人族が言っていたのは、貴様だったのか……! おのれ、あの忌々しい人間め! 余計なことをしおって……!」

「どれだけエルフの邪魔をすればいいのあいつは! 本当に死んでいればいいのに……!」

「…………」


 ああ、うん……。うん……。うん。


「ふふ」


『ヒェッ』

『待ってリタちゃん笑ってるけどこわいこれこわい』

『やばいこれマジギレしてるってどうすんだこれ!』


 もう放って帰ろうと思ったけど、だめだこれ。私の気が済まない。師匠をこんなに悪く言われて、はいそうですかと帰ろうと思えない。

 ああ、どうしよう。どうしてやろう。


「何をしている! 出ていけ忌み子! 国外追放だ! 二度とこの森に立ち入ることは許さぬ!」

「そうよ! 出て行きなさい! 二度と来ないで!」


 別にいいけど、気付いてる? アルティの視線に。軽蔑なんて目じゃなくなってる。気持ち悪い虫を見る時でもあんな目にはならない。害虫以下になってるよ。


「追放。別にいいけど、どうやって追い出すの? みんな、こんなに弱いのに? 嫌がるなら居座るのも悪くない」


 結構な嫌がらせになるかも。常に目に入るところにいてあげようかな。自分に防音の魔法をかけて罵声を聞こえないようにして、のんびり読書。ちょっと陰湿かな?

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