てっぺんとお船のご飯
『そのための見張り台だろうしな』
『でもこういうところってどうやって上ってんの?』
『マストを支える綱がたくさんあるだろ? それを使ってるんだよ』
『有識者ニキ助かる』
ああ、そうか。私なら飛べばいいけど、船員さんが飛べるわけないよね。張り巡らされてる綱で上ってくるってことだね。それも大変そう。落ちたら大怪我しそうだし。
「気をつけてね」
「え? あ、はい。気をつけます」
「ん」
『これ絶対意味通じてないぞw』
『多分リタちゃんは、落ちないように気をつけてねって言いたいのだと予想』
『はたから聞くと、見逃さないように気をつけろよにしかならないと思うw』
そうなのかな。んー……。でも言い直すのも難しいし、いいかな。
「それじゃ、ありがとう」
「いえいえ……って、どこに行くんですか!?」
「マストの上に立ってみたい」
『リタちゃんwww』
『いや分からないでもないけどさw』
『てっぺんに立つのは間違いなくリタちゃんにしかできないなw』
ゆっくり飛んで、マストのてっぺんへ。他の見張り台の人が驚いてるのが見えるけど、気にしないでほしい。満足したら帰るから。
てっぺんに立ってみる。ここまで来ると、視界を遮るものは何もない。とても見晴らしがいい場所だ。うん。ここ、好き。
「風も気持ちいいし、見晴らしもいい」
『確かに見晴らしはいいけどもw』
『あれ? これリタちゃんのお気に入りになってない……?』
『暇があればここに陣取る姿が今から見えるw』
そんなことはない……とは言えない。多分、部屋にいるぐらいならここにいると思う。そこまで負担にもならないし。
ただ、さすがにてっぺんに座ることはできないから、ちょっとだけ妥協して、帆が繋がってる横向きの棒に座ることにした。ここも悪くない。
それじゃ、今日はここでのんびりしょう。本でも読もうかな。
『リタちゃんがまったりモードに入ってる』
『大きな船のてっぺんでちょこんと座るリタちゃん』
『遠くから写真撮りたいなあ』
写真はやめてほしい。さすがにここまでは来れないだろうけど。
のんびりと風を感じながら、私は本に視線を落とした。
どれぐらい経ったかな。気付けばお日様が傾いて、もう夕方だ。夕方の海はオレンジ色に輝いていて、なかなかいい景色だと思う。
『お、読書終わった?』
『海がいい感じに綺麗だよ』
「ん。いい景色」
すぐにお日様は沈むだろうから、今の時間だけ見れる光景だね。日の出もちょっと見てみたいかも。
マストから下りて、船内へ。あの広い部屋ではみんなが夕食を食べるところだった。
「お、魔女さん。どこにいたんだ? 探したけどいなくて、声をかけられなかったんだ」
「マストのてっぺん」
「なんで……?」
「気持ち良かったよ?」
「お、おう……」
理解できないものを見るような目、だね。きっとみんな、あそこに立てば気に入ると思う。
『誰も立てないんだよなあ』
『リタちゃんの要求レベルが高すぎるw』
それは……うん。気をつけよう。
空いている席に座ると、すぐに料理が運ばれ始めた。一部の船員さんが料理人さんのお手伝いをするみたい。甲板で見かけた人が料理を運んでる。
晩ご飯は、お魚。今日釣ったお魚を香草で巻いてじっくり熱したものみたい。葉っぱをはがすと、湯気と一緒に香辛料の香りがあふれてきた。
「おー……」
結構美味しそうだね。シンプルだけど、シンプルな方が外れは少ない、と思う。
お魚の他は、野菜が少し入ってるスープ。スープを出された時に教えてくれたけど、海の上だと野菜は貴重だから、もし航海中に予定外のことが起きて時間がかかったら、具のないスープになるらしい。
それはちょっと、嫌かな。そうなりそうなら、少し手助けしよう。
あとは、パン。パンは長持ちするようにか、黒くてちょっと固いパンだ。スープで柔らかくして食べてほしい、だって。
『海の上だと食料の確保が魚だけだろうからな』
『できるだけ日持ちする食材になるのは仕方ない』
『それはそれとして美味しいのか気になります!』
ん。早速食べてみる。
お楽しみのお魚は後にして……。まずは、パンをスープに浸して、ちょっと柔らかくなったところでぱくりと食べる。んー……。
「…………」
『顔が微妙そうw』
『味より日持ち優先だろうから仕方ない』
『その分お魚には期待できるんじゃないかな!』
そうだね。私は転移ですぐ帰れるけど、みんなはこの海の上での生活だよね。味より日持ち優先なのは仕方ない。
せめてお魚が美味しいといいな。フォークで軽く切って、ぱくりと。
「おー。香辛料はわりと少なめみたい。お魚の味がしっかり出てる。塩味もすごくきいてて、美味しい」
『高評価やん』
『多分枕詞に、この世界にしては、もしくは船のご飯にしては、てつくぞw』
それは否定できない。もうちょっと香辛料多めの方が私は好きだし。多分これも、節約しながら使うから、だとは思うけど。
お魚は美味しいけど、全体的にはちょっと物足りない、みたいな感じだね。それに。
「ご飯が欲しい」
『ごはんwww』
『リタちゃんもすっかり日本に染まっちゃって……』
『いやリタちゃんは前からだぞ。お師匠さんのために精霊様が米を作ってたから』
『まじで!?』
世界樹の側にお米あるよ。知らない人もまだいるのかな?
もうちょっと味が濃かったら、お魚を持って帰って部屋でお米を出すところだ。お米にきっと合うから。今回は物足りないから我慢だね。
食べ終わった後は、自室に戻る。以前の護衛の時みたいに、魔法で分身を作って……。今回はどうしよう。
「呼ばれたら私に繋がるように、でいいかな」
いきなり迎撃する必要もなさそうだし、そうしよう。プログラムを魔法として分身に仕込んで、完成。お家に帰ってのんびりしよう。
「んー……。これ、まだ一週間ちょっと続くんだよね……。退屈になりそう」
『護衛ってそんなもんやろ』
『気を張る必要がないから楽だと思う』
『のんびりするといいんじゃないかな』
そう、だね。そうしよう。しばらくお休み、ということで。ずっと休んでるって言われちゃいそうだけどね。
私は分身を残してお家に帰った。カリちゃんとお話しして、ちょっと寝ようかな。
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