ふぁーすとこんたくと

 んー……。


「真美。真美」

「うん。なに?」

「手を出して」

「え? あ、うん。こう?」


 真美の手を握って、真美に結界の魔法をかける。そうしてから。


「ちょっとだけ出かけてくる」

「え」


 首を傾げるみんなの前で、転移する。向かう先は、精霊の森の世界樹の前。

 真美は一瞬で光景が変わることにはもう慣れたみたいだけど、転移した場所に驚いたみたいで目をまん丸にしていた。


「え、ちょ、リタちゃんここって……」

「ん。精霊の森」

「あ、あわわ、あわわわわ」


『ちょ』

『この子さらっととんでもないことしやがったw』

『ついに地球人が異世界に行っちゃった……!』


 ちゃんとすぐに帰すから大丈夫。


「精霊様。精霊様」


 精霊様を呼ぶとすぐに出てきてくれて、そしてぴたりと固まってしまった。


「あ、あの……。リタ? この子は、もしかして……」

「ん。真美。地球の友達」

「…………」


 精霊様が頭を抱えてしまった。さすがに急すぎだったかもしれない。


「リタ……。さすがに地球の人をここに連れてくるのはですね……」

「すぐに帰すから。だめ?」

「うう……。本当に、すぐに帰すのですよ?」

「ん」


『おいこら精霊様』

『精霊様もうちょっとがんばって!』

『精霊様が止めなくて誰がリタちゃんを止めるんだ!』


「この森から出なければ、一応は大丈夫だと思いますので……」


 さすがに街にまで連れて行くようなことはしないよ。ミレーユさんたちへの説明もとても面倒だし。

 それじゃ、そろそろ本題だ。


「精霊様。真美の体を調べて」

「はい? どこか悪いのですか?」

「んーん。この世界の食べ物を食べても大丈夫か、見てほしい」

「ああ、なるほど……」


 精霊様と真美も得心したみたい。真美は近づいてくる精霊様に少し緊張しながら、じっと待ってる。


「ふむ……。まずは真美さん」

「え、あ、はい!」

「いつもリタがお世話になっています。この子の相手は大変でしょう?」

「いえ、そんなことは……。リタちゃんかわいいですし」

「そうでしょうそうでしょう」

「あ、この人思った以上に親馬鹿だ」


『真美ちゃんw』

『精霊様はもうちょっとこう……いや無理か』

『リタちゃんにめちゃくちゃ甘いからなあ精霊様』


 それでは改めて、と精霊様がじっと真美を観察する。一分ほどじっくり観察して、なるほどと頷いた。


「食べ物なら問題はないでしょう。ですが、魔力そのものに触れたことがほとんどない影響か、魔力が濃い場所に長くいると体調が悪くなってくると思われます。その意味でも、早めに帰してあげてくださいね」

「ん……」


 それなら、うん。早く帰ろう。この世界でも、この森、特にここ世界樹の側は一番魔力が濃いところだから。


「それじゃ、真美。帰ろう」

「う、うん……。あ、まって、精霊様!」


 真美が呼ぶと、精霊様は少し意外そうにしながら首を傾げた。


「はい、なんでしょう?」

「その、ですね……。リタちゃんはとても良い子なので、心配しないでください。今後も仲良くしたいです」

「ああ……。ふふ。はい。よろしくお願いしますね」


『なんだろうこの保護者みたいな会話』

『いやだって実質両方とも保護者だし』

『異世界側の保護者の精霊様と地球側の保護者の真美ちゃん』

『そしてリタちゃんの顔は微妙に赤いw』


 いやだって……。どうしてそんな話をしてるのかな。ちょっと、恥ずかしい。真美にたくさんお世話になってる自覚があるから、何も言えない。

 もう帰ろう。この二人が一緒にいると、もっと恥ずかしいことがありそう。私の恥ずかしい話をたくさん始めそう。だから帰ろう今すぐ帰ろう。


「それじゃ、転移」

「それでは真美さん、お元気で」

「はい、精霊様も!」


 真美の手を取って、転移する。もちろん転移先はさっきの教室だ。

 私たちが教室に戻ると、ほとんどの人がスマホを見ていた。多分、配信を見ていたんだと思う。みんなが一斉に私と真美の方を見た。ぐるりと。ちょっと怖い。


「真美……行っちゃったの、異世界に……!」

「そうみたい……? 実感があまりわかないけど……」

「精霊様と会ったのよね?」

「うん……。なんだかすごく神秘的な人……人? 人だったよ」

「いいなあ!」


 真美がみんなと話してる間に、私はお肉を切ることにする。精霊様からお墨付きをもらったし、これで安心だ。魔法ですぱぱと切り分けて、適当にお皿に載せていく。お皿はいっぱいあるからね。


「真美。真美。食べる?」

「え? あ、うん……」


 真美にお皿を差し出すと、少し緊張した様子だけど受け取ってくれた。

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