片割れの子


 そうして、翌日。今日はついに両親に会う日だ。とりあえず、間違って手を出さないように気をつけないと。


「リタ。目が少し怖い」

「大丈夫。私は冷静。大丈夫」

「大丈夫な人は繰り返し言ったりしない」


『どう見ても自分に言い聞かせてるよな』

『がんばれリタちゃん落ち着けよ……!』


 大丈夫だよ。うん。きっと大丈夫。

 アリシアさんと一緒に里の奥へ。人族の王都みたいにお城があるわけじゃないけど、他の木よりも大きな木を家にしてるみたい。明らかに太い木が増えてきて、そこを家にしてるから。

 それにしても、本当に大きな木だ。世界樹ほどではないけど、一般的なお家ならすっぽり入ってしまう太さがある。

 でもこんなにくりぬいたりして、木は大丈夫なのかな。


「木は大丈夫? 倒れたりしない?」

「そこは共存関係。精霊たちが木が死んでしまわないように手助けしてる」


 エルフは木から住処を受け取り、木はエルフを経由して精霊に保護してもらう。そういう共存関係、らしい。


『木がかわいそうだと思うんだけど、保護してくれるならむしろいいのか?』

『木の声なんて聞こえないからわかんねーな』


 精霊たちが許してるなら、多分大丈夫だと思う。

 しばらく歩き続けてたどり着いたのは、この森で一番太い木。本当に一番太いかは分からないけど、少なくともエルフたちはそう思ってるらしい。

 その木の根元に入り口があって、エルフが二人、見張りをしていた。兵士さん、かな? 鎧とかは着てないけど、杖は持ってる。

 兵士さんはアリシアさんを見ると、さっと姿勢を正した。


「これは、アリシア様! ようこそ!」

「王に会いたい」

「はっ! 伺っております。どうぞこちらへ」


 兵士さんが先導してくれるのに従って、アリシアさんが続く。私もついていこうとしたところで、もう一人の兵士さんが体を割り込ませて止めてきた。


「待て。誰だ貴様は」

「ん……。リタ。隠遁の魔女」

「人族が何用か」


 いやエルフだけど。フードを被ってるから分からないのは仕方ないけど。


「その子は私の客人。無礼は許さない」


 そっと、アリシアさんが剣を抜いて兵士さんの首に当てた。固まる兵士さんと、おろおろする先導してくれてた兵士さん。兵士さんたちは仕事をしていただけだから、さすがにちょっとかわいそうだと思う。


「アリシアさん」

「リタ。どうする?」

「この人はちゃんと仕事をしていただけ。とても優秀」

「わかった」


 頷いて、アリシアさんが剣を納めた。兵士さんがゆっくり息を吐いて、私に勢いよく頭を下げてきた。


「失礼致しました……。どうぞ、お通りください」

「ん。ごめんね」

「いえ……」


 兵士さんに小さく頭を下げて、アリシアさんの隣に立った。


『ちょっとちびりそうになりました』

『アリシアさんの目がマジギレ寸前でしたね……』

『もしかしてアリシアさん、かなり不機嫌?』


 アリシアさんもこの里はあまり好きじゃないって言ってたから、不機嫌なのはそうだと思う。私もあまり気分がいいわけじゃないから。

 でもさっきの兵士さんは、ちゃんとがんばってる人。怒るのはだめだ。

 改めて、また少し歩く。階段を四回ほど上がる。階段が多い気がするけど、お城と違って横はあまり広くないから、こういうもの、なのかな。


「まだ?」

「階段をもう一つ」

「ん……」


 さすがにちょっと、面倒だね。

 そう思っていると、歩く先が少し騒がしいことに気が付いた。なんだろう?


「お待ちください!」

「姫様! いけません!」

「誰か姫様を止めて!」


 その声の直後、廊下の先から誰かが走ってきた。

 十歳ぐらいの見た目の女の子。ハイエルフらしい明るい金髪の子だ。質素な服を好むエルフにしては珍しく、ちょっとだけ豪華な服を着てる。

 そして。私にうり二つだった。


「おばさま!」


 その子が、アリシアさんに抱きついた。


「アルティ。また抜け出したの?」

「おばさまが帰ってきてるって聞いて、お迎えしようかなって!」

「そう。ありがとう」


 アリシアさんがその子、アルティの頭を撫でる。アルティは幸せそうに微笑んだ。

 アルティ。アルティレイア。そっか。この子が、私の、片割れ。


『マジでリタちゃんそっくりやん』

『髪の色が違うんだから一卵性ではないはず、と思ってたけど、やっぱりエルフだとなんか違うんか?』

『金髪リタちゃんかわええ』


 さすがにその言い方はかわいそうだと思う。

 アルティは次に私を見て、小首を傾げた。


「あら? そちらの方は?」

「私の知り合い。隠遁の魔女。リタ」

「まあ……! おばさまが話してくれたすごい魔法使い様ね!」


 アルティはアリシアさんから離れると、こほんと咳払い。そうしてにこりと微笑んだ。


「初めまして。わたしはアルティレイアです。エルフの里の第一王女に当たります」

「ん……。隠遁の魔女、リタ。よろしく」

「はい! よろしくお願いします!」


『まって?』

『なんかさらっと流れてるけど、姫? 第一王女?』

『え? リタちゃんのお父さんって、里の王様なん?』


 そうらしい。偉い人だとは分かってたけど、私も王様だとは思わなかった。

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