エルフの里のごはん
エルフの里の家は、大きな木を利用したものだ。大きな木の中をくりぬいたりしてある程度の空洞にして、そこに住処を作ってるみたい。
家になってる木と木の間には橋もかけられていて、移動には便利そう。あとはいくつか、普通の家もある。枝を足場にして、だけど。
『おー……。まさにエルフの里って感じ』
『アニメや映画に出てきそう』
『これは燃やしがいがありますねえ!』
「いや、燃やさないから」
さすがにそこまではしない。エルフはどうでもいいけど、他の木がかわいそう。
「燃やすのならせめてエルフの里だけにしてほしい……」
「燃やさないよ」
私のつぶやきを聞き取ってしまったのか、アリシアさんがそう言ってきた。心配しなくても燃やしたりしない。本当だってば。
アリシアさんが先に里に入って、私も続けて入る。もちろんフードは被っておいた。忌み子というだけで追い出されかねないから。その時は無理矢理通るだけなんだけど。
少し歩くと、すぐに里の人が集まってきた。緑や金の髪のエルフたち。普通のエルフだね。
「おかえりなさいませ、アリシア様!」
「今回はとてもお早いお帰りでしたね!」
「アリシア様! また旅の話を聞かせてください!」
そんな言葉。アリシアさんはエルフの里では人気者らしい。ただ、アリシアさんはどこか複雑そうな表情だ。
「後でね。私の客人を連れていかないといけないから」
そう言って、アリシアさんは私の手を引いて歩き始める。逃げるように、小走りで。
「どうしたの?」
「あまり好きじゃないだけ。昔は、里を出た私を変わり者として見てきた連中だったから」
「ああ……」
何かがきっかけで変わったらしい。何がきっかけなんだろう。そう思っていたら、すぐにアリシアさんが教えてくれた。
アリシアさんが里を出た時、当時の王が里を出た変わり者と言ったために、そのイメージが定着してしまったらしい。
でもアリシアさんはとても強くなって戻ってきた。それこそ、たった一人でエルフの里を壊滅させることができるほどに。
だから王様は態度を変えた。いつ戻ってきても歓迎すると。それを他のエルフにも伝え、エルフたちはそれに従ってるらしい。
アリシアさんは、そんなエルフたちもあまり好きじゃないみたい。彼らが悪いわけじゃないとは分かっていても、最初のイメージがずっとあるから、だって。
「まあ私の話はどうでもいい。面会の予約をしてくるから、まずは私の家に行こう。そこで待っていてほしい」
「ん……。あいつら忙しいの?」
「忙しく見せたいんじゃない? 正直、長い間あの人たちの仕事に関わってないから、少し分からない」
「そう」
それは仕方ないかな。アリシアさんのお家は興味あるし、言う通りにしておこう。
そうしてアリシアさんが案内してくれたのは、エルフの里の奥にある家。ちなみに里の奥だからって何か変わったことがあるわけじゃない。お家もやっぱり木を利用しているから、人族の街みたいに豪邸があるわけでもない。ただ、場所が奥だと立場も上になるみたい。
アリシアさんのお家も木の中にある家だった。ただあまり家に帰らなくて必要としないからか、広くはない。ベッドとテーブル、椅子しかないこぢんまりとした部屋だ。でも、埃とかはなかった。
「一応、私もハイエルフだから。毎日エルフの誰かが掃除してくれているらしい」
「へえ……」
『仮にも王族の居室だと考えれば、掃除が入るのは当たり前かな?』
『年単位で帰ってこないのに毎日掃除ってかなり無駄そうだけどなw』
『せめていつ帰るか事前に言ってくれとか思われてるんじゃないかなw』
それは、ちょっと思われてそう。いやでも、エルフたちは結構ハイエルフに従順みたいだから、何も考えずにやってるのかもしれない。
「客人がいることは伝えたから、お昼ご飯は持ってきてもらえるはず。もし気に入らなかったら、食べなくてもいい」
「ん」
「それじゃあ、後で」
そう言って、アリシアさんは出て行ってしまった。
少しして。アリシアさんが言った通り、お昼ご飯が運ばれてきた。
持ってきたのは、エルフの男の子。私と同年代ぐらいに見える。男の子は魔法でたくさんの果物やお肉を浮かせていた。
「お待たせしました。お食事です。アリシア様は外出でしょうか?」
「ん。テーブルに置いておいてほしい」
「わかりました」
男の子は木の実やお肉をテーブルに並べて帰っていった。
さて……。ご飯だ。
「おいしそう」
『あれ? リタちゃん食べるの?』
『エルフが用意した食べ物は食べないのかと』
『ばかやろう! リタちゃんが食べ物を粗末にするわけないだろ!』
『食いしん坊魔女だぞ!』
何か言い方が引っかかるけど、食べ物は普通に食べるよ。捨てるなんて、もったいないから。
お肉はステーキみたいに平べったく切られてる。ただし生肉だけど、これは多分ほとんどの人が魔法を使えるから。エルフは人族と違って、魔法に適性のある人が多いからね。
アイテムボックスからフライパンを取り出して、フライパンを熱してからお肉を焼いていく。ちなみにこのフライパンは日本で購入したものだ。とても便利。
焼いている間に木の実も食べてみる。木の実は、栗みたいな皮を剥いて食べるものと、あとはリンゴみたいな果物、そして小さいつぶつぶの果物。このつぶつぶはちゃんと洗えば皮ごと食べられるはず。
木の実は……悪くない、かな? ほんのりとした甘さがある。そんなに強い甘みじゃないから、おやつに持っておけばずっと食べ続けるかも。
リンゴみたいなのは、甘みが強め。ただこれは、水分がとても多いみたいで、食べた瞬間に果汁であふれた。でも日本の果物と比べたら、やっぱり控えめかも。
つぶつぶの果物の方はかなり酸っぱかった。お口直し用かな?
三種類をしっかり味わった頃に、お肉が焼けた。お皿にうつして、食べてみる。んー……。
「結構美味しいかも。柔らかいお肉だね」
『食べ物は合格ラインかな?』
『何の採点だよw』
『赤点の場合は森が燃えます』
『ヒェッ』
だからやらないってば。
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