足湯とご飯
映画はそれなりに楽しめた。高崎さんが主役として出てるものと、アニメ映画。二本見てちょうどいい時間だ。
バスから降りて、少し歩くことになるみたい。自由に行動していいみたいだけど、転移は使わないでほしい、とのこと。テレビカメラが置いて行かれてしまうかも、だから。
今回はお金とか全部出してくれるみたいだから、それぐらいなら頷いておこう。のんびり見て回るのも悪くないと思うし。
「観光案内は任せてね。頭に叩き込んできたから」
「わ、私だっていろいろ覚えてきたからね、リタちゃん!」
「ん。高崎さん、帰っていい」
「扱いがひどくない……?」
冗談だから真に受けないでほしい。
『本気なのか冗談なのか、これもうわかんねえな』
『俺、高崎さんのことは好きだよ。でも今回に限ってはただただ邪魔なんだ』
『お前らもうちょっと言葉を選んでやれよ』
少し落ち込んでる高崎さんを連れて、道を歩いていく。後ろからはテレビの人もついてきてるけど、できるだけ気にしないようにしよう。
ただテレビカメラが目立つからか、人が結構集まってる。ちょっとうっとうしいかも。
『テレビカメラが目立ってるというか、なんというか……』
『リタちゃん単体で目立つからね?』
『真っ黒ローブな魔女っこなんてリタちゃんぐらいなんよ』
んー……。でも脱ぐつもりはない。
「あの、高崎さん、案内お願いします。テレビ的にもそっちの方がいいかなって」
気を利かせたのか真美がそう言うと、高崎さんがはっと我に返って笑顔で言った。
「そ、そうね! 任せて! しっかり案内するから!」
『真美ちゃんええ子やな』
『気配り上手』
『信じられるか? この子、テレビに出ちゃうけど、一般人なんだぜ』
『逸般人ですね分かります』
『魔法とか使えるわけじゃないから普通の人のはずなんだけどなあw』
高崎さんの案内で最初に向かったのは、なんだかとても広い場所だ。ちょっとした広場で、真ん中がへこんでる。そこにたくさんの箱みたいなのが並んでるね。お湯がいっぱい、かな?
「なにこれ?」
「草津温泉と言えば、この湯畑よ。温泉の源泉を流していて、年に何回か、湯の花を採集しているの」
「湯の花? お湯が花になるの? 魔法みたい」
「ふふ。違うわよ。硫黄のことね」
「ふうん」
それを作って集めるための施設ってことだね。不思議なものを作ってる。でもここに入れるわけじゃないみたい。
「温泉には入れないの?」
「リタちゃん、さすがに気が早いと思うよ。観光はいいの? 美味しいものもあるよ」
「ん……。美味しいもの。それがいい」
温泉、というよりお風呂は夜に入るもの、なのかな。体の汚れを落とすためにお風呂に入るみたいだし。魔法がないと大変だ。
「そうね。ちょうどお昼だし、ご飯にしましょう」
そう言った高崎さんが案内してくれたのは、なんだか不思議なカフェ。日本らしいお家のようなお店に入ると、椅子とかはなくてお風呂みたいなものが真ん中にある部屋だった。
あ、でも隣の部屋にはちゃんと椅子がある。この部屋がちょっと特殊みたい。
「足湯を楽しみながら食事ができるお店。どう?」
「わあ……。すごくいいところですね! リタちゃん、ここで食べよ?」
「ん」
足湯ってなんだろう。高崎さんの動きを見ていたら、靴を脱いでお湯に足を入れた。体じゃなくて足だけ入れるお風呂、だから足湯なのかな。
真美も同じように座って、私も座る。おお……。あったかい。気持ちいい。
「どう? リタちゃん」
「気持ちいい」
「ふふ。よかったね」
これはなかなかいいものだと思う。
お店の人がメニューを持ってきてくれた。ほとんどはジュースとかデザートとかだったけど、ご飯になりそうなものも少しあった。小さい牛丼みたいな感じ。
私と真美はそれを注文。高崎さんはパフェだね。
先にパフェが運ばれてきて、高崎さんがテレビに向かって何か話してる。味の感想とか、そういうの。テレビでこういうのは見たことがある。大変そうだね。
「私もやらないといけないのかな」
「リタちゃん、やる?」
「やらないけど」
「だよね」
ご飯は自由に食べたい。あんな解説しながらとか、ちゃんと味わえないと思う。
『ぶっちゃけ変な解説入れるより、美味しそうに食べてるところを見る方がこっちも幸せ』
『特にリタちゃん美味しそうに食べるしね』
『俺もリタちゃんに食べられたい』
『どういうこと……?』
ちょっと意味が分からないと思う。
私と真美の牛丼も運ばれてきた。サイズは小さいけど、しっかりと熱くて美味しそう。お昼ご飯というより本当に軽食っていう感じだけど。
まずは、一口。んー……。お肉がすごく柔らかい。たっぷりとつゆも入っていて、すごく美味しくて食べやすい。つゆそのものにもしっかりと味がついているから、お肉がなくなってもこのつゆだけでご飯を食べられる。
でもやっぱり、ご飯とお肉とつゆ、これを一緒に食べるのが一番美味しいと思う。
「ん……。美味しい」
「美味しいね。もう一杯注文する?」
「んー……。真美はどうするの?」
「リタちゃんが食べるなら、頼もうかな」
「じゃあ頼もう」
ということで、もう一杯注文。でもどうせなら、もう少し大きい器で持ってきてくれたらいいのに。
そう思ったけど、食べにくいから小さい器なのかな。テーブルもあるわけじゃないし。足湯に入りながら、つまりちゃんと手で持って食べないといけないから、疲れたら困るのかも。
食べ終わって、少しゆっくりしたところでお店を出た。
ちょっと不思議なお店だったけど、結構いいお店だったと思う。牛丼はすごく美味しかったし、足湯も気持ちよかった。ゆっくり浸かりたいとも思うけど、足湯も悪くないと思う。
次はどこに行くのかな?
「リタちゃん、温泉に入りたいよね?」
「ん……。夜まで待つよ?」
「お昼からの温泉も悪くないと思うよ。だから」
真美はそう言うと、高崎さんに向き直った。
「温泉巡り、しましょう! 浴衣に着替えて!」
「いいわね。その心は?」
「リタちゃんの浴衣を見たいです!」
『草』
『欲望に忠実だな真美ちゃんw』
『でも気持ちは分かるw』
よく分からないけど、そういうことになった。
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