お船探検
おもしろい人たちだから観察してみてもいいけど、それよりも私はお船が気になる。見て回りたい。
「隠遁の魔女。Sランク。よろしく」
私が短く自己紹介すると、若い二人が何故か固まった。何度か目を逸らして、私を見て、そして、
「……っ!」
二人そろって顔を赤くして目を逸らした。なにこれ。
『ほほう。これはこれは……』
『一目惚れってやつですな』
『青春だねえ』
『なお、この二人はリタちゃんと縁が切れると顔とか忘れます』
『悲しいねえ……』
意味が分からない。どうしたらいいんだろう?
「隠遁の魔女殿。あんたが一番ランクが上だが、俺たちはあんたの指示で動けばいいかい?」
「無理。私は護衛で人に指示を出した経験がない」
「そりゃまた……」
リーダーさんが驚いてるけど、そんなに驚くことなのかな。もしかして、みんな一度は経験したりするの? 私も一度はやるべきかな?
考えてみたけど、やっぱりそれはないかなと思う。だって、アリシアさんが人に指示を出すイメージがわかない。だから私も必要ない。そう、適材適所ってやつだね。
「みんなが倒せない強い魔獣とか出たら呼んでほしい。その時は私がやる」
「了解だ。それまではどうするつもりか、聞いてもいいか?」
「のんびりする」
「それはちょっとずるいだろ!」
若い二人が叫んでくる。仕事しろよ、ということらしい。
「よせ、やめろ」
「なんでだよ、リーダー!」
「この子、Sランクなのにお前らと同じ依頼料で乗ってるから。何かの保険で乗ってるだけでも、そんな金額じゃ絶対雇えないから。というよりも、頼むからSランク相手につっかかるな。相手を選べ頼むから。死ぬぞ。俺の胃が」
「ご、ごめん……」
納得してくれたらしい。さすがはリーダーさんだね。
「じゃあ、魔女殿。何かあったら呼ばせてもらうよ。あんたはこれから何するんだ?」
「ん? 探検」
「は?」
「お船を探検」
「…………。は?」
『草』
『きっとリーダーさんは、魔法の研究とかそういうことを言われると思ったんだろうね……』
『お船の探検www』
『子供かな? 子供だったわ』
お船は初めてだからね。今から楽しみだ。
リーダーさんは戸惑ってたけど、納得してくれたみたい。納得というより、まあいいか、と流されただけのようにも見えたけど。自由行動を許してくれるなら、私は何でもいい。
「それじゃ、何かあったら呼んでほしい」
「わかった。その時は頼むよ」
頷くリーダーさんに手を振って、私はその場を後にした。それじゃあ、適当なドアからお船の中に入ろう。楽しみだ。
お船は弓なりって言えばいいのかな。そんな形になっていて、船内に入るドアは前と後ろ側にそれぞれあった。前のドアは船員さんたちが使う部屋に繋がってるみたいで、お客さんや私たちが使う部屋に繋がるのは後ろのドアらしい。
「じゃあ、前のドアは入ったらだめ?」
「客なら断るが、魔女さんなら構わねえよ」
そう教えてくれたのは船長さん。ただし何も触るな、と注意はされた。
『優しい(とぅんく)』
『惚れる要素がどこにあったよw』
『めちゃくちゃ大事なものとか置いてそう』
あり得るかも。海図、だっけ。そういうのもあるのかな。見たところで私は分からないから意味がないけど。
せっかくだから前のドアから見ていこうかな。私が向かうと、船員さんはちらちらと私を見てくるけど、船長さんからすでに話は聞いてるのか何も言ってこなかった。
入ってみると、えっと……。階段。ドア。それだけ。
『シンプル』
『てかリタちゃんどこまで見るの?』
「んー……。適当」
船員さんの部屋とかはさすがに興味ないからね。
目の前のドアをちょっと開けてのぞいてみる。会議室、みたいな感じかな。大きめのテーブルと椅子がいくつか。
ドアを閉じて、階段を下りてみる。するとたくさんの部屋が並ぶ広い廊下に出た。開けてみると、たくさんの資材とか置かれてるみたい。
「あ、大砲だ。海賊とか出るのかな」
『やっぱいるんじゃないかな』
『魔法と大砲、どっちが早いんだろうか』
「人によると思う」
私やミレーユさんだったら、大砲より魔法の方が早いし強力だと思う。超遠距離魔法が苦手な人なら、大砲の方がいいかな。
ほかにも、厨房とかもあった。さすがに入ったらだめだって。美味しい海鮮のご飯を作ってくれるらしいから、とても楽しみ。
さらに下に下りる階段があったけど、その階段には見張りの人がいて、さすがに冒険者でも通せないと言われてしまった。例の魔道具があるらしい。見てみたいけど、無理強いはだめだよね。
「魔道具、見たかった」
『仕方ないさ』
『それより船室行こうぜ船室』
『リタちゃんのしばらくのお部屋!』
「お部屋」
それもそうだね。どんな部屋だろう。
次に入るのは後ろ側のドア。後ろ側の方がなんだか高くて、二階建てみたいになってる。ドアも下側と上側にあるね。上側は何のドアだろう。
のぞいてみると、とても広い部屋だった。ここは、食堂みたいなものかな。たくさんのテーブルと椅子が並んでる。船員さんじゃないいろんな人が談笑していた。
『お客さんとかが集まる部屋かな?』
『まあ狭い部屋にこもりっきりだと気が滅入るしな』
『奥に下へのはしごがあるね』
あ、ほんとだ。一応外に出なくてもこっちの部屋には入ってこれるみたい。
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