精霊様へのお土産

 気付けばスープカレーもご飯もなくなっちゃった。んー……。


「おかわり」

「ふふ。すぐ用意するね」


 もっと食べたい。あ、でも、真美たちと精霊様の分もちゃんと残しておかないと。


「あ、そうだ。いくら、もらってる。おみやげ」

「そういえばもらってたね……。食べるの?」

「今はいい。半分、真美たちで食べて」

「え……。いいの?」

「ん」


 私はあっちでたくさん食べてきたから、これは真美たちに食べてもらいたい。精霊様にも渡したいから、全部はちょっとだめだけど。

 真美は大きいお椀を持ってくると、お土産のいくらを手早く移し替えた。ちょうど半分ぐらい、かな? 片方をラップして、冷蔵庫に入れる。すぐには食べないみたい。


「今日はスープカレーがあるから、明日もらうね」

「ん。こっちは、精霊様に渡してもいいの?」

「もちろん」

「ちょっと多いよ?」

「精霊様が食べてるのを見たら食べたくなるんじゃないの?」

「…………」


 そんなことはない、とはちょっと言えなかった。


『目の前で美味しい物を食べてたら自分も食べたくなる。間違いない』

『若いっていいなあ……。むしろ美味しいものを食べてるのを見たいよ俺は』

『年だな』

『年だよ』


 私も食べたくなるとちょっと思ってきた。精霊様と半分こしよう。

 精霊様のスープカレーもお椀に入れてもらって、あとは真美たちで食べてもらう。スープカレーもちょうど半分ぐらい残った、はず。多分。


「スープカレー、足りる?」

「大丈夫。足りなかったらいくらをもらうね」

「ん」


 それなら大丈夫だね。それじゃ、そろそろ帰ろう。

 最後にちいちゃんに挨拶してから、と思ってちいちゃんを見てみたら、お馬さんのぬいぐるみを抱きしめてとっても機嫌が良さそうだった。かわいい。撫でておこう。なでなで。


「なあに?」

「なんでもない。そろそろ帰るね」

「はーい」


 ちいちゃんを撫でてから、真美を見る。なんだか微笑ましそうに笑ってる、気がする。少し恥ずかしいから、すぐに帰ろう。


「それじゃ」

「うん。またね」


 真美に手を振って、精霊の森に転移した。




 世界樹の前で、スープカレーといくらのお椀を置く。スープカレーはまだしっかりと温かい。ちょっと食べたくなってきちゃったけど、我慢。


「精霊様。スープカレーいる? いらない? わかった」

「待ってくださいいります! いりますから!」


『草』

『リタちゃんwww』

『まだ食べ足りないのかw』


「食べ足りない」


『ですよねw』


 カレーはずっと食べ続けられる。地球が発明した究極の料理だと思う。


「精霊様もそう思うよね?」

「あの、リタ? 同意だけ求められても、何のことか……」

「そう思うよね?」

「あ、はい。思います」


『圧がすごいwww』

『リタちゃんの謎の圧に屈していらっしゃるw』


 精霊様はスープカレーの器を手に取ると、スプーンで一口食べた。しっかりと味わってる。


「なるほど……。とろみのないカレーなのですね。美味しいです。リタが好きそうな味です」

「ん」

「ふふ。リタ、私は一口で満足しました。残りになりますが、いかがです?」

「いいの!?」


 精霊様からスープカレーをもらって、食べる。んー。やっぱりこれも美味しい。何かの漫画で見た気がするけど、カレーは飲み物を形にしたものだと思う。


「んふー……。…………。なんで撫でるの?」

「気にしないでください」

「ん」


『精霊様じゃなくても撫でたくなると思う』

『めちゃくちゃ幸せそうに食べるからなあw』

『リタちゃんが食べるカレーになりたい』

『ただの生ゴミになるからやめろ』


 精霊様は次にいくらを食べた。これもスプーンで一口。もぐもぐと口を動かして、なるほどと頷いてる。


「食感が楽しい食べ物ですね。ほんのりと甘くて、美味しいと思います」

「美味しいよね。時期によって食感も味も変わってくるらしいよ」

「それは少し気になりますね……」

「また買いに行く」

「ええ、楽しみにしています」


 スープカレーといくらを完食して、一息。やっぱり日本の料理は美味しい。次は何を食べようかな。どこに行こうかな。考えるだけでわくわくする。


「あ、そうだ。精霊様。これもあげる」


 そう言って渡したのは、お馬さんのぬいぐるみ。何度見てもこのぬいぐるみはかわいい。

 精霊様はぬいぐるみを受け取ると、何度か撫でて、首を傾げた。


「これは、馬、でしょうか。日本の馬はとてもかわいらしい見た目をしているのですね」

「ん……。ん? デフォルメ、されてるからね?」

「…………。もちろん分かっていました。分かっていましたとも」


『嘘だぞ絶対気付いてなかったぞ』

『精霊様はかわいいなあw』


 精霊様はじっと黒い板を見つめていたかと思うと、ふっと消えてしまった。恥ずかしかったのかもしれない。気にしなくてもいいのに。

 お馬さんのぬいぐるみは、木の幹に置いておこう。気に入ってくれてたらいいんだけど。




 翌日。世界樹の枝にお馬さんのぬいぐるみも丁寧に飾られていた。喜んでくれてたのかな? でもそのうち、世界樹の枝がぬいぐるみでいっぱいになりそうだね。まだまだ先だとは思うけど。

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