生卵をぱかっ!
ん……? 違うみたい。周りの人にも笑われちゃってるし。
「リタちゃん、ほら、ここに分量書いてあるでしょ? ちゃんと指示に従ってね?」
「甘い方が美味しい」
「気持ちは分かるけど、まずは基本に忠実にね……!」
『あれ? もしかしてリタちゃん、料理下手の気配がある……?』
『そもそも料理をほとんどしたことがない子だから』
『何言ってんだ、リタちゃん森で料理してるだろ!』
『丸焼きとかぐらいしかしてなくないかw』
指示通りに作った方がいいらしい。ちゃんと分量にも気をつけて……。
『お、ちゃんと分量はかりはじめた』
『周りの子が丁寧に使い方教えてあげててほっこりする』
『ていうかそうか、そもそもリタちゃん、器具の使い方とか全然知らないのか』
使おうと思ったこともなかったからね。こういうのがある、ということしか知らなかった。
ちゃんと砂糖とバターの量を守って、混ぜる。まぜまぜ。ちなみに袋から出しちゃった砂糖は周りの他の人が引き取ってくれた。
混ざったら、卵を入れる。あっためてない卵みたいだけど……。なんだかみんな、器用に割ってる。すごい。
「真美。真美。みんなすごい。ぱかって割ってる。すごい」
「うん。私もできるからね?」
「真美すごい……!」
「えへへ……」
『謎の対抗心からのふにゃ顔』
『真美ちゃんwww』
『あれ? リタちゃん卵食べたことないの? 卵かけご飯とかうまいのに、師匠さんやらなかったんか?』
『お前は日本の卵の安全性に慣れすぎだぞ』
卵かけご飯。そういえば、食べたことない。師匠からそういうのもあるっていうのは聞いたけど、生卵は危ないからやめとけって言ってたから。
魔法でどうとでもなると思うけど、どうして止められてたのかな。精霊様に聞いてみようかな。
それはともかく。私もやってみよう。ぱかっと……ぱかっと……。
『ぐしゃあ』
『知ってたwww』
『リタちゃんの呆然としてる様子が新鮮でかわいいです』
『周りの視線があったかいなあw』
すごく難しいね、これ。力加減が特に。卵の殻がいっぱい混ざっちゃった。このままだとちょっと食べられなさそうだから……。魔法で殻だけ取り除こう。
食べられない殻だけ浮かせて、空の容器に全部入れる。これで、良し。
「できた」
「ずるい」
『ずるいてw』
『いや気持ちは分かるけどw』
『失敗したら丁寧に卵の殻を取り除かないといけないもんね……』
『簡単に取り除けるのならいっそ全部潰してもいいのでは?』
それはちょっと極論だと思う。
卵を入れたところで、またしっかりと混ぜて……。次に、何か粉を混ぜる。何の粉だろう、これ。
「うすりきこ?」
「惜しい……のかな……?」
『うすりきこってなんぞ』
『薄力粉じゃないかなあ』
『リタちゃん、はくりきこな。はくりきこ』
「はくりきこ」
日本語はたまに難しいと今でも思う。同じ文字でたくさん読み方があるのは不親切だよ。日本語を勉強する人のことをもっと考えてほしい。
薄力粉というのをまぜて、ラップで包んで冷蔵庫に入れる。とっても簡単だけど、ここから三十分ぐらい待たないといけないんだって。すごく暇になりそう。
「真美。真美。あれで何枚ぐらい作れるの?」
「多分三十枚ぐらい、かな……?」
「おー……」
そんなにあるなら、精霊様にもあげようかな。もちろんカリちゃんや、真美たちにも。でもやっぱり自分でも食べたい。どんな味なのかな。楽しみ。
『リタちゃん上機嫌やな』
『待ってる時間のわくわくはね。分かるよリタちゃん』
すごく楽しみ。
待ってる間は、他のレシピっていうのも教えてもらった。今回の作り方はとても簡単なものだけど、他にもクッキーはたくさんの作り方があるらしい。
チョコやココアも混ぜたりできるんだって。チョコクッキー。ココアクッキー。それも食べたい。
「作るの難しい?」
真美に聞いてみると、笑いながら首を振った。
「そんなことないよ。ちゃんと作り方を守れば、簡単なものなら誰でも作れるから。もちろん、プロが作るような凝ったものは難しくなるけど」
プロのクッキーっていうのはちょっと気になるけど、この手作りのお菓子も美味しそうだと思う。どんな味がするかはまだ分からないけど。それに、きっと真美なら美味しく作るだろうし。
「真美。真美」
「今度作ってあげるね」
「わーい」
『なんだこのほのぼの』
『両手を上げて喜ぶリタちゃんがかわいいです』
『なお無表情である』
『無表情で両手を上げるのはちょっと草なんだ』
そんなこと言われても少し困る。
十分に冷やしたら、今度はオーブントースターで焼くだけ。まずはさっき作った生地を薄くのばして、クッキー型っていうので抜いていく。これが少し膨らんでクッキーになるらしい。数は、四十個。真美の予想よりずっと多くなった。
重ならないように並べてから、トースターへ。あとはまた待つらしい。
「どれぐらい?」
「二十分ぐらい?」
「長い……」
「その分簡単だから……」
むう……。待ってばかりでちょっと退屈だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます