焼き鳥もぐもぐ

 この後は出現地点まではのんびり、らしい。鳥の魔獣が出てくるところは決まってるんだって。たくさんお魚が捕れる場所に鳥の魔獣も出てくるのだとか。


『単純にエサ場になってるだけやな』

『もしかして定期的に駆除の依頼がくるとか?』


 そうなのかな?


「この依頼ってよくあるの?」


 大剣の人に聞いてみたら、すぐに頷いてくれた。


「年に数回かな。その場所にしかいない魚がいるらしくてね。その魚の季節になると、最初にこうして討伐依頼が出るんだ」

「へえ……」


 その場所にしかいないお魚。わざわざそのお魚のために冒険者を雇うってことは、それだけ美味しいお魚が捕れるってことかな。あまり売れないお魚なら、わざわざ冒険者を雇う必要なんてないだろうし。


「そのお魚って美味しい?」

「ああ、美味しい。細長くてぬるぬるしてる不思議な魚なんだけど、味はなかなか悪くない。その魚のために調味料が作られたんだけど、その組み合わせが絶品なんだ」

「ふうん……」


 なんだろう。どこかで聞いたことがあるような特徴のお魚だ。もしかして、とは思うけど、もしかするのかな。


『ウナギだったりする?』

『異世界にウナギとかおるんか?』

『ウナギのようでウナギでないものがいそうw』

『みかんもどきの例があるしなw』


 ウナギなのかな? ウナギだったら、ちょっと食べてみたい。あとで食べれたりするかな?

 船は小さな島に向かってるみたい。そこにウナギっぽいお魚がいるのかな。あとでこっそり捕るのは……だめかな?


『リタちゃんがぼんやりしてる……』

『多分ウナギ食べたいって考えてるんじゃないかな』

『リタちゃん、もうちょっと集中しよう? うるさくなってきたよ?』


 なんだかぎゃあぎゃあ小島の方がうるさいね。あれが鳥の魔獣の鳴き声なのかも。漁師さんたちも明らかに警戒してるみたいだから。

 冒険者の三人も少し緊張してるみたい。そいんなに強い魔獣なのかな。

 弓使いさんがもう弓を構えてる。最初とは印象が全然違って、今はきりっとしていてかっこいいかも。弓使いさんが矢を射ると、遠くで鳥の魔獣が落ちていくのが見えた。


「おー……。すごい。かっこいい」

「え……。わ、わわ!? あ、ありがとうございます……!」


 また弱気な弓使いさんに戻ってしまった。集中してる時と違うのかな。

 魔法使いさんも詠唱を始めてる。ここから少しずつ削り始めるってことなのかな。

 大剣の人は……何もしてない。剣を持って、警戒してるだけ。


「この依頼では護衛の役割?」

「ああ、うん。そうだよ。遠距離の攻撃手段なんてないからね……」


 大剣で戦うなら、そうかもしれない。アリシアさんとかなら風の刃を飛ばしたりできそうだけど、むしろあの人が別格なだけだろうし。

 ここから削っていくなら、途中で襲われもするだろうけど、あまりこの船にたどり着く鳥はいないかも。弓使いさんも魔法使いさんも次々敵を倒してるから。

 それはちょっと、困る。焼き鳥がなくなる。


「全部倒せるの?」

「微妙なところね……。いつもぎりぎりだから、もう一人雇ってもらっているもの」

「ん。じゃあ、私もやる」


 軽く杖を掲げて、狙いをつけて……。よし。すぱっと。

 魔法を発動。次の瞬間には鳥に魔獣たちの首が落ちていった。


「え」


 弓使いさんと魔法使いさんが固まってる。見えてる鳥は落としたけど、油断はしないでほしい。まだ飛んでない鳥がいたら、そっちは倒してないから。

 とりあえず鳥は回収。半分ぐらいアイテムボックスに回収して、一匹だけ風の魔法でこっちに運んだ。


「うわあ!? 魔獣の死骸が……!?」

「ひいいい! すみませんごめんなさい呪わないでください!」

「こわいよおおお!」


 えっと……。どうしよう。


『大混乱じゃねーかw』

『首のない鳥の魔獣の死体がふわふわ浮いて近づいてくるとかトラウアものだぞ』

『もうちょっと加減してあげて?』


 そこまで変なことはしてないと思うんだけど。

 魔法使いさんは私を変なものを見るような目で見てきてる。私がやってることだっていうのは分かったみたいだけど、どうしてここまで運んだのか分からないみたい。

 まずは解体魔法で食べられるように解体してしまう。そうしてから炎を出して、鶏肉をあぶる。焼き鳥だ。


「あの……。なにしてるの……?」


 弓使いさんが聞いてくる。なんだか少し、怯えられてるような気がする。


「焼く。食べる」

「ええ……」


 なんか、すごく引かれちゃった気がする。


『当たり前なんだよなあ』

『誰だってどん引きだよこんなんw』

『一瞬で全滅させたかと思えばいきなり食べ始める……。危険人物かな?』


 それは失礼だと思う。私だって怒るよ?

 適当に、けれどしっかりと焼いて、ぱくりと一口食べてみた。


「ん。可も無く不可も無く……。中の下ぐらい」


『それは一般的には不可の範疇では?』

『中の下と言いながらまだ食べるのか……w』

『ぺっしなさい! ぺっ!』


 そんなことしない。こうして捕まえたんだから、ちゃんと食べる。

 んー……。ちょっと、こう、筋張ってるというか……。かたい。せめて何か、調味料が欲しい。

 アイテムボックスから真美にもらった塩こしょうを取り出して、ふりかけて、もう一度食べる。うん。悪くない。

 食感はちょっと悪いけど、香りはすごくいい鳥だね。焼いてるだけで食欲をそそる香りが周囲にまき散らされてる。つまり他の人がこっちを興味深そうに見てる。


「食べる?」


 鳥の骨を串みたいに加工して、お肉を刺して焼いて。そうしてからそれを弓使いさんに差し出した。

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