一般的な魔法使いの弱点
「あの、魔女様……。私はリンダといいます。よろしくお願いします」
「ん」
「魔女様はどうして参加するんですか?」
「気分」
「気分……?」
「ん。気分」
『弓使いさんの顔がw』
『若干引いてるのが分かるw』
ちょっと失礼だと思う。あまり明確な目的がないのは私だけなのかもしれないけど。
他の人はどんな理由があるのかな。聞いてみると、リンダさんは何とも言えない顔になった。
「王様からの報償が魅力的なのと……。顔を売れるから、です。優秀な成績を残せば、指名依頼とかが来るかもしれませんから」
「しめいいらい」
『指名依頼ってあったんか』
『リタちゃんの場合だとギルマスとかに頼まれる依頼がそれかな?』
『でも確かに、知らない人よりはある程度実力を知ってる人に依頼したいよな』
『その分お高くなりそう』
依頼料はやっぱり上がると思う。掲示板に貼って誰でも受けられるのが本来の形式なのに、特別に個人に依頼をするなら手間とかもあるだろうから。
『でも納得した。ここの人は優勝より売名目的ってことか』
『売名目的って言葉にするとなんか嫌だなw』
『もし魔女に善戦できたらそれだけで依頼が殺到しそうw』
そういう目的もあるのかな。
でも。
「んー……」
「あの、魔女様。どうかしました?」
「んーん。別に」
みんな、結構ぎらぎらとしてる。ちゃんと勝ちたいって思ってると思う。油断はしないようにしないと。アリシアさんみたいな人がいるかもしれないからね。
部屋で一時間ほど待って、試合が始まった。順番に人が呼ばれて、出て行ってる。私の順番はいつかな?
「リンダさん!」
扉が開いて、リンダさんが呼ばれた。参加者で唯一知ってる人だから、がんばってほしい。
「がんばってね」
そう言うと、リンダさんは少しだけ驚いたように目を瞠って、しっかりと頷いた。
『リタちゃんはリンダさんを応援するの?』
『最後に戦うならリンダさんと、かな?』
『まあ最終的に倒すことになるんですが』
それはそうだけど、言っちゃだめなやつだと思う。
さらに少し待って、
「えー……。隠遁の魔女様」
呼ばれた。がんばろう。
「続いて、ハイツ様」
「うわあああ! よりのもよって魔女とかよおお!」
「あっはっは! がんばれよー!」
「よっし、一戦目はとりあえず免れたぞ……!」
『これは草』
『がんばれハイツさん、負けるなハイツさん、応援してやるからな!』
『なお本人には聞こえていないので無意味です』
ハイツさんという人と一緒に、扉を出る。案内してくれる人についていくと、中心部に続く長い廊下に案内された。ここから奥に行くみたい。
「試合のルールはご存知ですね?」
「あ、ああ……。もちろんだ」
「ん……。ルール?」
「え」
ルール、あるんだね。そういえば確認してなかった。誰からも説明されなかったから、なんでもありなのかなって勝手に思ってたんだけど……。
そう言うと、ハイツさんが蒼白になって震えだして、案内人さんは頬を引きつらせていた。
『言われてみれば誰もルール聞いてねえw』
『いやだって、どんなルールでもリタちゃんなら大丈夫かなって思ってたから』
『魔法禁止ルールだったらどうするんだよ!』
『身体強化でごり押しでは?』
『知ってた』
そっか。魔法禁止っていう可能性もあったかもしれないんだ。次があれば気をつけよう。
「お、おれ、マジでころされかけていたのでは……?」
いや、そんなことしないよ。突然襲われたならともかく、試合だって分かってるんだから。
こほん、と案内人さんが咳払いして、ルールを教えてくれた。
使うものは剣でも魔法でも何でもあり。武器は模造品とかじゃなくて、ちゃんとした自分の武器を使ってもいいらしい。魔法の武器もありだし、魔道具を使ってもいい。
ただし可能な限り殺しは避けること。特に降参した相手に追撃すると失格だし、それだけで犯罪者として扱われるようになるんだとか。
「私たちがすでに勝負が決まっていると判断して止める場合もあります。それには必ず従ってください」
「ん」
「本当に、お願いしますね?」
そんなに念を押さなくても分かってる。それに、この人が勝つ可能性だってあるんだから。
「魔法の弱点は詠唱。だから一気に距離を詰められるとちょっと大変」
「なるほど……。よし、やってやる……!」
「まあ結界張ってるから不意打ちされても問題ないけど」
『ちょwww』
『小声でなんてこと言ってるんだw』
『まあそれもあるから俺らは安心して見てられるんだけどな』
案内人さんに見送られて、ハイツさんと一緒に通路の奥へ向かった。
通路を抜けると、とても広い部屋に出た。床は砂利とか砂になっていて、ところどころに岩が置かれてる。開始と同時に隠れることもできるみたい。
「それでは第五試合! 隠遁の魔女! そして、Bランク冒険者ハイツ!」
Bランク。結構強い方だね。どんな戦い方をする人なのかな。
ハイツさんから少し距離を取って、向き合う。ハイツさんの武器は、斧だね。少し大きな斧で、あれを振り回すみたい。とりあえず一度、結界で受けてみようかな? 反射は今は解除して……。
「開始!」
そんな声が辺りに響いて、ハイツさんが走ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます