ふぁいなるじゅなんつー
「んー……」
お日様の光が眩しくて、私は目を覚ました。
持ってきておいた毛布をよけて、体を起こす。周りはいつもの森の中。畳の上でのお昼寝中だった。最近のお気に入りだ。
『リタちゃんおはよー』
『かわいい寝顔でした』
『マジで丸くなってお昼寝してて猫なんよ』
猫じゃないよ。
毛布を丸めてアイテムボックスに入れる。時間は……太陽の位置からすると、お昼前ぐらい。そろそろ王都のギルドに行こうかな?
今日はアリシアさんと会う日だ。アリシアさんからの呼び出しだから、エルフの里に関することだと思う。別れる時に行ってみたいって話しておいたから。
正直、そこまで行きたいわけじゃないけど……。師匠の目的地がエルフの里だったみたいだし、やっぱり何をしに行ったのかは聞いておきたい。
師匠が戻ってきてから聞いてもいいかもしれないけど、話してくれない気がするから。
「それじゃ、王都に行きます」
『あいさ』
『気をつけてなー』
『気をつけるのはギルマスさんでは……?』
『逃げて! ギルマスさん超逃げて! 手遅れだろうけど!』
『おいw』
きっと大丈夫、だと思う。多分。
王都に転移して、向かう先はそのギルド。フードを被ってギルドに入ると、受付さんがすぐに気付いて挨拶してくれた。
「いらっしゃいませ、隠遁の魔女様。ギルドマスターがお待ちです」
「ん」
受付さんに見送られて階段を上る。そうしてギルマスさんの部屋の扉を開けると、怒鳴り声が聞こえてきた。
「なぜ! いつもいつも! わしの部屋で密談するのじゃ!」
「うん。防音とか防犯とか、ここは一番最適だから」
「そうか! じゃあわしはいらんな! どれ、ちょっと休憩がてら外食でも……」
「ギルマスがいないのに私たちだけいるのもおかしい。だから許可しない」
「クソがあ……!」
うん……。全然大丈夫じゃなかった。
「うわあ……」
『うわあ……』
『リタちゃんと視聴者全員の心が一つになった瞬間である』
『これはひどいwww』
もう帰った方がいい気がしてくるよ。
でも扉を閉める前に、アリシアさんに気付かれてしまった。私を見て、ほんのり笑顔を浮かべて手招きしてくる。仕方ないから入ろう。
「お邪魔します」
私が部屋に入ると、アリシアさんに隣の席を勧められた。どこでもいいからそこに座る。ギルマスさんは自分の席でお腹をおさえてる。お腹痛いのかな?
『お労しやギルマスさん』
『もうやめて! ギルマスさんのライフはもうぜろよ!』
『君が! 泣くまで! 密談をやめない!』
『鬼かお前らw』
私はもう他の場所でもいいと思うんだけど……。でもアリシアさんはここの方が都合がいいみたいだし、ギルマスさんには我慢してもらおう。
「改めて。久しぶり、リタ。元気そうでよかった」
「まだ一ヶ月も経ってないよ」
「寂しかったから久しぶりだと思う」
「お前は本当に冒険者か……?」
ギルマスさんの指摘に私も頷きたい。隣の国に行くのにも大変だから、多分年単位で会わないとかよくあることだと思う。
アリシアさんは私が転移できるって知ってるからこその反応かもしれないけど。
「それよりもアリシアさん。用件は?」
「うん。エルフの里に行ってきた」
「おい待て。それ、わしは聞かない方がいいやつじゃろ!?」
「私とギルマスの仲だから大丈夫」
「大丈夫じゃないが!?」
『これは……どういう意味だ……?』
『多分悪い意味じゃないけど悪意しか感じねえw』
そうでもないと思うんだけどね。
ともかく。改めて、エルフの里だ。こほん、と咳払いをして教えてくれた。
「エルフの里に一度行ってみた。最近生まれた子はいないかも聞いてみた」
「ん」
「十年ほど前に一人だけと聞いた」
「そう」
『十年は最近と言えるのか?』
『エルフにとっては最近なんだろうな』
『でも一人だけって言ってなかった? リタちゃんとは別件か?』
いや、違う。私の、というより私たちのことだ。一人だけと言ってる理由は単純に、
「私は、生まれていなかった。そういうことだね」
「言いにくいけど、そうなってる」
『察した。胸糞悪いな』
『つまり、どういうことだってばよ?』
『いないものとして扱われてるってことだろ。双子なんていなかった。生まれたのは一人だけ。そういうことにしたってことだ』
『なにそれ気分悪いな』
んー……。あんまり気分は良くないけど、でもわりとどうでもいいと思ってるのも事実。だって、私ももうエルフの里についてはどうでもいいと思ってるから。
滅びてしまっても興味がない。私にとっては、もうその程度の場所だ。
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