スランドイルとタイテーニア
『つまりなんだ? 国のトップがリタちゃんを捨てたってことか?』
『もう救いようがないのでは』
『燃やそう』
結論が早いよ。
「アルティ。これから謁見に行く。あとで話をしてあげるから」
「はい! 約束ですよ?」
アルティはそう言うと、笑顔で手を振って離れていった。
うん……。アルティは、悪い子じゃないと思う。良くも悪くもとても純粋な子だ。私がここで暮らしていたら、お姉ちゃん、なんて呼んで追いかけたりしたのかな?
もしくは、呼ばれて追いかけられて、かも? わからないけど。
でも。それは、仮定にすらならない話だ。
「アリシアさん、すごく懐かれてたね」
「不思議。少し前に帰ってきた時が初対面だったのに。旅の話をしてあげたら、懐かれた」
『ずっと森に住んでる子からすれば、森の外の話なんて貴重な話だろうからな』
『娯楽なんて少ないだろうし、懐かれるのは当然』
『ほんとかわいい子だったな』
何かが違えば、仲良くなれてたのかもしれないね。
気を取り直して、階段を上って。そうして、大きな扉の前にたどり着いた。
「ここが、謁見の間。人族のお城みたいな場所じゃないけど、一応は謁見の間だから」
「ん」
先導の兵士さんがノックして、扉を薄く開ける。中の人と小声で少し会話をしてから、私たちに向き直った。
「どうぞ。準備はできているそうです」
「ん」
兵士さんが扉を大きく開けて、私とアリシアさんは部屋の中に入った。
謁見の間は、ちょっと豪華な部屋だった。さすがに人族のお城ほどではないけど、エルフの里にしてはすごい方だと思う。床とかさっきまでむき出しの木だったのに、この部屋だけとても綺麗な石を切り出して敷き詰められてる。壁には旗もかけられていた。
部屋の奥には、大きめの椅子が二つ。男の人と女の人が座ってる。その側に、さっき離れていったアルティもいた。謁見と聞いて慌てて戻ったのかも。
『あの男と女がリタちゃんの両親か?』
『なんか面影があるような、ないような』
『ぶっちゃけよくわからん』
見た目ですぐには分からないと思う。
アリシアさんが先に歩いて、私は少し後ろを歩く。
男の方は、短めの金髪に華美な服。瞳は濃いめの青色、だね。地球の人からすると、多分イケメンとかかっこいいとか、そういう評価になる人だと思う。
女の方は、腰まで届く長い金髪に整った顔立ち。こっちも華美な服だ。ドレスだけど。綺麗な人になるんだと思う。
アリシアさんが立ち止まったので私も立ち止まる。すると男が口を開いた。
「よく戻った。アリシアよ。その者が先日の話にあった客人か?」
「そう。リタ。挨拶」
「ん……。初めまして。隠遁の魔女、リタです」
「うむ。エルフの王、スランドイルだ」
「わたくしは王妃、タイテーニアです」
スランドイルと、タイテーニア。それが、名前。ふうん。
『名前だけは立派っすね』
『クズにはもったいない名前だ』
そこまでは……思ってる、かな……。
「魔女殿は人族の間では高名な魔女だと聞いている。優秀な魔法使いなら歓迎させていただこう。我らの国にも優秀な魔法使いがいる故、魔法談義でもするといい」
「それよりも、聞きたいことがある」
そう言うと、周囲の人の表情が険しくなった。兵士さんとか、その人たち。敬語じゃなかったからかな? 心が狭いね。
スランドイルも少しだけ不愉快そうにしてたけど、すぐに気を取り直したみたいだった。
「ふむ。そういえばアリシアがそのようなことを言っておったな……。許す。申してみよ」
「ん。以前、人族の男の人が来たと思う。その人も優秀な魔法使いだった。覚えてない?」
「ふむ……。人族の客人は少ない方だ。しばし待て」
スランドイルはそう言うと、思い出すように視線を上向かせた。あまり記憶に残ってないみたい。タイテーニアも同じ感じだったけど、アルティはあ、と小さく声を上げた。
「お父様。黒いローブの方ではありませんか? わたしはあまりお話を聞けませんでしたけど、そのような人が来ていたのは覚えています」
「む……。ああ、あやつか。確かにいたな。確か、名は……。コウタ、だったか?」
ああ、やっぱり……。師匠は、ここに来てる。どうしてかは分からないけど、師匠は間違いなくここに来た。私の両親に会うために。
「その人は、私の知り合い。行方不明になっていて、その足跡をたどってる。何の話をしていたのか教えてほしい」
「む……」
スランドイルは少し迷っているようだった。少し、いやかなり不愉快そうに眉をひそめてもいる。スランドイルにとって、あまりおもしろくない話らしい。
スランドイルは何も話そうとしなかったけど、私もアリシアさんも動かずに待っていたら、やがて大きなため息をついて口を開いた。
「タイテーニア」
「はい」
タイテーニアが小さな紙を取り出す。描かれていたのは魔法陣。防音の魔法陣で、その防音の膜がアルティを覆った。アルティはきょとんとしてる。聞かれたくないこと、らしい。
そうしてから、スランドイルが言葉を続けた。
「わけのわからんことを言っておったよ。なぜ銀髪のハイエルフを捨てたのか、その理由を聞いてきおった。そんな者、いるはずがないというのに」
「いないの?」
「いるわけがなかろう。もしそんな者が生まれたとしても、不吉の象徴だ。処分するに決まっているだろう。まるでそんな者がいるかのような言葉であまりに不愉快だった。妄想に取り憑かれていたのだろうな。追放してもう二度と立ち入らないように命じてやったわ」
次に、タイテーニア。
「本当に気分を害されたものです。それにしても、行方不明ですか。死んでいればいいのですけど」
そうして、周りの兵士たちも笑った。
『なんで師匠さんそんなこと聞いたんだ?』
『リタちゃんが捨てられた原因を調べてたのかも。忌み子とか知らなかっただろうし、何かの手違いならリタちゃんを帰らせるつもりだった、とか?』
『いくら考えても答えなんて俺らにゃわかんねえさ』
そう、だね。師匠の真意は分からない。ただやっぱり、この人たちにとって、私は存在していないものとして扱われてるみたい。
気分は良くないけど……別にいい。私としても、こんなやつら、どうでもいいから。
でも、師匠を悪く言った。妄想に取り憑かれたとか、死んでいればいいとか……。ああ……。
とても。とても、不愉快だ。
気持ちを落ち着かせるのに、ゆっくりと深呼吸。それでもいらいらしてしまう。ここまで人を殺したいと思ったのは初めてかもしれない。
息を吸って、吐いて……。何度か繰り返して、ようやく落ち着いてきた、と思う。
それから、フードを取った。
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