焼き鳥の討伐依頼
さて……。一日暇ができたけど、どうしようかな。
何か依頼でも受けてみようかなと思って、依頼票が貼り出されてるボードに向かう。するとその周辺にいた人たちが勢いよく離れてしまった。多分私のためなんだろうけど、そこまでしてくれなくていいのに。
『依頼受けるの?』
『なんかかなり久しぶりな気がするな』
『何の依頼を受けるのか楽しみ』
どれにしようかな。薬草採取は当然のようにあるけど、これは森の側の街でも受けたし……。どうせならこの街ならではの依頼がしたい。
そう思って探していたら、ちょうどいいものを見つけた。
「これ。海の魔獣の討伐」
『海の魔獣!』
『定番やな』
『あれ? この間クラーケン食べてなかった?』
『せめて倒してないかって聞けよw』
クラーケン……。お船に乗った時に倒して、食べた。でもさすがにクラーケンとはまた別じゃないのかな。海の魔獣としか書いてないし、受付で詳しく聞こう。
依頼票を剥がして受付に持っていくと、すぐに詳細を教えてくれた。
「海の魔獣、というよりも相手は鳥形の魔獣になりますね。海中に引きずり込む魔獣は先日討伐されたそうなんです」
「ん。倒して食べた」
「なるほど魔女さまが……。なんて?」
「食べた」
「…………」
『受付さんの顔がw』
『すっごい変な顔になってるw』
『正気を疑う目ってこういうのをいうんやなw』
それはちょっと失礼じゃないかな。クラーケン、結構美味しかったよ。
お姉さんは何かを言いたげに口を開いたけど、すぐに閉じて咳払いした。
「失礼しました。先ほど申し上げたように、今回は鳥形の魔獣です。漁をしていると襲ってくる魔獣がいるそうで、それを討伐してほしいとのことです」
「ん」
「ですが……。魔女様。今日はゆっくりお休みになった方がいいのではないでしょうか。明日に響きますよ?」
「暇つぶしだから大丈夫」
「暇つぶし……。Bランク依頼が暇つぶし……」
お姉さんの目がなんだか遠いものを見るような目になっちゃったけど、ちゃんと手続きはしてくれるみたい。依頼票にぱっとサインして、私に返してくれた。
「これを港にいる猟師に渡してください。猟師なら誰でも大丈夫です」
それじゃ、行ってみよう。
「焼き鳥楽しみ」
「…………」
『焼き鳥言うなw』
『受付のお姉さんがどん引きしてるぞw』
『うちの子が本当に申し訳なく……』
美味しいかは分からないけど、せっかくなら食べたいだけなんだけどね。
固まってしまったお姉さんに軽く手を振って、私は港に向かった。
港に行くとたくさんの船がある。この間みたいな船もあれば、少し小さめの船とかいろいろ。
漁船って、どれかな?
「漁船が分からない」
『あー……。こっちの世界と一緒かな?』
『こっちの世界と一緒でも、現代日本の漁船とは根本的に違うだろ』
『結論、俺らにもわからん』
仕方ない。適当な人に聞いてみよう。
近くの船に向かって、その側で働いてる人に聞いてみる。がっしりとした体格のおじさんだ。おじさんに声をかけて依頼票を見せると、怪訝そうな顔になった。
「そりゃ俺ら猟師全員からの依頼だが……。お前が受けるのか?」
「ん」
Sランクのカードを見せると、そのカードの意味は知ってるみたいで大きく目を見開いた。それからいきなりにっこり笑顔になる。ちょっと気持ち悪い。
「そうかそうか! いやあよく来たな! 歓迎するぞ!」
「…………。あからさますぎて気持ち悪い」
『こらw』
『見事な手のひら返しである』
『さすがSランクのカードは違うな』
だね。ここまで態度が変わるとは思わなかった。
おじさんに案内されたのは、少し大きめの船。この間乗った船ほどではないけど、漁船にしては大きいお船だと思う。本来はちょっと遠くの海で漁をする時に使う船なんだって。
そこに何人かの人がいて、そして一目で冒険者と分かるグループがいた。大きな剣を持った男の人と、杖とローブの女の人、それに弓を持った女の子。三人パーティだ。
「うん? もしかして君も魔獣退治を受けたのかい?」
そう聞いてきたのは大剣の人。よく見ると、ちょっと年配の人かも。多分、三十後半ぐらい。私が見てきた冒険者ではかなり年上の方だと思う。魔法使いの女の人もそれぐらいかな? 弓の女の子だけ若いかも。
「僕たちはBランクパーティ、海蛇の牙だ。よろしく」
『海蛇の牙www』
『すごくちっちゃい牙ですねwww』
『お前らw』
ちょっと失礼だと思うよ?
「Sランク、隠遁の魔女。よろしく」
そう名乗ると、大剣の人が固まってしまった。代わりの魔法使いさんが震える声で聞いてくる。
「隠遁……。新しい魔女の噂は聞いてるけど、あなたが?」
「んー……。そうだと思う」
「まさか、魔女様と依頼を共にできるなんて……。光栄だわ」
魔法使いさんはにっこり笑って手を差し出してきた。とりあえず握手。そういえば日本だとあまり握手って見ないね。そういうものなのかな?
弓使いさんは私をじっと見つめて、そして勢いよく頭を下げてきた。
「よろしくおねがいしましゅ!」
「…………。よろしく」
『かんだwww』
『あざとい、この弓使いさんあざといぞ……!』
弓使いさんは顔を真っ赤にしてる。かわいそうだからあまり変なことは言わないであげてほしい。あっちには聞こえてないけど。
この依頼を受けたのは私たちだけみたい。だからこれで出発みたいで、猟師さんが慌ただしく動き始めた。
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