焼きたてクッキー
仕方なくまたのんびり待とうと思ったところで、他の人が集まってきた。視線は私に集中してる。なんだろう?
「リタちゃん! お話ししてもいいかな……!?」
「ん……。なに?」
「リタちゃんの世界のこととか、あと魔法もシャボン玉でいいから見せてほしいなって……!」
クッキーが焼き上がるまでは暇だから別にいいけど。シャボン玉はとりあえず先に使っておこう。魔法陣を描いて魔力を流すと、すぐにシャボン玉が浮かび始めた。
「おお……!」
「本当に何もないところから急に出てきた!」
「魔法すげえ……!」
地球の人はシャボン玉が好きだね。やっぱり魔法が珍しいってことなんだろうとは思うけど。
焼き上がるまでのんびりとお話ししながら待つ。私の世界のことについても話したけど、どちらかと言うと私のことの方が多かった気がする。
好きな食べ物とか、趣味とか、そういったこと。別に害になることもないだろうから正直に答えたけど、意味あったのかな。
焼き上がったところで、オーブンからクッキーを取り出す。少し焦げ目がついてるけど、少し熱くて美味しそうに焼き上がった、と思う。
『おー。クッキーになってる』
『途中からはちゃんとレシピ通りだったからなw』
ほかほかと少し熱いクッキーだ。焼きたてのクッキーって初めて見るかもしれない。食べていいのかな?
「食べていい?」
「もちろん。自分で作ったものは格別だよ」
それじゃ、早速。一個つまんで、口に入れる。おお……。ちょっと熱いけど、すごくさくさくとしてて軽い食感だ。
真美が言うには、焼きたてのクッキーは冷めたものより崩れやすいらしい。だから食感もやっぱり違ってくるのだとか。
んー……。でも、なんだかそれだけじゃないというか。すごく美味しく感じてしまう。味そのものは多分市販品の方が美味しいと思うんだけど、なんだろう。不思議な感覚。
『自分で作ったものって美味しく感じるものだよ』
『きっと達成感とかが味のスパイスになってるんだと思う』
『世界で唯一のお菓子だから味わって食べるんだぞ』
そう、だね。自分用にも取っておこう。
あとは……。五枚ずつにして、精霊様と、カリちゃんと、ゴンちゃんと、フェニちゃん。あとは、真美とちいちゃん。私が五枚で、残りの五枚はアイテムボックスに入れておこう。
「はい、リタちゃん。袋。みんなに配るんでしょ?」
「ん」
『すごいな真美ちゃん、リタちゃんの行動を完全に読んでるぞ』
『きっと家族に配るんだろうなあ……』
『字面だけならほんわかしますが配る相手は精霊とかドラゴンです』
『家族ってなんだっけ』
家族は家族だよ。何で疑問に思ったのかよく分からない。
袋に入れてからアイテムボックスへ。あとはみんなに配るだけ。どんな反応をするかな。今から楽しみ。
「そっか、リタちゃんは自分のご家族に配るんだね」
その声で顔を上げたら、先生含めてみんなが集まってた。何故かとても残念そうにしてる。私が首を傾げていると、真美が教えてくれた。私のクッキーが食べたかったらしい。
「物好き」
「あはは……。リタちゃん、私のクッキー食べる?」
「食べる!」
「うん。そういう気持ちだよ」
「ん……?」
よく分からない。真美からもらったクッキーをかじって……、美味しい。とても美味しい。さすが真美だ。
「んふー」
「あ、すごくかわいい」
「配信で何度も見てるけど、この無表情ながらの幸せな顔、いいよね」
『お前ら全員羨ましすぎるんですが』
『俺もリアルで見たいなあ!』
『どうして俺は社会人で心桜島に住んでないんだ……!』
『あの場にいる方が間違いなくレアだから落ち着けw』
真美はあまり配る相手がいないらしくて、二十枚ももらってしまった。クッキーいっぱい。大事にアイテムボックスにしまっておこう。おやつが増えた。楽しみ。
「あ、リタちゃんあたしのクッキーもいる?」
「こっちもあるよ」
「先生のもいりますか?」
「ん!?」
え、なにこれ。なんだかたくさんクッキーを渡された。十枚入りの袋がたくさん。たくさんというか、クラスの人それぞれから。クッキーいっぱいだ。
ちなみにちょっと失敗しちゃった人もいるらしいけど、それはそれで楽しそう。微妙な味のものでも大丈夫。
「師匠の料理よりは美味しいはず」
『いや草』
『まあ一応レシピを見ながら作ったものだしなw』
『師匠さんはうろ覚えで頑張ってたから……!』
師匠の料理も不味いわけじゃないけどね。私は美味しく食べてたから。
それじゃあ……。もらってばかりも悪いから、私からもお土産だ。
「お肉、食べる?」
「え?」
「お肉って……?」
アイテムボックスから、ミレーユさんの宿屋で作ってもらったお肉を取り出す。大きな丸焼きのお肉だ。これならみんなで食べてもそれなりの量があると思う。
「これって……!」
「配信でリタちゃんが食べてたやつ……!」
「うわ、すっげいい匂い!」
うんうん。香辛料もたっぷりだから、すごく香りがいい。美味しそうに見える。みんなも興味があるみたい。
でも真美と先生は、ちょっとだけ難しい顔をしていた。
「ねえ、リタちゃん」
「ん?」
「これ、私たちが食べても大丈夫?」
「ん……」
えっと……。どうなんだろう? そういえば、私は自分に何かあっても魔法でどうにかできちゃうけど、この世界の人たちはそういうのがないんだよね。
私の世界の人には無害でも、この世界の人にとっては劇毒なんてこともあるかもしれない。それはちょっと、私には分からない。
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