旅行の終わり


 旅館の人たちに挨拶をして、バスへと向かう。帰りもバスに揺られることになるのが普通なんだろうけど、今回は転移で帰る予定だ。

 転移先のために駐車場はすでに予約してあるみたい。そこに転移すればいい、と聞いてるから今回は楽だね。

 最後に湯畑を軽く見てから、バスに戻った。


「バスごと全員転移するから、ちゃんとみんな中に入ってね」

「はーい」

「おまえらー! 忘れ物はないか! 取りに戻ってくるのは手間だからな!」

「確認しましたー!」


 バスの中でみんなが確認しあってる。私はバスの外で待機中。いろんな人が集まってきて、遠巻きに見てるけど……。気にしなくていいのかな。


「もう帰るよ?」


 一応周りの人に言ってみるけど、みんな指で丸印を作ってる。気にしないでもいいってことなんだろうけど……。何が見たいんだろう。


『多分転移の瞬間を見たいんだと思う』

『それすら普通は見れないから』


 それは……。見てもおもしろくないと思うんだけど。

 適当にお菓子を取り出して、もぐもぐと食べながら待つ。平べったくてとても長い、グミみたいなお菓子だ。これがわりと美味しい。種類としては駄菓子になるのかな。コーラ味、だって。

 私が食べ始めたら写真に撮られるのがいきなり増えたけど……。何がいいのやら。


「リタさん! 確認終わりました! いつでも大丈夫です!」

「ん」


 テレビの人たちの準備も終わったみたいだから、今度こそ転移だ。

 草津温泉、とても楽しかった。気持ち良かった。次は師匠と一緒に来よう。

 そう心に決めて、私はバスと一緒に転移した。




 転移先は東京の外側にある駐車場。ここで解散ということになってる。高崎さんを含むテレビの人たちはここからバスで帰るみたいだから、私と真美は直接お家に転移だ。


「わあ……。すごく綺麗な場所だね」


 真美がバスから出てきてそう言った。確かに、とても景色がいい。ここも東京らしいけど、とてもそうとは思えない場所だ。

 山に囲まれていて、自然がたっぷり。近くには川もあるみたいで、何人かがその川で釣りをしてる。東京といえばビルがたくさんのイメージなんだけど……。場所、違うのかな?


「本当に東京なの?」

「えっと……。スマホで現在地調べるから待ってね……。うん、東京だよ。ちょっと隅っこの方だけど」


 真美のスマホを見てみると、確かに東京の表示だった。秋川渓谷というところみたい。東京にもこんなに自然がいっぱいの場所があるんだ。


「東京もそれなりに広いからね。リタちゃんの森よりは狭いけど。それに、心桜島も一応は東京だよ」

「そうだった」


 心桜島もビルは少しあるけど、それでも自然がいっぱいの島だ。あそこも東京なんだから、他があってもおかしくないか。

 でも、うん。綺麗な場所だ。今度、ゆっくり散策してみるのもいいかも。

 でも今日は、とりあえず帰らないと。精霊様も心配してるかもしれないし。


「最後の挨拶いいですか!」

「ん?」


 テレビの人に呼ばれたからそっちに行ってみる。カメラが山を背景にして高崎さんを撮っていた。その高崎さんが手招きしてきてる。行った方がいいのかな?

 とりあえず近くまで行ってみると、高崎さんがカメラを向いて言った。


「はい。というわけで、今回は噂の魔女、リタちゃんと温泉でした。リタちゃん、温泉はどうだったかな?」

「ん? 気持ちよかった。また行きたい」

「ふふ。そうでしょう? 日本人として私も誇らしくて……」

「高崎さんも焼き鳥とお酒、美味しそうだったね」

「やめてもらえる?」


『草』

『リタちゃんそれわざとやってる?w』

『今回でめちゃくちゃ親近感増したわ、この女優w』


 高崎さんは小さくため息をついて、こほんと咳払い。次に真美へと言った。


「真美ちゃんも、今回はありがとう」

「いえ。こちらも楽しかったです」

「…………。そう。こういうのでいいのよ、こういうので……」


『高崎さんwww』

『リタちゃんが本当に申し訳ない』

『でもリタちゃんが出る時点でこうなることは分かってたはず』


 私が悪いのかな? テレビのルールとかよく分からないから、気にするつもりはないけど。

 あとは高崎さんがもう少し話して、終了になった。ここから先は自由解散、らしい。


「それじゃあ、リタちゃん。今日は楽しかったわ」

「ん。元気でね」

「リタちゃんも」


 高崎さんやテレビの人たちに手を振って、私たちは真美のお家に転移した。




 真美のお家。見慣れた部屋。なんだか落ち着く。


「リタちゃん、お昼ご飯は食べていく?」

「ん。何があるの?」

「出前かなあ……。ピザでも頼んでさっと食べて、畳を見にいくとか」

「近くにあるの?」

「あるよ」


 それは、是非とも見にいきたい。私が頷くと、真美はすぐにピザを注文してくれた。

 真美と一緒にピザを食べて、畳を買いに行くことになった。

 畳。楽しみだ。お庭の一部に敷いて、お昼寝できる場所にしたいね。お菓子とかも近くに置いて……。うん。すごくいいかもしれない。


「楽しみ」


『まさかそこまで畳を気に入るとはなあ』

『師匠から受け継がれる日本人魂』

『もっといい日本人魂があると思うんだw』


 畳はとてもいいものだよ。

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