すごくかたいあいす
「とても固くなっていますので、少し溶かしてからお召し上がりください」
「溶かす……。炎の魔法で溶かす?」
「やめてくださいね?」
「ん」
『さすがに危なすぎるからなw』
『何もしらない乗客がいたら通報ものだろうし』
『何か知っていても普通は通報する案件だよ』
のんびり待とうかな。まだまだ時間はあるんだし。
「あの……。もう一つだけ……」
「ん?」
「握手、いいでしょうか」
「ん」
手を出してあげると、女の人がそっと握ってきた。なんだかおっかなびっくりだね。
「わ……ちっちゃい手……やわらかい……」
『声全部拾われてんぞw』
『いいなあぷにぷになんだろうなあ』
『俺もリタちゃんのちっちゃい手を握りたい!』
会う機会があれば握手ぐらい別にいいけどね。
女の人に手を振って、離れていくのを見送る。さてと。それじゃ、アイスだ。まずばバニラから。ぺりぺりっと剥がしてと……。
『あれ? 溶かすのでは?』
『我慢できなくなっただけだろ、言ってやるなよ』
『理解した』
その通りだから言わなくていいよ。
もらっていたスプーンでちょっと叩いてみる。本当に、すごく固い。こつこつしてる。んー……。
「これはアイスの形をした模型だね」
『違うが?』
『残念ながら普通に食べられるアイスです』
『新幹線のアイスはマジでくっそ固いからなw』
いや、うん。分かってるよ、もちろん。それぐらい固いってことだよ。
でもすぐには食べられないみたい。それはちょっと、嫌だな。食べたい。食べよう。魔力でスプーンを覆って、ていや。
「よし」
『うええええ!?』
『うそやん普通にすくい取った!?』
『さてはリタちゃん魔法でずるしたな!?』
「ん」
『素直か! 好き!』
『大胆な告白は女の子の特権なのでお前はNGです』
『なんでや! 女の子かもしれへんやろ!』
『女の子なの?』
『男だが』
『しね』
『ひどいwww』
とても冷たいアイスを一口、ぱくり。おー……。とても、とても固い。でもすごく濃厚な味。美味しい。ちょっと高いけど、その価値はあると思う。
ただやっぱりすごく固いから、噛むのにも魔力を使わないといけない。ちょっとだけ面倒だね。でも美味しい。
「んふー」
『新幹線のアイス、濃厚で美味しいよね』
『だめだ我慢できねえ! コンビニでお高いアイス買ってくる!』
『まだだ……まだ俺は……! 我慢しないぞポチー』
『ちょっとは我慢しろよw』
美味しいものは気にせず食べればいいと思う。
バニラの次は、チョコレート。でも次はちょっとだけ待ってみる。やっぱり魔力は面倒だから。待ってる間は外の景色でも見ておこう。
二十分ほど待ってから、チョコレートアイスを食べる。今回は魔力を使わなくてもすくい取ることができた。固さもほどよい感じで、食べやすい。味もやっぱり濃厚で美味しいね。
「うまうま」
『チョコアイスもいいなあ』
『俺は……いくつアイスを買えばいいんだ……!』
アイスはとてもいいもの。あとでこのアイスももうちょっと買おうかな。
アイスを食べ終わったところで、次のお弁当だ。お口の中はまだちょっと冷たいけど、食べられないほどじゃない。次も美味しく食べられる自信がある。間違いなく。
『流れるように最後のお弁当を取り出したんだけど』
『消化が早すぎませんかねえ!?』
『リタちゃん、後半めちゃくちゃ暇になるぞw』
その時はのんびりするだけだよ。
最後のお弁当は、深川のお弁当。開けてみると、あさりって言うのかな? 貝がたくさん入ってた。ごはんの上はあさりでいっぱいだ。美味しそう。
早速食べてみる。ほんのり甘めの味付けがされてるけど、あさりの味をしっかりと感じられる。一緒に入ってるのは、ゴボウかな? ほどよい食感のアクセントになってる。
これも量が多いけど、飽きてもお口直しできるようにお漬物とかが入ってた。気遣いがとてもいいと思う。
んー……。とても美味。美味しい。
「んふー」
『ああああ! 俺は! 肉と貝! どっちを食べればいいんだあああ!』
『両方食べればいいと思うよ』
『おいでよ重量級の世界』
『さすがに嫌すぎるわw』
我慢はよくないと思うよ。私は、だけど。
全部食べ終わって、とりあえず満足。美味しいお肉のお弁当も食べられたし、あとはたこ焼きで満足できそう。
「あとはたこ焼き……。どこに行こう」
『え? お肉は?』
『待って待って。梅田にも美味しい焼き肉屋あるから!』
『焼き肉楽しいぞ!』
『でも一人っきりの焼き肉って寂しくない……?』
『ばっかお前! 一人だからこそじっくり気兼ねなく焼けるって利点があるんだよ!』
なんだかお肉を食べた方がいいみたい。確かに最初はお肉って言ってたし、お肉も食べよう。焼き肉っていうのもやってみたいし。
のんびり電車に揺られて、景色を眺めて……。ふと、それが視界に入った。
「おお……。大きい山がある」
何の山かな。光球を窓の外に向けると、すぐに答えが分かった。
『富士山やな』
『日本一高い山だ』
『登山する?』
登山……。さすがにそれはいいかなあ。それをするなら、転移するか空を飛ぶよ。景色はそれで楽しめそうだし。
でも、今は新幹線。富士山はまた今度、だね。
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