王様が泊まる宿
翌日。真美のお家で朝ご飯を食べてから、私は指定された宿に来た。ちなみに今日の朝ご飯はピザトーストで、とろとろのチーズが美味しかった。
「んー」
『なんかリタちゃん機嫌が良い?』
『多分朝ご飯が美味しかったんだと思う』
『何を食べたんだ! 言え!』
「ピザトースト」
『俺も食べたい!』
そんなに難しくないらしいから、自分で作ればいいと思う。
それよりも。
「大きい」
『普通にでかい宿だなあ』
『これが……王様が滞在する宿か……!』
『兵士もすごく多いw』
宿は三階建てなんだけど、横にすごく広くてお庭もある。宿の周辺は兵士さんが一定間隔で立って周囲を警戒してるみたい。他の宿泊客さんが入りづらいと思うけど、貸し切りなのかも。
私がその宿を眺めていたら、近くの兵士さんが歩いてきた。少し警戒してるのが分かる。腰の剣をいつでも抜けるように手を添えてる。
「この場所に何か用かな?」
「ん。呼ばれたから来た」
招待状を兵士さんに見せると、怪訝そうにしながらも受け取ってくれた。兵士さんは封蝋を確認して、手紙を開いて、なるほどと頷いて、そうしてから直立して敬礼した。
「失礼致しました、隠遁の魔女殿。担当の者をお呼びしますので、少々お待ちください」
「わかった」
兵士さんが駆け足で宿の方へと走っていった。後はここで待てばいいみたい。
「手紙、ちゃんと役に立った。ミレーユさんのやつは何の意味もなかったのに」
『あったなあ、そういうことw』
『逆に警戒されたやつだよなw』
『多分これが普通だから……!』
ミレーユさんの時の方がおかしかったっていうのは、なんとなく分かってるよ。
そのまま少し待っていると、兵士さんと一緒にメイドさんも歩いてきた。少しだけ早歩きになってると思う。メイドさんは私の目の前まで来ると、少し驚いたように目を丸くして、すぐにそんな表情は隠して一礼した。
「ようこそ、隠遁の魔女様。お待ちしておりました」
「ん。早すぎた?」
「いいえ、大丈夫です。陛下からは、魔女様がいらっしゃればすぐにお通しするように仰せつかっております」
こちらへどうぞ、とメイドさんが先導してくれる。王様が泊まる宿、楽しみだね。
『おや、兵士さんもついてくるのか』
『リタちゃんが変なことをしたらすぐに止められるように、じゃないかな』
『止められるんですか……?』
アリシアさんぐらいじゃないと無理だと思う。でもそこまで警戒しなくても何もするつもりはないんだけど。やっぱり王様を守らないといけないから、ずっとこうなのかもしれない。大変だ。
宿の中はなんだかすごく豪華な造りだった。入ってすぐにとっても広い部屋があって、奥に大きな階段が見える。広い部屋にはカウンターがあって、そこで受付をしてるみたい。他にも、一階に食堂みたいなものもあるのかな。ちょっと美味しそうな香りがしてる。
お腹が減っちゃう。美味しいもの、食べたい。
「真美。真美。カレーライスが食べたい」
『わかった!』
『脈絡がなさすぎるんだけど即答できる真美さんがさすがです』
『何か美味しそうな香りでもしてたのかな』
『宿の豪華さよりも香りに意識が向くリタちゃんが相変わらずすぎてね』
だって、どんな豪華な宿よりも、私は自分のお家の方がいいから。こんなところに泊まっても意味はないだろうし。
メイドさんは受付で少し話をすると、すぐに戻ってきた。そのまま階段を上がって二階へ。大きい階段は二階までで、次は三階の階段に向かうみたい。三階の階段は廊下の端っこにあるんだとか。
「二階は私どもメイドや護衛の兵士が利用しています」
「ふうん」
「興味なさそうですね」
「ない」
はっきりと答えるとメイドさんが苦笑していた。私としては、むしろ外部の人にそれを話す方がだめだと思う。私が悪いことを考えていたら利用されちゃうよ? 対策ぐらいしてるのかもしれないけど。
三階への階段を上って、廊下の中央にある扉の前に立った。三階はこの部屋しかないみたい。一番豪華な部屋、なのかな。
少々お待ちください、とメイドさんが一礼して、部屋の中に入っていった。
「兵士さん」
「はい。何でしょうか?」
「リンダさんは来た?」
「リンダ……。ああ、昨日の三位の方でしたね。入隊する意思があれば王都に来るように、という内容だと思いますので、さすがにまだ来ていないと思いますよ」
「そうなんだ」
「はい。将来を決めることですから、すぐに決断できないでしょうし」
『すげえ、ちゃんと配慮してくれてる』
『国のスカウトだと、命令で入隊しろとかになってると思ってたw』
『他国に逃げられるよりは、かな?』
無理矢理入隊させようとした結果、他の国に行かれたら意味がないから、かな? 冒険者ならこの国じゃなくても活動できるだろうし。
そんなことを考えていたら、メイドさんが戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ。失礼の無いようにお願い致します」
「ん……」
失礼のないようにって、どういう風にすればいいのかな。
『自覚のない煽りをやめればいいと思います!』
『自覚がないのにどうやってやめればいいんだよw』
『なあに、何かあったら精霊様がどうにかしてくれる!』
こんなことで精霊様は頼りたくないけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます