エルフの里観光

 そうして食べ終わった頃に、アリシアさんが戻ってきた。なんだか少し疲れたような顔だ。

お肉を焼いてあげよう。


「ただいま……」

「ん。おかえり。お肉焼いてあげる」

「ありがとう……」


 椅子に座って、ため息をつくアリシアさん。よっぽど疲れたみたいだね。


「何かあったの?」

「何もなかった……。ただただ待たされた……」


『あー』

『人気の病院とかでもあるけど、ただ待つだけって何故か疲れるよね』

『忙しいのかね?』


 どうなんだろう。正直、やることがあるようには思えないんだけど。


「ん。焼けた」


 アリシアさんにお肉を渡して、私はお菓子を食べる。まだまだ足りないから。

 今日のお菓子は細長くてとても長いグミ。ちょっと食べにくいけど、面白いお菓子だと思う。ラーメンみたい、とは言えないけど、吸って食べたりもぐもぐ食べたり、なかなか楽しい。


『ヒモグミだ!』

『子供に最適なお菓子』

『他のお菓子よりも安くて買いやすいのがいい』

『わかるw』


 真美もそんなことを言っていた覚えがある。安いけど美味しいって。

 ヒモグミを食べていたら、アリシアさんがじっと見ていることに気が付いた。いつの間にかお肉も木の実も食べ終わってる。アリシアさんもまだ足りないみたい。


「アリシアさんも食べる?」

「もらう」


 アリシアさんにもヒモグミを渡してあげると、興味深そうにつまんだりした後、食べ始めた。恐る恐るといった様子で少しかじって、その後はあっという間に食べてしまった。

 気に入ってくれたみたいで、私もちょっと嬉しい。


「美味しかった。それじゃあ、リタ。明日だけど」

「ん」

「明日はお昼前に会いに行くことになった。朝ぐらいには準備しておいてほしい」

「わかった」


 やっぱり明日みたい。一日待つのは面倒だけど、急ぐ必要もない、かな? せっかくだから、エルフの里を見て回ろう。アリシアさんにお願いすれば、案内してくれるかな?


「アリシアさん。里を見て回りたい」

「いいけど……。興味があるの?」

「ん。生まれてすぐ捨てられたから、里の中はあまり知らない」

「…………」


『改めて口にされるとホントクソ』

『やっぱり燃やす前にちゃんと知っておきたいよね!』


「いい加減にしつこい」


『ごめんなさい』


 そんなに燃やしてほしいのかな。わざわざ燃やす手間がもったいないと思うんだけど。

 アリシアさんは少しだけ視線を上向かせて、少し考えて、そうしてから頷いてくれた。


「わかった。いいよ」

「ん……。間があったね」

「案内するような場所があったかなって……」

「ええ……」


『悲報、エルフの里に名所なし』

『あの里の様子が観光名所だな!』

『一泊する前に満足しそうw』


 草津温泉と比べると雲泥の差だね。ここを旅行に選んでもすごく退屈しそう。

 グミを食べ終えてから、アリシアさんのお家を出発。まず案内してくれたのは、里の外側だった。


「この森は木の実とかいろいろと豊富。春から秋にかけて、食べ物に困ることは少ない」

「おー」


 アリシアさんが適当な木を軽く揺らす。するとすぐに木の実が一つ落ちてきた。こんな感じで、食べ物はわりと簡単に手に入る環境らしい。

 ただ当然ながら、それ故に外敵も多い。たくさんの動物が生息してるから、森の恵みを取り合うことになるんだって。

 精霊の森もそんな感じだね。あっちは魔力がたくさんあるせいで、争いがいつも大事になるけど。


「冬はどうしてるの?」

「保存食を作ってる。こっち」


 次に案内してくれたのは、里に入って少し歩いた場所にある小屋。その小屋の中では、保存食が作られてるらしい。ただしエルフ以外は入れない。秘密の製法なんだとか。

 私もエルフだけど、今はアリシアさんの客人として招かれてる。多分人族と思われてるだろうから、ちょっと入れないと思う。残念。


「保存食は美味しいの?」

「…………」

「なんでもない」


 アリシアさんの苦い表情が全てを物語っていた。まずいんだね。


『味を追求してるわけじゃないから仕方ない』

『缶詰とか作れるなら、味も結構こだわれるんだけどな』

『現代に生まれていて良かったとちょっと思う』


 缶詰、いいよね。カレーの缶詰もあるみたいだし。缶詰のセットとか買ってみるのもいいかも。

 次に案内してもらったのは、ハイエルフの住居の入り口。ただあんまり変わってなくて、里の入り口にあるような柵がまたあるだけ。一応門番さんもいるみたい。


「ここから先でハイエルフが住んでる」

「ん……。アリシアさんは違うの?」

「家族がうるさくてこっち側の家を使ってた」

「なるほど」


 私も捨てられなかったら、同じことをすることになっていたのかな。そもそも捨てられないという仮定がすでにあり得ないことだけど。師匠と出会えなくなるからむしろ捨ててほしい。


「さらに奥に、聖域と呼ばれる場所がある。魔力が濃い場所で、上位精霊がいる、らしい」

「ふうん……。あとで行ける?」

「今日は難しいけど……。明日以降なら、無理矢理行けばいいんじゃないかな」

「そうする」


『それでいいの!?』

『まあ明日両親と会えば間違いなくもめるだろうし』

『もめた後は適当に暴れて行けばいいってことだね!』

『マジで心配するけど燃やさない……?』


 私もちょっと不安になるからやめてほしい。燃やさないよ。多分。

 それ以上はもう見るものもないらしくて、アリシアさんのお家に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る