駅弁いっぱい!
『そこ。そこの列が新幹線の切符売り場』
『初めてなら相談しながら買った方がいいからね』
『それにしても見られてるなあw』
『リタちゃんが並んだ瞬間に目の前の人がぎょっとしてるの草なんだ』
目の前の人が何度も振り返っては私を見てるね。男の若い人だ。スマホを取り出して、ちらちらと。そしてそっとスマホで写真を撮ってる。隠し撮りみたいになってるよ?
「写真ぐらいいいよ?」
「え。あ、すみませんごめんなさい! じゃあ遠慮なく!」
『いや草』
『謝罪からの流れるような撮影』
『でも隠し撮りはよくない』
『処す? 処す?』
『リタちゃんが気にしてないのが全てだろアホ』
攻撃されたならともかく、写真だからね。それに、これに怒るなら普段からもっと怒らないといけない。空にいる私を撮ってるのと違いはあまりないと思うから。堂々としてるかこそこそしてるかの違いだけ。
でも他の人にはやったらだめだとは思う。
周りの人に写真を撮られながら待ってると、私の順番になった。次の方どうぞ、と呼ばれたから受付に行く。私を見た駅員さんがあんぐりと口を開けていてちょっとおもしろい。
『駅員さんからすれば完全な不意打ちだろうからなw』
『とりあえず本物かどうか疑いそうw』
それはそうかも。ちょうどいいから、ふわっと浮いてみる。カウンターが少し高くて、話しづらかった。
ぷかぷか浮かぶ私を見て、駅員さんが完全に固まってしまった。んー……。どうしよう。
『これはプロ意識が欠落してますねえ』
『魔女が目の前に来たぐらいで固まるとか職務怠慢では?』
『お前ら無茶言うなよwww』
『お前らもどうせ目の前にリタちゃんが急に来たら固まるだろw』
『固まらねえよ! 挙動不審になるだけだ!』
『なお悪いわ』
ちょっとだけ待っていると、駅員さんが我に返ったみたい。小さく深呼吸して、きりっとした顔になった。
「お待たせしました。どちらに向かわれますか?」
「ん……。新幹線に乗りたい。のぞみ? 新大阪行きで」
「かしこまりました。乗車時間のご希望はございますか?」
「えっと……」
そんな感じで会話をして、決めていく。一時間後ののぞみで、グリーン席。視聴者さんにオススメされたからグリーン席にしてみたけど、何が違うのかな。
あと、通路側と窓際の二つの席を買わせてもらった。本当はだめらしいけど、特別だって。隣に誰かが座ると落ち着けないだろうから、らしい。
『これは有能』
『あまり特別扱いしすぎるのもどうかと思うけどなー』
『ちゃんと二人分払ってるんだし、別にええやろ』
『もし隣に誰か座ったら、その誰かさんも気になって休めないだろうしなw』
そういうものなのかな?
無事に切符も買えたから、後は乗るだけ。少し時間あるけど、どうしよう。
「ちょっと時間あるけど、何かある?」
『新幹線と言えばやっぱ駅弁だと思う』
『駅弁買おうぜ駅弁』
『自分用にお土産買うのもいいかも?』
『お土産とは』
駅弁にお土産。お土産はなんだか違う気がするけど、でも美味しいものは買いたい。精霊様に買ってもいいかも。
視聴者さんの案内に従って、駅弁をたくさん売ってるお店にたどり着いた。入り口に平べったいひんやりしたケースのあるお店。そこにたくさんの駅弁が並んでる。
お店も広くて、他の棚にもお弁当がたくさん。飲み物もたくさん。いっぱい。
んー……。いっぱい買いたい!
『リタちゃんのテンションがめちゃくちゃ上がってるのが分かるw』
『表情かわらんのに、めちゃくちゃ振られてる尻尾を幻視したよ』
『うきうきリタちゃん』
どれを買おう。全種類買って、アイテムボックスに入れておくのもいいかも。でもそれだと、全種類食べ終わるのはいつになるか分からない。結局食べずに忘れちゃう、なんてこともあるかも。
それに。
『まあ駅弁ってやっぱり新幹線で食べるからこそ美味しいっていうのもあるけどなあ』
『実際のお店で食べるのが一番美味しいのは間違いない』
『たまに買うからこその贅沢感があるよね』
そういうこと、らしい。新幹線で食べるものだけ買おう。
んっと……。えっと……。んー……。
『あれ? これ一時間で足りる?』
『めちゃくちゃ悩んでるw』
だって、どれも美味しそうだから……!
せっかくだから、お肉を食べたい。お肉。お肉のお弁当で美味しそうなものを選ぼう。あ、でも、このお魚のお弁当も美味しそう。いややっぱりこのお肉いっぱいのも……。あ、ステーキのお弁当もある。わ、貝のお弁当だって。すごい。すごい! いっぱい!
『これはだめそうですね』
『信じられるかい? 選び初めて三十分、未だに一つも決められてないんだぜ……』
『周囲に人が集まってめちゃくちゃ見守られてるのが草なんだ』
『みんないい笑顔』
え? 三十分? あ、ほんとだ。スマホで時間を見てみたら、あと三十分で電車が出る時間だ。そろそろ本当に決めないといけない。でも、どうしよう。どうしたらいいかな。どれを買ったらいいかな。えっと……えっと……。
うん。こういう時こそ、これを使おう。
「安価。どれを買うべきか。商品名で答えて」
『え』
『ちょっと待っていきなりすぎるんですが!?』
『それでええんかリタちゃん!?』
「みんなを信じてる。準備して。十番目、二十番目、三十番目のお弁当を買う。いくよ」
『急すぎてやばいめちゃくちゃ焦ってる』
『お前ら責任重大だぞ変なの言うなよ!』
『そもそもとして駅弁詳しい人しか参加できねえよこれwww』
『ていうか周りの人の多くが一斉にスマホいじり出してて笑えるんだけどw』
少し待ってから手を前に出して、ぱんと叩く。たくさんのコメントが流れていく。コメントを確認して……。これとこれとこれ。
『お肉ど真ん中か。定番やね』
『深川のお弁当もなかなかいいチョイス。食べたい』
『しれっとどこの駅でも買えるカツサンドがまざってるw』
『ところでどうして二つずつ買ってるんですかねえ?』
もちろん精霊様にあげるから。お土産っていうのも選びたかったけど、ちょっと時間が足りないと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます