船室確認と見張り台

 お客さん以外にも、さっきの冒険者さんたちも集まってた。みんな私を見てぽかんとしてる。


「早いな、魔女さん。探検は終わりかい?」

「んーん。探検中」

「あの……。楽しいんですか?」


 そう聞いてきたのは、私に突っかかってきた二人のうちの一人だね。ローブの方だ。


「ん。楽しい」

「はあ……。子供だ……」


 最後、小声だったけどちゃんと聞こえてるからね。別にいいけど。

 魔法使いは好奇心が大事。好奇心のない魔法使いなんて成長しないよ。研究も何もできなくなるから。


「魔女さん、この下は船室がたくさんあるだけだぞ」

「ちなみにあなたの船室は二つ下りた先の二等船室です」

「二等?」

「二番目にいい部屋だな。ちなみにあとは三等船室があるだけだ」

「おー……。なんで?」


 てっきり一番狭いお部屋とかかなと思ってた。どうせその部屋を使うわけじゃないから、私はそれでもよかったんだけど。夜は適当に影を残して森に帰るよ。


「冒険者は基本は三等船室、報酬を少なくすれば二等船室にできる、が……。その様子だと知らなかったみたいだな……」

「ん」

「じゃあさすがに依頼主側が気を遣ったんじゃないか? Sランクが船の護衛とかあり得ないしな。正直、一等船室が割り当てられてても俺は驚かないよ」


 そういうものらしい。じゃあ、別にいっか。早速見に行こう。


「どの部屋?」

「階段下りて一番手前、右側の部屋だよ」

「ありがとう」


 お礼を言って、早速下に向かう。せっかくだからはしごを使ってみよう。


「おお……。縄ばしごだ。すごい」


『そういやリタちゃん、はしごも初めてでは?』

『そうかな……そうかも……』

『ぶっちゃけはしご使うぐらいなら普通に飛べばいいもんなw』


 それを言うと階段も同じになるから、単純に使う機会が少ないだけだと思う。

 せっかくだから魔法を使わずに、ゆっくりと足を下ろしていく。おー……。ゆらゆらしてる。


「ゆらゆらしてる。ゆらゆら」


『なんかリタちゃんテンション高い?』

『船に乗り始めてからわりと高めだぞ』


 それは、うん。否定しない。

 縄ばしごで一つ下りる。ここから先は普通の階段みたいだね。この階は一等船室みたい。外からも入れる階層だけど、いいのかな。あ、でも、何かあって沈没するとかになった時に一番逃げやすいのもここかも。みんなで脱出する時は多分パニックになってるだろうし。


 階段を下りて、次の階層。ここは二等船室ってことだね。先にもう一つ下を見てみたけど、こっちはドアがたくさん並んでるだけだった。本当に寝るためだけの部屋みたい。ベッドだけある、みたいな感じかな。

 それじゃ、早速自分の部屋に入ろう。どんな部屋かな。

 一番手前の右側。ドアを開けると、そこそこの広さ。日本で言うところの六畳一間ぐらい、かな? テーブルや椅子、棚とかもちゃんとあるから、この部屋でも十分にゆっくりできそう。


『わりといい部屋やな』

『日本のビジネスホテルっぽい』

『風呂はないけどな!』


 ん……。多分、それは日本とこっちで違う部分だと思う。魔法で綺麗にできちゃうから。

 うん。とりあえず、中は見て回った。あとは外だね。でも外って、船員さんがみんな働いてるよね。邪魔にならないかな。

 考えても仕方ないから見に行こう。邪魔になりそうだったら、空に逃げればいいし。

 部屋を出て、階段を上って外に出る。とても今更だけど。


「出港してる」


『ほんまやwww』

『なんで護衛の人らみんな船内に引っ込んでるのかと思ったらw』

『リタちゃん気付かなかったんかw』


 多分、私が下の方に行ってる間に出港したのかも。興味なさすぎて気にしてなかった。

 帆もしっかりと張られてる。これ、船員さんが上ったりして畳んでるのかな。大変そうだ。


「おお、魔女さん。乗り心地はどうだ?」


 そう声をかけてくれたのは船長さん。にやにやと楽しそうに笑ってる。


「出港してることに気付かなかった」

「ええ……」


『船長さんもどん引きである』

『普通は気付いてると思うわなあw』


 あまり言わないでほしい。さすがにちょっと恥ずかしくなりそう。


「まあ、あまり問題が起こることはないからよ。ゆっくりしててくれ」

「ん」

「他に何かあるか?」

「んー……」


 何かあるかと聞かれるとちょっと困る。とりあえず甲板を見て回って終わろうと思ってるけど……。あ、そうだ。あそこに乗ってみたい。


「あそこ。あそこに乗ってみたい」

「あー? あそこって……。見張り台か?」

「そう」


 帆のある大きな柱、マストっていうんだっけ。そのマストの上の方にある見張り台。あそこに乗ってみたい。普通に飛ぶ方が高いのは分かってるけど、そこは気分が大事だと思う。


「あそこは素人が上るのは大変だぞ?」

「飛べるから大丈夫」

「…………。見張り台に上る必要あるか……?」


『普通にもっと高いところ飛べるもんな』

『いやでもリタちゃんの気持ちも分かる。上ってみたい』

『謎の憧れがある』


 船長さんは少しだけ考えていたけど、まあいいかと頷いてくれた。ついでに、誰かに迷惑をかけなければ、好きに動いていいっていう許可も。


「ありがとう」

「おう」


 船長さんは笑いながら手を振って、どこかに行ってしまった。

 それじゃあ、早速。ちょっとだけ飛んで、中央の一番大きなマストの上へ。一番高い位置の見張り台には船員さんがいて、周囲を警戒していた。


「おわ!? え、えっと……。魔女、さん?」

「ん。乗っていい?」

「ど、どうぞ。何もおもしろいものはないですが……」


 見張り台に乗ってみる。周りの景色は、あまり良くないかも。他のマストや綱とかが邪魔になってる。それでも、遠い場所を見るなら最適、なのかな?


「風が気持ちいい」

「そうでしょう? ここはある意味特等席ですよ。まあ責任も重大ですが」


 船員さんが言うには、何か異常があれば真っ先に気付かないといけないらしい。でないと、発見の遅れが命に関わることもあり得るのだとか。

 そう思うと、景色を楽しむ余裕はあまりなさそうだね。大変そうだ。

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