行き先の情報


 たまには最初のギルドに顔を出しておこう。そう思って訪ねてみた。セリスさん、つまりギルドマスターの部屋に直接。

 転移した先にいたのは、目を丸くするセリスさんとミレーユさん。ミレーユさんはすぐに笑顔になると、ソファの隣をぽんぽんと叩いてきた。ここに座れ、ということらしい。じゃあ、ミレーユさんの隣に座ろう。


「ようこそ、リタさん。歓迎しますわ」

「どうしてミレーユがそれを言うのよ……」

「わたくしが! このギルドで一番偉いからですわ!」


 あ、セリスさんの額に青筋が浮かんだ、気がした。ちょっと怒ってるかも。

 でもふと、セリスさんは意地の悪い笑顔を浮かべた。


「リタさん。どうやらこの子、あなたよりも自分の方が偉いと思ってるみたいよ? とてもお世話になっておいてね」

「ふうん……」

「ま、待ってくださいまし! 冗談です! 卑怯ですわよセリス!」


 いや、私は別にそれでいいんだけど。冒険者としてはミレーユさんの方が先輩なわけだし、ランクは同じだし。それに、私はあまりここで依頼を受けてないしね。

 言い合う二人を眺めながら、私はこっそり魔法を使う。もちろん、配信魔法だ。


『ヒャッハー! とれたてぴちぴちの配信だぜえ!』

『そしていきなり言い争いが始まってるんだけどw』

『ミレーユさんとギルドマスターさんかな? 仲良しだなあ』


 これは、仲良しなの? でも確かに、言い争いはしてるけどどっちも本気では怒ってなさそうだ。じゃれ合いみたいなものなのかな。

 でも、さすがに口論をずっと聞いてるのも嫌かな。あまり長居はするつもりなかったし、帰ろう。そう思って立ち上がったら、ミレーユさんに腕を掴まれた。


「なに?」

「ごめんなさいですわ。でも、お話がありますの。今日来なければ、精霊の森に行こうと思っていましたわ」

「ん……。わかった」


 いいタイミングだったのかな。こほん、とセリスさんが咳払い。一応、ちょっとだけ姿勢を正しておく。


「実は、この街を訪ねてくる冒険者などに依頼して賢者様の動向を調べていたのだけど、一つ、有力で少し面白い情報を得られたの」

「どんな?」

「王都とはまた違う方向だけれど……。東の海をこえた先の大陸に闘技場があるのだけど、そこに賢者様が出ていたことがあるそうよ。年に一回、世界最強を決める大会っていうのがあるのだけど、それに優勝したのだとか」


 ええ……。何やってるの師匠。


『あのバカ何やってんだよwww』

『いやでも、それ本人か? あいつ、そういうのに興味なさそうだけど』

『そうか? あのバカならやりかねないと思うが』


 師匠なら……やらないと思う。必要でなければ、わざわざ戦ったりしないと思うから。

 逆に言えば。必要と思ったら出るだろうけど。経緯次第じゃないかな。


「それ、本当に師匠だったの?」

「間違いなく、とは言い切れないわね。伝聞程度の情報だから。でも複数の証言があるから、賢者を名乗る誰かがいた、というのは間違いないはずよ」

「そっか」


 それだけでも十分かな。一度行ってみる価値ぐらいはあると思う。

 それに。


『闘技場とかめちゃくちゃわくわくするなあ!』

『テンプレですね無双ですねわかります!』

『ヒャッハー! 汚物は消毒だー!』

『汚物扱いすんなw』


 視聴者さんは闘技場が気になるみたいだし。むしろもう行くことになってる気がする。いや、多分私が行かないって言ったらそれはそれで納得してくれるとは思うんだけど、私自身、どんなところか少しだけ興味がある。

 漫画とかでもたまにあるよね。闘技場。お話によって扱いは全然違うけど。ここの闘技場はどんなところなんだろう。本当に師匠が出たのなら、そんな変な場所ではないと思うけど。


「行ってみる」

「ええ。もし参加するなら、魔女として参加するといいわよ」

「ん? なんで?」

「何の実績もない低ランクの子供に許可が出るわけがないでしょう」


 ぐうの音も出ない正論でした。


『ですよねーw』

『いやでも、それならわりとクリーンな大会ってことなんかな』

『まだだ! まだ俺は諦めねえぞ!』

『お前は何を期待してるんだよ』


 まだ参加するかも決めてないけどね。師匠と会ったことがある人を見つけたら、その人に話を聞くだけで終わるかもしれないし。見学ぐらいはしていきたいけど。

 でも、魔女として行くなら、空を飛んでいっても大丈夫そうだね。空を飛ぶ魔法はミレーユさんとかも使えるんだし……。


「ちなみにリタさん。空を飛ぶ魔法で行くのはなしですわよ」

「え。なんで?」

「その反応、やる気でしたわね!? 普通の人は空を飛んで海を渡るなんてできないですわよ! わたくしもできませんわ!」

「がんばれば大丈夫」

「魔力が切れたら海に真っ逆さまですわよ! がんばるべきところではありませんわ!」

「それは……そうかも」


『魔力切れで海のど真ん中とか、死ぬしかないよね』

『多分できる人がいたとしても、試さないレベルで危険だと思う』


 でも、それなら移動手段は別で考えないといけないってことだね。日本なら、えっと……。ひこうき、だね。飛行機。それで行くのかもしれないけど、この世界に飛行機なんて存在しない。

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