エルフの里の暗部

「リタ」

「ん?」

「本当に、申し訳ない。私が謝っても仕方ないのは分かっているけど、それでも……。ごめんなさい」

「別にいい。謝られるとちょっと困る。アリシアさんが関係ないのは分かってるから」

「そっか」

「そう」


 むしろ私はアリシアさんのことは結構気に入ってる。だから、そのアリシアさんが謝ってると、すごく申し訳ない気持ちになってしまう。あとは余計にエルフの里に苛立ちが募ってしまう。そうさせてるあいつらは何もしてないから。


「それで、師匠は?」

「それも確認した。旅人が一人、王族に面会してる。それがリタの師匠のことだと思う。賢者とは言ってなかったけど、そもそも賢者を知らないだろうから」


 閉鎖的な里だからね。人族の間で有名でも、エルフが知らないっていうのは十分考えられることだと思う。

 それに、エルフの里を訪れる人なんてそうそういない。だから多分、その旅人が師匠のことだと思う。王族に面会したのなら、なおさら。普通は会わないと思うから。


「私が行ってもよさそう?」


 さすがに忌み子が帰るとなるとあっちも拒否しそうだけど……。アリシアさんはにやりと悪戯っぽく微笑んだ。


「知り合いの魔女を連れてくる、と伝えておいた。歓迎する、だって」

「ん……。アリシアさん、悪い人」

「意趣返しぐらいはしてやろう」


『ヒェッ』

『つまりこっそり連れていくってことやな』

『なにそれ楽しそう!』


 ん……。いいと思う。アリシアさんの知り合いだと思って里に入れたら、実は以前捨てた忌み子だった、と……。どんな反応するのか、ちょっと楽しみだ。


「エルフの里でリタが何をしても、私は関与しない。好きにするといい」

「ん」


『剣聖殿のお許しが出たぞ!』

『リタちゃんを捨てた両親とか万死に値する』

『ぶっ殺そうぜ!』


 さすがに殺しは……しない、と思う。正直なところ、私も実際に会うまでちょっと何をするか分からないところがあるから。

 手を出してしまったら、その時はその時で考えよう。


「ああ、でも、リタ。何をしてもいいけど、一人だけ、手を出さないようにしてほしい人がいる」

「だれ?」

「アルティレイア。アルティ。リタの、片割れ」

「…………」


 片割れ。つまり、私の姉か妹。さすがにどっちが先かまでは分からないし、双子だったから気にする必要もないだろうけど……。私の、血を分けた姉妹。


「何も知らない?」

「少し話したけど、ほぼ間違いなく。双子だったことすら知らないと思う」

「ふうん……」


 そっか。知らないのか。つまり、私の両親は自分の子供にも話さなかった、ということだね。


「それってつまり、両親は悪いことだって思ってるってこと?」

「どうだろう。下手に話して探しに行かれたら困ると思ったのかも。優しい子に育ってるから」

「なるほど」


 でも、そうだね。何も知らないなら、さすがに私も何かしようとは思わない。多分。


『リタちゃんの双子の姉か妹か。どっちにしてもかわいいだろうな』

『金髪のリタちゃんがいるってことですね!』

『それはそれで見てみたいw』


 金髪の私、なのかな。なんだっけ。一卵性、だっけ? それかすらも分からないから、似てるかどうかは分からないよ。

 まあでもともかく。エルフの里、行ってみよう。


「楽しみ」

「楽しみだね」


『ヒェッ』

『二人の微妙な笑顔がマジで怖すぎるんですが』


 さすがにちょっと早すぎるかな。もう少し落ち着こう。

 それじゃ、あとはいつ行くか、だけど。そう思ったところで、ギルドマスターさんが言った。


「明らかにエルフの里の暗部じゃろこれ。なぜわしに聞かせた……!」


『ギルドマスターさんwww』

『エルフの里に対する悪巧みを聞かされるお気持ちはどうですかw』

『やっぱり絶対にいらないよな、この場所にw』


 ギルドマスターさんには悪いことをしてると思うけど……。もうすぐに終わるから、待ってほしい。


「話し終わったらすぐに帰る。ごめん、ギルドマスターさん。ここで聞いたことは忘れていいし、何かあったら私が悪いって言っておいてくれていい」

「おお……。魔女殿はとても優しいな……。それに比べて剣聖殿は……!」

「一蓮托生。別に何かやってもらうわけじゃないけど」

「本当に覚えておれよクソが!」


『なんて無意味な一蓮托生なんだw』

『計画の実行犯でみんなで罰を受けるとかならともかく、ただただ巻き込まれただけw』

『さすがにちょっとかわいそうになってくるぞwww』

『そう思うならせめて草を生やすなと何度言えばwww』

『お前もなw』


 んー……。そうだね。さすがにちょっとかわいそうだと思う。アリシアさんに視線を向けると、すぐに頷いて立ち上がった。さすがにやり過ぎだとは思ったらしい。


「そうだね。ごめん、ギルドマスター。別のところで話し合う」

「む……。いや、もういい。ここでやれ」

「え?」

「何も知らないところで何か面倒事を引き起こされるよりましだ……!」


『完全に開き直った』

『おいたわしや、ギルドマスターさん……』

『がんばれ、応援だけはしてるぞ! 応援だけな!』

『強調すんなw』


 ギルドマスターさんがいいのなら、いいか。それじゃあ、このまま続けよう。続けるといっても、あとはいつ行くかだけど。


「エルフの里はここから遠い?」


 そう聞いてみると、アリシアさんは少し考えて答えてくれた。一ヶ月ぐらい、と。


「馬車で移動すれば、一ヶ月程度だと思う。私とリタなら、もっと早く行ける」

「ん。わかった」


 空を飛べばすぐかな? 場所を知らないからアリシアさんに案内してもらわないといけないけど、でもあまり時間はかけたくない。空を飛ぶのもいいし、他の手段も考えよう。


「出発はいつがいい?」

「んー……。アリシアさんはいつから行けるの?」

「今日でも大丈夫」

「じゃあ……。明日の朝から。一応、精霊様に報告しておきたいから」

「分かった」


 というわけで、エルフの里に出発するのは明日ということになった。楽しみなようなそうでもないような、ちょっと複雑な気持ちかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る