心桜島の学校


 真美の家に到着したのは、お昼の十二時ぐらい。


「あ、リタちゃんいらっしゃい!」


 そう言って出迎えてくれたのは、もちろん真美だ。キッチンのテーブルにはお弁当箱がある。青色とピンク色のお弁当箱で、二段になってるもの、だね。お弁当、気になる。


「お弁当は学校で食べるから待ってね。とりあえず着替えよっか」

「んー……。着ないとだめ?」

「着てほしいな」

「ん」


 あの服、何も魔法がかかってないから少し不安になるけど……。結界の魔法を使っておけばいいかな。そうしよう。


「あ、リタちゃん、配信は着替えてからやってね」

「ん」


 私は気にしないけど、なんだっけ、こんぷらいあんすてきなもんだい、らしい。

 さっと着替えて、ローブとかはアイテムボックスへ。何度見ても不思議な形状の服だと思う。とりあえず、着替えたから配信開始だ。


「学校行く」


『あ、はい』

『こんちゃー!』

『リタちゃん挨拶しよ?』


「ん……。こんにちは」


『挨拶だー!』

『リタちゃんこんにちは!』

『セーラー服のリタちゃんかわいい!』


「…………」


『めちゃくちゃ微妙な顔になってるw』


 なんだかすごくバカにされたような気がするから。気のせいかもしれないけど。

 キッチンの方に戻ると、お弁当箱が一つなくなって、ピンク色のお弁当箱だけになっていた。真美が鞄に入れた、のかな? ということは。


「はい、これ。リタちゃんのお弁当」


 渡されたのは、ピンク色のお弁当箱だった。


「ん……。ありがとう」


『ピンク色か』

『なんかリタちゃんがすごく女の子っぽい』

『リタちゃんはもとから女の子らしいだろうがいい加減にしろ!』

『ばくっとかが?』

『擬音語かわいいだろうがいい加減にそう思い込め!』

『思い込まないといけないのかw』


 別にかわいいと思ってほしいわけじゃないから、気にしないよ。

 お弁当箱をアイテムボックスに入れて、学校に出発。真美は鞄を持ってる。ちょっと大きめの鞄で、勉強道具とか入ってるらしい。


「私はいいの?」

「うん。そもそも持ってないでしょ?」


『そりゃそうだw』

『ていうか持ってたとしても、アイテムボックスがあるから必要ないのでは?』


 それはそうだけど、雰囲気が大事かなって。

 しばらく歩いて、真美の学校に到着。なんだか少し騒がしい。ケンカみたいな騒がしさじゃなくて、楽しそうな声がたくさん。


「土曜日は午前授業だけだからね。本当だったら、後はお弁当を食べて、帰るだけ」

「ん……。今日は?」

「午後授業ありかな。私のクラスだけだけど」


 自由参加らしいけど、全員が残ってるらしい。そういうもの、なのかな?


『これって事情説明されてんのかな?』

『さすがに何もないのに残れとか言われんだろ』

『待っていればリタちゃんに会える……。なら?』

『待つしかねえよなあ!』


 よく分からないけど、そういうものらしい。よく分からないけど。

 学校は、大きな校舎と体育館、それにグラウンドがあるらしい。グラウンドは広い砂、なのかな? そういう場所。そこまで生徒数は多くないから、小学校、中学校、高校と、全て兼ねてるんだって。


『なんだその不思議学校』

『小学生と中学生が一緒にいるのはまだ分かるけど、高校もなのか』

『心桜島は小中高全てその学校しかないから……』

『あー……。わりと人は増えてるけど、離島だもんな……』


 一応は珍しいみたい。私はよく分からないけど。

 校舎の中は、なんだかとても広い廊下があった。


「一階は職員室とか、理科室とか音楽室とかあるよ」

「ふうん……」


『これはよく分かってないやつ』

『リタちゃんからすれば学校の部屋とか分からんだろうからなw』


 軽くは知ってるけど、そこまで詳しくないかな。

 二階が小学生クラス、三階が中学生クラス、四階が高校生クラスらしい。三階と四階に部活の部屋もいくつかあるらしいけど、今回は関係ない、かな?

 真美に案内されたのは、高校一年のクラス、だって。真美のクラスらしい。


「どこも廊下が広い」

「たくさんの人が勉強してるから。離島で人が少ないって言っても、一学年三十人ぐらいはいるし」

「おー……」


 えっと……。小学校が六学年、中学校と高校が三学年、だっけ? 三百人以上の子供が勉強してるってことかな? そう思うと、なんだかすごい場所だ。

 私があっちで見た魔法学校よりも人が多いかもしれない。すごい。


『ちなみにリタちゃん。都会の学校はもっとすごいからね』

『一学年で複数クラスが当たり前だから』

『普通学校って、小中高別々の校舎、というか敷地が当たり前だし』


 んー……。人数がすごく多いっていうのは、なんとなく分かった。

 校舎の中は少し騒がしいけど、誰も外に出てこない。みんな教室で話してるみたいだね。真美に聞いてみると、今日は昼食の時間が終わるまで外に出ないように、ということになってるらしい。


「それじゃ、入るよリタちゃん」

「ん」


 真美の教室にたどり着いたところで、真美は教室のスライドのドアをさっと開けた。

 同じセーラー服を着た人やまた別の真っ黒な服を着た男の人がたくさんいる。つまり、この人たちがここで学ぶ学生さんらしい。

 教室の中は最初は騒がしかったけど、真美と、そして私を見て一気に静かになった。


『この教室の雰囲気、いいよね』

『懐かしいなあ教室』

『真美ちゃんたちにかかってる認識阻害がないからかみんなモザイクになってて不気味だw』


 みんなモザイクになってるみたい。精霊様が何かしてくれたのかも。

 この静かさには真美も予想外だったみたいで、少し戸惑ってるみたいだ。え、あれ、なんて言いながらきょろきょろしてる。


「あの……中山さん……。その子……」


 近くの男子生徒さんが声をかけてきた。中山……真美の名字だったね。真美が頷いて、


「うん。リタちゃん。知ってる?」

「し、知ってるけど……! え、あ、そっか……配信の真美って……!」


 この様子だと、真美にかけた隠蔽の魔法はちゃんと問題なく効果が出てたみたいだね。配信で真美の顔は分かるけど、リアルだと分からなくなるっていうちょっと条件付けが複雑な魔法だったけど……。安心した。


「そう! この子が今日のお客様! みんなよろしく!」


 真美がそう言うと、教室中の人が叫び声を上げた。ちょっとうるさかったです。

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