いももちといくら丼

 お店の中には他のお客さんもいる。お店の隅に三人ほどの、やっぱり若い女の人たち。私を見ると、わっと歓声を上げた。


「本当にリタちゃんだ!」

「すっご……! まさか香織の店にリタちゃんが来るなんて!」

「こんな外観詐欺の店に!」

「怒るよ!?」


 えっと……。とりあえず、店主さんの名前は香織さんというらしい。あとは気にしないようにしよう。


『外観詐欺www』

『てことはやっぱりここで間違いないっぽいなw』

『それにしてもひどい言われようだw』


 私は美味しいものが食べられたら文句はないよ。

 香織さんに促されて、カウンター席に座る。すると三人の女の人が近くに寄ってきた。


「リタちゃんが迷惑そうにしたらすぐに帰ってよ」

「わかってるわかってる」


 友達、なのかな? 気安い間柄みたい。


「リタちゃん、いくら丼を食べに来たんでしょう? 期待していいわよ!」

「香織のご飯はとっても美味しいから!」

「メニューにないのにみんな頼むぐらいだからね!」


 ん……? どういうことだろう?

 話を聞いてみると、視聴者さんが言ってたように、ここは本来はカフェっていう場所みたい。コーヒーとかジュースとかがメインで、それに加えて軽食を提供するお店だったみたいだね。

 でもある日、常連客さん、というよりこのグループの人がいくら丼とかそういったご飯を頼んで作ってもらったところ、他のお客さんにも頼まれたらしい。

 断り切れずに提供したら、評判になって、いつの間にかそういったご飯の方がよく売れるようになってしまった、とのこと。もちろん今でも一応はカフェらしいけど。


「今でも香織はカフェのつもりみたいだけどね」

「でもそう思ってるのは間違いなく香織だけね!」

「誰のせいよ……!」


 女の人たちから話を聞いていたら、香織さんが料理を持ってきてくれた。目の前に置いてくれたのは、いくら丼。たっぷりのいくらの丼だ。そしてもう一皿、なんだか丸くて平べったい白い食べ物。焦げ目がついていて美味しそう。それにたれみたいなのがかかってる。


「こっちは何?」

「いももち。配信を見てた時にコメントに書いたから」

「いももち。美味しそう」


『そういえばそんなコメントがあったような……?』

『ていうか兄妹そろって視聴者かよw』

『最近だと見たことない人の方が少ないかもだけどな』


 そうなのかな。嬉しい、気もする。どっちでもいいけど。

 せっかくだから、いももちから食べてみる。おはしでいももちを持って、ぱくりと。


「ん……。もちもちしてる。不思議」


『ほほう』

『いももちって言うぐらいだしな』

『気になってるけど作ったことないんだよなあ』


 これは、美味しい。ご飯になるかは分からないけど、おやつにはちょうどいいと思う。もちもちしてるから、噛んでいて満足感も出るんじゃないかな。

 たれは醤油を使ってるのか、そのまま醤油の味だね。いももちはほのかにジャガイモの甘さがある気がする。ジャガイモの甘さはそれほど強くないけど、感じないわけでもない程度。たれの味としっかりと合っていて、美味しい。


「いももちって、ジャガイモ?」

「地域にもよるかな。北海道はジャガイモが多いと思う」

「そうなんだ」


 じゃあ、違う味のいももちとかもあったりするのかな? ちょっとだけ気になるかもしれない。

 うん。いももち。美味しかった。満足。

 次は、いくら丼。ご飯が入ってる丼に、たっぷりのいくらが盛られてる。すごくたくさんのいくらが盛られてる。すごい。


『あああいいなあいいなあ美味しそうだなあ!』

『いくらって見た目だけで美味しそうに見える』

『いくらが輝いて見えるぜ……!』


 ん。実際てかてかして輝いてる。なんだか高級感があるね。


『山盛りのいくらはちょっと夢だけど、重たいんだよなあ』

『お寿司ぐらいがいいなって』


 苦手な人もいるみたい? 人それぞれだね。私は気にせず食べるけど。

 いくらは醤油漬けされてるらしいから、何もかけずに食べた方がいいらしい。それじゃあ、早速おはしで……。


「んー……。食べにくい……」


 いくらがぽろぽろこぼれる。ちょっと、面倒。


「あはは。スプーン使う?」

「ん」


 香織さんにスプーンをもらって、改めて食べる。ご飯といくらをたっぷりと、口にいれる。

 いくらはこの独特な食感がとても楽しいと思う。ぷちぷちとした食感で、食べると中身がじゅわっと出てくる。それがご飯によく絡んで、とっても美味しい。

 お寿司だと一口で終わっちゃうけど、丼だとたっぷり食べられる。なんだかとっても贅沢だ。


「んふー」


『めちゃくちゃ美味そう』

『リタちゃんが幸せそうで俺も幸せ』

『ちょっと冷凍のいくら注文した』

『それいつ届くんだよw』

『来週ぐらい……?』


 いくら丼はあまり出前にないのかな? コメントを見ていたら、出前でも少しはあるみたい。ただ、他の料理ほど多くはない、のかな。


「ちなみにいくらは、食べる時期によって少しずつ味が違うよ。人によっては後半の方が好きな人もいるし、早いものの方が好きな人もいるし」

「ん……。そんなに違いがあるの?」

「早いと皮が薄いかな。味もちょっと薄め。後半はとても味が濃いけど、皮も少し厚くなってるから違和感があるかも。真ん中ぐらいが一番美味しいって言われてるけど、人によるかな」

「へえ……」


 味が濃いっていうのが少し気になるけど、それは年の最後の方らしい。まだ当分食べられそうにないね。またいずれ食べに来たい。

 うん。いくら丼、すごく美味しかった。こっちも満足。来てよかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る