温泉まんじゅうと温泉卵


 目的の温泉は、西の河原通りというのを進んでいくとあるみたい。そしてこの西の河原通りだけど、すごくいろいろある道だ。


「お店いっぱい」

「リタちゃん、温泉まんじゅう食べる? 有名なんだって」

「食べる」

「正直こうなりそうだなって予想していたわ」


『まあリタちゃんだしなw』

『食べ物があったらすすすっと引き寄せられていく食いしん坊魔女だから』

『温泉まんじゅうさえあればリタちゃんを釣れるのでは?』

『それはない、と言えないところがリタちゃんクォリティ』


 和菓子屋さんに入る。店主さんのおじいさんは私たちを見て、少し驚いたような顔になった。


「おお……。君はニュースで何度か見たことがあるね。リタちゃん、だったね」

「ん」


 いつもより反応が薄いけど、これぐらいがちょうどいい。


「高崎さん。嬉しいねえ。サインをお願いできるかい?」

「喜んで!」


『高崎さんw』

『めちゃくちゃ嬉しそうで草なんだ』

『今までずっとおまけ扱いだったもんなw』


 なんだか嬉しそうに、テレビの人から渡された色紙にサインをしておじいさんに渡してる。サインって、嬉しいのかな。私にはよく分からない。


「温泉まんじゅうください」

「はいよ。いくついるんだい?」

「リタちゃん、何個食べる?」

「いっぱい」


 たくさん食べたい。おまんじゅうはとても好き。あんこはすごく好き。だからきっと美味しい。いっぱい食べたい。

 おじいさんは目をぱちぱちと瞬かせて、そしてなんだか楽しそうに笑いながら言った。


「それじゃ、百個ほど入れてしまうよ?」

「平気」

「え」


 そんな、正気を疑うような目で見ないでほしい。別に今すぐ全部食べるわけじゃないから。アイテムボックスに入れておけば保存もできるし。

 おじいさんは戸惑いながらも、ちゃんと用意してくれた。すぐに食べられるものが十個と、お土産みたいに包装されているものを五箱。二十個入りの箱みたい。

 早速食べてみる。ぱくりと一口。んー……。


「しっとりとした生地にこしあんがいっぱい、だね」

「粒あんもあるよ。リタちゃん、どっちがいい?」

「どっちも好き」


『ちな俺は粒あん派』

『聞いてねえよw 俺はこしあん』

『粒あんこしあん戦争になるからやめろw』


 どっちも美味しい、でいいと思う。

 もう一個食べてみる。こっちは粒あんだね。どっちのあんこが分かるように、生地の色を変えてるみたい。視聴者さんみたいに、どっちの方が好きっていう人のためかな。

 粒あんも、やっぱり美味しい。どっちも自然な甘さはしっかりとあって、それでいて食感が違うのがいいと思う。


「美味しそうに食べてくれる子だねえ。よければ蒸したても食べるかい? あったかくて美味しいよ」

「食べる」

「はいよ」


 次におじいさんから手渡されたおまんじゅうは、ほかほかと熱いおまんじゅうだった。食べてみると、中までしっかりとあたたかい。これができたてのおまんじゅう。とても美味しい。

 お土産とか普段食べてるものは、これが冷めたものなんだね。できたてが食べられる機会はあまりなさそうだから、ちょっと得した気分。


『あったかいおまんじゅうっていいなあ』

『できたてがやっぱり一番美味しいと思う』

『俺もできたてまんじゅうが食べてえなあ!』


 食べればいいと思う。草津温泉はとてもいいところ。

 お土産をアイテムボックスにしまって、次の場所へ。改めて次の温泉に向かって……。


「あ、リタちゃん。温泉卵があるよ」

「おんせんたまご」


 気になる。食べよう。


「あれ? これ温泉にたどり着く頃には日が暮れるんじゃ……」


『気付かれましたか高崎さん』

『食べ物のお店が多い場所にリタちゃんを連れていったらこうなりますよ……』

『まあまだお昼過ぎだし、大丈夫だ問題ない』


 温泉もちゃんと行くけど、食べ物も気になる。

 温泉卵のお店に行くと、おばさんが対応してくれた。


「いらっしゃ……」


 固まった。


『よく見る反応』

『実家のような安心感』

『お前の実家がおかしい』


 最近だとよく見る反応だね。おばさんの前で手を振ると、すぐに我に返ってくれた。


「い、いらっしゃい! いやあ、驚いたね。まさかここにも来てくれるなんて」

「ん。温泉卵、食べたい」

「はいよ。ちょっと待ってな」


 そうして渡されたのは、小さいカップ。中を見てみると、卵とスプーンが入ってる。それに、この小袋は何かのタレかな。


「真美。どうやって食べるの?」

「えっと……。まずは卵を袋から出して、タレをかければいいと思うよ。そのままでも美味しいかも」

「なるほど」


 それじゃ、卵を出して、スプーンで割ってみる。

 んー……。簡単に割れて、とろっとした黄身が出てきた。白身と一緒にぱくりと食べる。なんだかちょっと独特な食感だけど、するっと飲み込めて、美味しい。卵の味がしっかりと出てる。

 次はタレをかけてみる。このタレは卵用なのかな。卵とタレの味がほどよく合わさって、これも美味しい。とてもいいもの。


「お土産、たくさん欲しい」

「たくさん……。いくつかな?」

「百個」

「はいよ」


『まるで予想通りかのようにスムーズに動いてる』

『さてはこのおばさん、視聴者だな?』

『それはそれとして俺も温泉卵食べたくなってきた』

『コンビニに買いにいってくる』


 たっぷりの箱詰めの温泉卵をアイテムボックスに入れて、温泉へ向かおう。

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