日本へのお土産


 今日は真美との約束の日。真美の学校を体験する日だ。

 でもその前に。私は自分の世界のギルドにいた。森に近い街のギルドだ。部屋にいるのは、ミレーユさんとセリスさん。二人とも、神妙な面持ちだった。


「リタさん……もう一度聞きますわ……」

「ん」

「お土産になるものが欲しい、食べ物で、ということですわね」

「そう」


 もちろん上げる相手は日本の人たち。さすがにそれは言えないけど。

 ミレーユさんは深く頷いた後、大きなため息をついた。


「ずいぶんと改まった様子でここに来たから、闘技場で何かとんでもないことがあるのかと思いましたわ……」

「本当にね。思わず身構えてしまったわ」


 二人そろってため息をついてる。勝手に緊張してただけなのに、失礼だと思うよ。


「お土産なら本来は日持ちするものを選ぶのですけど……。リタさんの場合、それは気にしなくてもいいですわね?」

「ん」

「ふむ……」


 ミレーユさんが腕を組んで考え始めてる。その間にセリスさんを見ると、こっちも考えてくれてるみたいだった。おとなしく待っておいた方がいいかな。


「リタさん。それはどういう相手に渡すのかしら」

「んー……。何も知らない人」

「本当にどういう人なの……?」


 それは内緒だから言えない。

 先に答えが出たのはミレーユさん。軽く手を叩いて、それならと立ち上がった。


「料理を提供すればいいですわ!」

「料理?」

「そうですわ。ここの名物と言えば、わたくしの宿のあの料理でしょう!」


 あのキャスティボアっていうやつの丸焼きかな。確かにあれは、この世界の料理にしてみれば美味しかったと思う。日本の人たちは食べたことのない味付けだろうし、珍しさではちょうどいいかも。


「問題は材料ですけれど……」

「集めてくる」

「そうですわね。リタさんならすぐでしょう」


 精霊の森の素材なら問題なく集められるからね。お礼もその材料で渡せばいいかな。

 とりあえずは材料集め。まずは何が必要なのか聞きに行こう。


「セリスさんも、考えてくれてありがとう」

「私は役に立てなかったけどね……。ところで、闘技場には参加するつもり?」

「んー……。考え中」

「そう。隠遁の魔女の勇名が届くのを楽しみにしてるわ」


 楽しみにされても困るけど。

 セリスさんに手を振って、私はミレーユさんを連れて宿に転移した。

 転移した先はミレーユさんの宿の部屋。客間に使ってる方だ。ちょうどメグさんが掃除をしていて、私たちを見て目を丸くしていた。


「わ……。びっくりした。ミレーユ、おかえり。リタ様も、ご無沙汰しております」

「ちょっと、メグ! わたくしへの態度をもう少し……」

「せめて出した本を戻すことを覚えてから言って」

「あ、はい……ごめんなさい……」


 何というか……。二人の力関係が分かるね。

 とりあえずミレーユさんは材料を聞きに行くらしい。私はここで待機だ。材料が分かったら、さくっと集めて作ってもらおう。

 そう思って待っていたら、すぐにミレーユさんが戻ってきた。


「戻りましたわ。キャスティボアはちょうど仕入れたところで、お肉は問題ありませんわ。香草などですけど……これですわね」


 そう言ってミレーユさんが見せてくれたメモには、たくさんの素材の名前などが書かれていた。野菜とか、香草とか、いろいろ。全部精霊の森でとれるものだ。つまり、すぐに手に入れることができる。


「料理の時間ってどれぐらいかかるの?」

「え? わたくしの炎を使えば、お昼過ぎには……」

「ん……。ちょうどいいぐらい、かな?」


 じゃあ早速集めに行こう。ミレーユさんに手を振って、次は精霊の森の自宅前に転移した。




 精霊の森で言われた通りのお野菜と香草をとってきて、ミレーユさん経由で宿の人に渡して。料理ができるまでは、ミレーユさんとのんびり。最近の出来事とか教えてもらった。別に大きなことはないみたいだけど。


「そういえば、隠遁の魔女の出身地ということで、観光客が少し増えましたわ」

「ん……? なんで?」

「あなた、わりと有名になってますわよ?」


 聞いてみると。僻地にふらっと現れては依頼を消化してまた旅立つ変な魔女、ということで有名になってるらしい。その上、王都での一件も広く知られてしまったらしくて、それも含めてどんな魔女なのか調べに来る人が増えたのだとか。


「ここに来ても何も分からないと思う」

「ですわね。リタさん、ここで魔女として活動したことはほとんどありませんし」

「ん」


 精霊の森の調査とかスタンピードのこととかあるけど、魔女として誰かと会話したことはかなり少ないと思う。隠遁の魔女の出身がこの街、ということすら知らない人が大多数じゃないかな。

 出身は精霊の森だけど、それこそ限られた人しか知らないし。


「最近ギルドは賑わいがありますから、ご興味があれば魔女としてのぞいてみるといいですわ。冷やかしに」

「冷やかしに」


 それはさすがに悪いと思うよ。セリスさんが怒りそう。

 お昼までそんな話をして、料理を受け取ってアイテムボックスに入れた。それじゃあ、真美のお家に行こう。


「ミレーユさん、いろいろありがと。また来る。メグさんも、ミレーユさんの面倒を見るのは大変だと思うけど頑張ってね」

「お待ちなさい、何ですかその評価は!? ねえ、なんですの!?」

「はい、がんばります!」

「メグ!?」


 不満に思うならもうちょっと自分で片付ければいいと思うよ。

 私は二人に手を振って、真美のお家へと転移した。

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