参加選手さんたち


 翌日。闘技場に向かうと、入り口の広場の前はちょっとしたお祭りみたいになっていた。たくさんの屋台が並んでいて、美味しそうな匂いもたくさんだ。何か食べたい。

 とりあえず近くの屋台に行ってみる。えっと……。お肉の串焼き。定番だね。一本買って、食べながら歩こう。


『いやリタちゃん受付は?』

『流れるようにすっと屋台に向かったなw』

『美味しそうだからね、仕方ないね!』


 うん。仕方ない。

 お肉を食べながら、闘技場の入り口へ。大きな扉があって、中に入るととても広い廊下になっていた。左右に延びる廊下で、闘技場をぐるりと一周してるんだと思う。

 その廊下にはいくつか上り階段があるから、あれは観客席に向かってるのかも。その階段以外だと、扉がいくつか。こっちは闘技場の内側に繋がってるんだと思う。

 どの扉にも、側に人が立っていた。あの人にどうすれば聞けばいいのかな。

 そう思ったけど、すぐ近くの人は知ってる人だった。


「来た」

「あら、魔女様。お待ちしておりました」


 そこにいたのは、ギルドの受付さん。今日は闘技場の受付をしてるみたい。服装もギルドにいた時と変わらない。


「ここに入ればいいの?」

「そうですね。この中にまた廊下があります。階段の上に番号が書かれていますので、六番の扉にお入りください。そこが控え室となっています」

「ん。何回戦うの?」

「四回だけですね。魔女様が出場すると聞いて、辞退した腰抜けが案外多かったようでして……。申し訳ありません」

「私は別にいいけど……。認めたんだね」

「腹痛から持病の腰痛、様々なことが起こっているようですね」


『腰抜け呼ばわりはひどいw』

『つまり仮病かw』

『マラソン大会当日の俺かな?』


 私としては、楽な方がいいから文句なんてない。痛めつけてやる、なんて思ってるわけでもないし。

 受付さんに見送られて、扉の中に入る。同じような廊下に出たけど、こっちは人が少ない。多分関係者しかいないんだと思う。さっきの廊下はたくさんの人がいたから。

 六番は……ここだね。わりと近かった。

 扉の中に入ると、剣を持った人、杖を持った人、弓を持った人とたくさんの人がいた。みんな強そう、かもしれない。


『はえー。みんな強そうやなあ』

『間違いなくリタちゃんが一番弱く見えるな』

『見えるだけだがな!』

『リタちゃんちっちゃいから!』


 ちっちゃい言うな。ちっちゃいと思うけど。

 私が中に入っていくと、近づいてくる人がいた。とっても大きな男の人で、背中には巨大なメイスを背負ってる。すごく重そうな武器だ。持ち運びが大変そう。


「テメエ、ガキ! なにしに来やがった!」


 そんなことを大声で叫んでくる。スキンヘッドの、強面さんだ。


『急な大声やめてほしい』

『俺知ってる、これテンプレなやつや!』

『お前みたいなガキが来るところじゃねえってやつだな!』

『お前らのそれはもはやフラグなんだが』


 強面さんがずいっと私に近づいてきて、そしていきなり何かを差し出してきた。えっと……。棒のついた飴だ。


「ほら、ここは俺みたいな怖い人もいるんだ。これやるから、戻りな。それとも親とはぐれたか? ん? 誰か係の人を探してきてやろうか?」


 そんな気がしてたのは私だけじゃないと思う。


『知ってた』

『この世界の人、みんな優しすぎない?』

『そのせいでたまにいる悪人さんが極悪人に見えるぜ』


 飴は気になるけど、さすがにここでもらったらだめなのは分かる。迷子の子のためのものだろうから。でもちょっと欲しい。


「迷子じゃない。参加する」

「あ? テメエみたいなガキが何考えてやがる!」

「ん」


 こういう時こそギルドカード、だね。金ぴかのギルドカードを見せてあげると、強面さんは一瞬だけ言葉に詰まって、なるほどと頷いた。納得はしてくれたらしい。


「Sランクとかマジかよ……。見た目で分からないにもほどがあるだろ」

「よく言われる。ところで、その飴、欲しい」

「え? いや、いいけど……」


 やった。言ってみるものだ。強面さんから飴を受け取って、口に入れる。日本の飴ほど甘くはないけど、それでもほのかな甘みが口に広がって、そんなに悪くない。これはこれでいい。


「ありがと。これ、お代」

「ああ、どうも……。いやおい、屋台で銅貨で買ってきたものに銀貨とか渡してくんなよおい!」


『金銭感覚よ』

『銀貨は渡しすぎでは?』


 手間賃こみってことでいいよ。

 もらった飴をなめながら、周囲の人を観察する。すると知ってる人が一人だけいた。それも、昨日会った人だ。


「こんにちは」


 声をかけてみると、弓を抱えてる人はびくりと体を震わせた。

 昨日、討伐依頼を受けた時に一緒にいた人だ。海蛇の牙の弓使いさん。弓を大事そうに抱えてる。この人も出場するのかな。


「出るの?」

「は、はい……。お手柔らかにお願いします……」


 なんだかすごく、自信がなさそう。周囲をずっと警戒してる。ここにいる人はみんな強そうだから、無理はないのかも。

 でもこの人も結構強いと思う。船の上から遠く離れた鳥を仕留められるって、弓使いとしてはかなりすごいんじゃないかな。弓のことはそれほど詳しくないから、多分だけど。


「他の二人は?」

「お父さんとお母さんは今回は出ませ……、あ」

「おー……。親子」

「あわわわわ」


『あのパーティ、家族で冒険者やってんのかよw』

『もっとまともな仕事をやらせてあげればいいのに』

『いやこれ、両親に憧れて自分も冒険者になったパターンでは』

『なるほど理解』


 それはあり得るかもしれない。なんとなく気持ちは分かるから。

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