お泊まり計画
首相さんと会う時は、だいたいが最初に会った時と同じホテル、その最上階だ。あっちの希望で、配信はしてない。
テーブルの上にあったクッキーを食べていたら、首相さんが入ってきた。
「待たせてしまってすまないね」
「んーん。別に。何かあるの? お守り?」
「いや、今回はテレビ局からの例の件についてだね」
「ん……?」
例の件って何かあったっけ。えっと……。
「あ。温泉」
「そうだね」
そういえば日程とか伝えてなかったと思う。今決めた方がいいのかな。んー……。
「そろそろ日程を教えてほしい、と連絡が来ているのだけど……」
「じゃあ、明日で」
「…………」
首相さんの顔が引きつってしまった。ちょっと急すぎたかな?
「真美さんの都合は大丈夫かい?」
「あ」
そうだね。それを先に聞いておいた方がいいよね。真美に怒られちゃうところだった。
スマホで真美に電話する。日本で言うところの平日で、しかもお昼前だからまず出られないと思うけど、これをしておけば真美から電話をしてくれると思うから。
そう思ってたんだけど、何故か繋がってしまった。
「はーい。リタちゃんどうしたの?」
「ん……。真美、学校は?」
「電話優先かな」
「ええ……」
それは、ちょっとだめだと思う。勉強は大事だよ。多分。
「温泉、明日行こう。テレビのやつ」
「え……。私はいいけど、テレビ局の人は大丈夫なの? 他の人の予定とか……」
「んー……」
首相さんを見る。首相さんも電話で誰かと話していて、私と目が合うと指で丸を作った。大丈夫、ということだと思う。
「大丈夫そう」
「そっか。分かった、明日だね。必要なものがあったらまた連絡して。買っておくから」
「分かった」
電話を切って、首相さんと向き直る。あっちも電話は終わったみたいだった。
「あとであちらから詳細が送られてくるらしいから、後ほど連絡させてもらうよ」
「ん。待ってる」
そこでお話は終わり。結構あっさり終わったと思う。
真美のお家に戻ってのんびりしていたら、首相さんから連絡があった。明日の午前七時に東京駅に集合、そこからバスで移動するらしい。目的地は草津温泉だって。
バスに乗る少し前から撮影されるらしいから、そのつもりでいてほしい、とのことだった。
それじゃ、そろそろ配信をしよう。
「ん」
『いつものごとく突然の配信』
『今日は真美ちゃんの家かな?』
『日本でのんびりするって言ってたしな』
「明日から温泉に行く。えっと……。草津温泉。テレビのやつ」
『おおおおお!』
『ぶっちゃけその話、自然消滅したと思ってた!』
『一泊二日の旅行だね!』
一泊。とても楽しみ。いつも精霊の森に帰ってたから、ちゃんとした外泊は初めてかも。
『それはちょっと譲れない!』
「ん?」
このコメントは……真美かな? どうしたんだろう。
『リタちゃん! 準備もあるから、今日は私の家に泊まろう! ね? そうしよう!』
「ん……。どうしたの?」
『いいから!』
「あ、はい……」
『魔女すらたじろぐ真美ちゃんの勢い』
『闘技場に出ていたら真美ちゃんが優勝したのでは?』
『やはり真美ちゃんが最強じゃったか……』
それは、えっと……。いや、確かに真美には強く出られないけど。いつも美味しいご飯ももらってるし。すごくお世話になってるし。
それはともかく、先にここでお泊まりすることになった。精霊様には、二泊ほどするって伝えておかないと。
というわけで、ちょっと急いで精霊の森に移動。世界樹の側に転移して精霊様に説明すると、なんだかすごく驚かれた。
「リタが……お泊まり……! それはとても楽しみですね!」
「ん……。精霊様は私がいない方がいいの?」
「違いますよ!?」
ちょっと不安になって聞いてみたら、精霊様に抱きしめられてしまった。なんだか頭をすごく撫でられてる。んー……。やっぱり精霊様はなで方がとってもうまい。気持ちいい。
「リタが外泊なんて初めてなので、少し驚いただけです。いろんな場所に行くようになっても、外泊だけはしなかったですから」
「ん……」
「だから……。ええ。楽しんできてください。でも、ちゃんと戻ってきてくださいね?」
「ん」
それは大丈夫。ここが私の帰る場所だから。私のお家だから。絶対に帰ってくる。
あ、でも。
「二泊だよ」
「二泊!?」
「今日は真美のお家にお泊まりして、明日は温泉の宿にお泊まり。真美と一緒」
「…………。少し真美とお話ししなければならないようですね……」
『まってください!?』
『ほんわか家族を見てたら急にホラーになり始めたw』
『真美さんの今後が危ぶまれるw』
今後って、どういうことだろう? 精霊様を見る。にっこり微笑んでる。
「精霊様。真美に変なことしたら、さすがに怒るから」
「…………。もちろんです」
ちょっと間が長い気がしたけど、大丈夫、かな? もう少しゆっくりしたら、真美のお家に戻ろう。撫でてもらうのが気持ちいいから、もうちょっと後で、ね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます