王様のいたずら

 メイドさんに促されて、部屋の中へ。なんだかすごく広い部屋があって、装飾がたくさんあるテーブルや椅子、棚とかいろいろ置かれてる。でもそこには、王様らしい人は見当たらない。

 私が周囲を見回していると、案内してくれたメイドさんが部屋の奥に歩いていく。そうして椅子に座って、私の方に向き直った。


『いきなりメイドが座るの?』

『こいつが失礼すぎなのではw』

『なんだこいつ』

『いやこのパターンはまさか……!』


「改めて、ようこそ我が国へ、魔女様。あたしが女王のステッカだ」

「おー……。王様がメイドさん。斬新」

「え? あ、いや、変装というか、悪戯というか……。え? 天然?」

「メイドさんも王様になれる。すごい」

「天然だこれ!? 違うから! ちょっとメイドのふりをしただけだから!」


『草』

『リタちゃん素で言ってんのかw』

『多分リタちゃんにとってメイドさんも王様も大差ないやつだから……』


 ん……? 王様がメイドさんの仕事をしてる、じゃないのかな。もしくはその逆。あ、でも、変装とか言ってたから、今回だけってことかな。物好きな人だね。


「はー……。魔女様はなんていうか、変な人だな……」

「メイドの服を着た王様も変だと思う」

「はは。確かにな」


 ステッカさんは苦笑いを浮かべると、手をぱんぱんと叩いた。すると扉が開かれて、たくさんの人が入ってくる。鎧を着た兵士さんだったり、メイド服の人たちだったり。今度は本物、かな?

 メイドさんたちは部屋に入ると、早速働き始めた。あっという間にテーブルの上に湯気の立つ紅茶とお菓子が用意されて、私も椅子に座るように促された。

 兵士さんはステッカさんの側で待機してる。護衛役かな?


「陛下。あまり危ないことはなさらないでほしいのですが……」


 兵士さんが言うと、ステッカさんは軽く手を振って言った。


「なーにが、危ないことだよ。魔女様が本気になったら、護衛がいてもいなくても大差ないだろ」

「…………」


『兵士さんがすごいお顔になってる』

『事実でも指摘されたくないことってあるよね』

『兵士さんからすれば気が気じゃないだろうな』


 そこまで警戒しなくても、何もしないんだけど……。兵士さんからすればそんなことは分からないことだろうし、仕方ないのかもしれない。

 でもそれなら、呼び出しなんてしなければいいのに。いつか何かあっても知らないよ。


「さて、魔女様。昨日の優勝者である魔女様には、可能な限り願いを叶えるっていう景品なんだけど……。何かあるのか? だいたいのものは自分で用意できるだろ」

「ん……」


 物なら確かにそうだと思う。今では私もそれなりにお金もたくさんだから買うこともできる。

 でも今回は物じゃない。


「情報が欲しい」

「情報?」

「ん。賢者について。闘技場に出たんだよね?」

「ああ……」


 ステッカさんは何とも言えない表情になってしまった。苦笑いのような、ちょっと申し訳なさそうな、そんな不思議な顔だ。

 ステッカさんはため息をついて、教えてくれた。

 賢者、つまり師匠はやっぱり闘技場の大会に出たらしい。しかも年に一回の、たくさんの人が集まる大会で。

 そこで師匠は危なげなく勝ち進んで、優勝しちゃったらしい。すごい。


「ん……。さすが師匠」


『ちょっと自慢げなリタちゃんかわいい』

『むふーってしてるw』

『やっぱ嬉しいもんなんやなw』


 師匠がそう簡単に負けるとは思わないけど、やっぱり嬉しい。さすがは私の師匠だ。

 私がちょっと満足していると、ステッカさんは怪訝そうに眉をひそめた。


「あー……。魔女様。今、なんて言った?」

「気にしないで」

「え、いや、でも……」

「気にしないで」

「あ、ああ……」


 ステッカさんを巻き込むつもりはないから、本当に気にしないでほしい。


「ちなみに、どんな戦い方をしてたの?」

「あー……。あたしはまだ代替わりしてなかった頃で知らないんだ。賢者が出場した時は、あたしは城で王女として勉強していた」

「王女……?」

「魔女様。紛れもなく、この方は王です」


 兵士さんがそう言ってるけど、その声からはどことなく疲れが感じられる。苦労人なのかな。

 王様。えっと、女王様っていうのかな? 私が会ったことがある王様は一人だけだけど、その王様とは雰囲気が全然違う。ステッカさんは、すごく気さくな人というか、一般の人に近いというか、そんな感じだ。威厳とかはちょっと感じられない。

 でも王様も人だし、やっぱりやり方の違いはあるのかもしれない。こんな闘技場がある国だしね。


「当時の賢者殿は雷の魔法を使っておられました。圧倒的だったのでよく覚えています」


 兵士さんが答えてくれた。結界はあまり使わずに、雷でさくさく倒していったらしい。手っ取り早くってやつかな? 師匠ならやりそうだと思う。


『それ見たかったなあw』

『リタちゃんよりちゃんと無双してるw』

『結局、直接的に攻撃することなく終わったからな、リタちゃん』


 そうだっけ。言われてみればそうだった。終わったからよしということで。

 あとは、そうだね……。


「賢者はこの国に何をしに来たのか、知ってたりする?」

「何かをしに来たっていうよりは、ただの通り道みたいな感じだったらしい。父上から賞金をたんまりもらってさっさと旅立っていったから」

「ふうん……」


 もらえるものはしっかりもらって、あとはすぐに立ち去ったらしい。自分の師匠とはいえ、なんだかちょっとひどいと思う。いや、師匠は何か旅の目的があったみたいだから、関係のない国に留まる必要なんてないんだろうけど。

 でも、お金はもらったんだから、もう少し話はするべきだったと思うよ。私がやるかと聞かれたら、やっぱり同じように帰るだろうけど。


「ありがとう。聞けてよかった」

「え? ああ、いや……。それだけでいいのか? まだ何か言ってくれてもいいぞ。金をよこせとか、国のお抱えになりたいとか」

「お抱えにはならない。絶対に」

「ちぇー。残念だよ」


 本当に残念そうにしてるから申し訳ないけど、魅力も誘惑も何もない。それに、私は守護者だから。


「せめて賞金だけでも受け取ってくれよ。優勝者が情報だけっていうのは、さすがにな」

「そこまで言うなら、もらう」


 そんなに必要ではないけど、あって困るものでもないから。


『体面ってやつかな』

『このまま帰らせたら、どこかから情報が漏れて何か言われそうだしなw』

『王様も大変』


 安くすむならそれでいいと思うのにね。

 金貨の入った袋をアイテムボックスに入れて、私はその宿を後にした。あとはギルドに行って、もう出て行くことを伝えよう。

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