再び、闘技場の街


 精霊様やカリちゃんと一緒にお菓子を食べながらのんびりと待って、七時頃にお家に戻ってきた。それじゃあ、配信開始だ。


「師匠見つかりそう」


『リタちゃんおはよおおおおお!?』

『開幕直後に重大発表するんじゃないw』

『マジで? 本当に見つかりそうなん?』


「ん。師匠がいる銀河は分かったから、あとは詳しい場所を調べるだけ」


 私がそう答えると、コメントが流れる黒い板がたくさんの文字で埋め尽くされた。私でも読むのが難しいほどに。


『きたあああああ!』

『リタちゃんおめでとおおお!』

『お前ら落ち着け、まだ気が早いぞ!』

『詳細はこれからなんだから!』

『でもそれでもめでたいことには変わらない!』


 うん……。みんなも喜んでくれて、私も嬉しい。報告してよかった。


『師匠を探す魔法って一日一個の銀河だっけ。もしかしてわりと近い銀河に師匠がいたんかな』

『あとどれぐらいで会えそうなん?』


「天の川銀河と同じぐらいの距離みたい。どれぐらい……。長くて一ヶ月だって」


『わりとすぐやん!』

『これはリタちゃん楽しみやね』

『早く会えるといいね』


 ん……。師匠に会うのは、とても楽しみ。早く会いたい。


「でも精霊様からは、見つかるまではいつも通りに過ごしなさいって言われたから、今日は闘技場の街に行く」


『気を揉んで待っていても疲れるだけだろうからね』

『そういえば闘技場忘れてたわw』

『もうそろそろ開催だっけ。参加すんの?』


「んー……」


 今までは師匠の足跡をたどる、みたいに回ってたけど、師匠と会えるなら直接聞けばいいかなって思ってる。だから王様に会う必要もないし、わざわざ闘技場に出る必要もやっぱりないんだけど。

 でも、師匠も参加した闘技場にはちょっと興味がある。出てみてもいいかも。


「出る」


『よっしゃあ!』

『無双しようぜ無双! 格の違いを見せつけてやれ!』

『皆殺しじゃぁ!』


「私をなんだと思ってるの……?」


 闘技場のルールがどうなってるかは分からないけど、意味なく殺そうとも思わないよ。


「どんな人が出てくるかは分からないけど……。適当にがんばってくる」


 強い人がいるか分からないけど、楽しみだね。




 お昼前に闘技場のある街に転移した。私が泊まった宿の裏側。それから宿に向かう。挨拶しておかないと。

 いや、ちょっとやっちゃったことがあって……。鍵をかけて転移してそれっきりだったから。一日分しか払ってないのに鍵をかけていなくなってるって、すごく困ったと思う。


「悪いことしちゃったかもしれない」


『言われてみれば確かに』

『部屋を訪ねても誰もいない、それなのに鍵はかかってるって、わりとホラーやなw』

『窓も閉めたままだったしなあw』


 改めて思い出すとちょっとひどい。お金、多めに払っておこう。

 私が宿に入って受付に行くと、受付にいたおばさんが目を丸くした。


「あんた……。どこに行ってたんだい! 誰もいないのに鍵もかかってるし、窓も開いてないし、どうしようかと思ったよ……!」

「ん。ごめんなさい。お金、多めに払う」

「はっ! ちょっとやそっとじゃ許す気はないよ! 今から兵士に連絡して……」

「とりあえず金貨十枚ほどで。はい」

「次から気をつけてくれればいいよ!」


『草』

『超高速手のひらくるー』

『すごいな、金貨を見た瞬間、一切詰まることなく許しちゃったぞw』

『これが金の力だ!』


 嫌な力だね。でもお金、持っててよかった。お金には特に困らないからあまり気にしてなかったけど、今後はもう少し貯めておこう。


「それで? あんたは闘技場に参加するのかい? 参加するならギルドに行っておくんだよ」

「ん。行ってみる。ありがと」

「気をつけて行ってきな」


 なんだかおばさんがすごく優しくなった気がする。さっきはすごく怒ってたのに。お金、すごいけど怖い。

 宿を出て、まっすぐギルドへ。ギルドに入ってカウンターに向かう。ここに来た時に会った人と同じお姉さんだ。私を見て、少しだけ目を丸くした。


「ようこそ、魔女様。どのようなご用件でしょう」

「闘技場、参加したい」

「わあ……」


 どうしてか、お姉さんが少し遠い目をしてしまった。

 その直後に周囲でもいろんな音と声が聞こえてくる。物を落としたり、嘆きの声だったり。


「ちくしょおおお! 今回こそはと思ったのに魔女が参加するのかよお!」

「優勝無理じゃね? え? これ参加する意味ある?」

「落ち着けお前ら! ただの魔女、つまり魔法使いだ! いっきに近接に持ち込めば……!」

「それで負けるようなやつが魔女になれるわけねえだろうがバカ!」

「そりゃそうだ!」


 うん。えっと……。ごめんなさい?


『阿鼻叫喚である』

『俺らはリタちゃんの無双を楽しみにするだけだけど、この人たちからすればたまったもんじゃないわなw』

『セミプロの大会に世界王者が出場するようなもんかな?』

『そう思うとクソすぎるw』


 んー……。でも、だめって言われたわけじゃないから、出場はできるはず。

 振り返ってお姉さんを見ると、にっこりと微笑まれた。


「受理しました。明日はがんばってくださいね、魔女様」

「ん……」

「ちなみに皆様、辞退は許しませんので」

「ひどい!?」

「横暴だ! ギルドに訴えてやる!」

「そのギルドがここだよちくしょう!」


 なんだかちょっと悪いことをしちゃった気がするけど、でも参加はできそうだし、いいのかな? だめだったら止められるはずだし。


「ちなみに魔女様、明日の朝に闘技場までお願いします」

「ん」


 集合は闘技場だね。ちょっとだけ楽しみ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る