露天風呂とソフトクリーム

『ところで高崎さんが行方不明ですが』


「仲良しの二人を邪魔しないようにしてるのよ」


『高崎さんすごくいい人ですね!』


「あなたたちね……!」


 真美に連れられて、湯船の奥にあるドアを開ける。

 露天風呂。お外にあるお風呂。屋内と違って、すごく開放感がある。でも外からは見えないようにちゃんと工夫されていて安心だ。

 確かにここで温泉を堪能するのもすごくいいかもしれない。

 というわけで。


「はふぅ」

「気持ちいいね……」


『あかん音だけでもやばい』

『すごく温泉に行きたい』

『銭湯でも行ってくるかなあ』


 温泉。露天風呂。すごくいいもの。とても気持ちいい。


「冬の露天風呂もいいわよ。雪景色も堪能できるし、なによりひんやりとした空気が心地いいの。火照った体を外気温で冷まして、また熱めの温泉に入って……」


『あああああ!』

『やめろよひどいよ入りたくなるじゃん!』

『しかも入りたくなっても冬はまだまだ先だっていうね!』


 ん……。すごく興味がわくのに、冬はまだまだ遠い。でも、すごく気になる……!


「リタちゃん、魔法で変なことしたらだめだよ?」

「ん……」

「残念ね。真冬の露天風呂は本当とっても気持ち良くて最高なのに……」

「高崎さん。うるさい」

「あ、はい……。ごめんなさい……」


『真美ちゃん、キレた!』

『多分これ本気で怒ってるぞw』

『魔法を使いそうなリタちゃんをなだめてるのに、あんな誘惑されたらなw』

『高崎さんの声が……消えた……?』

『多分落ち込んで一人静かに入ってんだろ、察してやれ』

『一般女子学生にマジギレされておとなしくなる超有名女優』


 真美の目がちょっと怖くなってた。高崎さんも少し離れた場所でしょんぼりとお湯に入ってる。誘惑がなくなって安心だね。本当にちょっと、魔法を使おうか悩んでいたところだったから。

 でもさすがに温泉の従業員さんに迷惑だ。私たち以外にも一般のお客さんがいるから。

 ゆっくりと堪能してから温泉を出た。また浴衣を着て、脱衣所を出てから配信の映像を戻す。これでよし。


「映ってる?」


『だいじょぶ』

『リタちゃんおかえりー!』

『ほかほかリタちゃんだ!』

『ちょっと髪がしんなりしててかわいい』


 よく分からないけど、映ってるなら大丈夫ってことだね。

 お風呂上がりは牛乳だ。フルーツ牛乳かコーヒー牛乳がいいな。あるかな?


「真美。真美。売店に行こう」

「うん。何か欲しいの?」

「フルーツ牛乳」

「あー……」


 あれ、なんだか微妙な反応だ。どうしたのかな。

 とりあえず売店に移動。牛乳は……。


「ない……?」

「お土産の売店だからね……。一応、ここにはカフェがあるけど……」

「牛乳はない?」

「こ、コーヒーとかなら……。ココアもあるみたいだよ! アイスココア!」

「フルーツ牛乳……」

「あ、あわわ……」


 それもちょっと楽しみだったのに……。いや、アイテムボックスにたくさん入れてあるから、それを飲めばいいんだけど。でも、せっかくお風呂に入ったんだから、ここで売ってるものが飲みたかった。とても残念。


「り、リタちゃん! ここにはソフトクリームがあるわよ!」


 慌てたようにそう言う高崎さん。ソフトクリーム。テレビで見たことはあるけど、そういえば食べたことがなかった。冷たい食べ物なんだよね。じゃあ、それでいいかな?


『よかった、見てるこっちもちょっと焦った』

『ソフトクリームも美味しいから大丈夫だ……!』

『俺はこの温泉のソフトクリームを信じる!』

『お前らは温泉に何を求めてんだよw』


 言われてみればちょっとおかしいと思うけど、お風呂上がりの冷たいものはとても美味しいから仕方ない。

 みんなでカフェに移動。ソフトクリームを注文すると、すぐに用意してくれた。なんだか茶色っぽい変な形のお菓子、かな? それを持って、機械を操作して白いものがぐるぐるっと出てきてる。それをお菓子の中に入れて、うずまきみたいに流していって、完成。


「どうぞ」

「ん」


 ソフトクリームを受け取って、早速食べてみる。んー……。


「おー……。冷たくてふわふわ。なんだか不思議な食感だね」

「でしょ? コンビニでもソフトクリームは売ってるけど、やっぱりすぐに食べられるこういうところの食感は格別だよ」

「へえ」


 ソフトクリームを口に入れる。見た目通りふわふわで、口に入れると中ですぐに溶けていく。冷たすぎず、とても食べやすい。これはとてもいいもの。

 器になってるお菓子も食べられるみたい。コーン、というらしい。かじってみると、さくさくの食感がおもしろい。こっちはあまり冷たくないけど、だからこそお口直しにちょうどいい。

 冷たいソフトクリームを口に入れて、コーンをかじって、またソフトクリームを食べる。うん。とても、美味しい。


「んふー」

「美味しい?」

「ん」


 とても満足。買ってよかった。


『あからさまにほっとするテレビ関係者の方々』

『食べることが好きだって分かってるから、期待を外した場合が怖いよなw』

『リタちゃんならしょんぼりしながらも許してくれるさ』


 さすがにこんなことで怒るつもりはないよ。もちろん。

 ソフトクリームを食べ終わったところで、次の温泉に出発した。

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