防波堤ドーム

 女の子を連れてのんびり空の旅。しばらく飛ぶと、白い道が途切れて普通の道路になった。白い道はここまでみたい。

 白い道の先は、家がぽつぽつとある。交番はどこかな?


『リタちゃん、目印はパトカーとかがいいんじゃない?』

『正確に言うと交番ではなかったはずだし』


「なるほど」


 パトカーだね。周囲を見回してみると、みんなが言う通りにパトカーのある建物があった。そのパトカーの側で、大人が何人か集まってる。


「あ、おとーさんとおかーさん!」

「そうなんだ。すぐに見つかってよかった」


 早速そのパトカーの側に向かう。最初に気付いたのは警察の人で、口をあんぐりと開けてる。その表情を怪訝に思ったのか、側の男女二人も振り返って、私を見て、固まった。


「おとーさん! おかーさん!」


 でも女の子がそう叫ぶと我に返ったみたい。女の子を地面に下ろしてあげると、すぐに抱きしめられていた。


「よかった……! どこに行ったのかと……!」

「もう! この子は心配させて……!」

「たのしかった!」

「…………」


 涙を浮かべて喜んでいたご両親の頬が引きつったのが分かった。んー……。よし。私は気にしない。何も見ない。


『おーおー……。これはなかなかの雷ですなあ』

『まあ無事に戻ってよかったよね。でもちゃんと怒らないとね』

『めちゃくちゃ泣いてるw』


 ん……。さっきまで楽しそうだったからちょっとだけかわいそうだけど、こればっかりは仕方ない。悪いことをしちゃったのは事実だし、手を出さない程度にはちゃんと冷静みたいだし。

 一応、警察さんにお話ししておこう。見つけた場所とか。


「こんにちは」


 警察の人に声をかけると、なんだか微笑ましいものを見るような表情だった警察さんはすぐに私に向き直ってくれた。


「あなたは、リタさんですね? 迷子を見つけていただいてありがとうございます」

「んーん。白い道の椅子に座ってた。お散歩だったみたい」

「それはまた……。少し遠い散歩でしたね」

「ん。元気なのはいいこと」

「ははは。違いありません」


 次からはちゃんと、ご両親の目の届く範囲で遊んでほしいけどね。今回見つけたのも偶然だったから。


「それじゃ、行く」

「ああ、はい。ありがとうございました。ちなみに、どちらへ?」

「教えてもらったお店にいくらを食べに行く」

「おお、いいですねえ。是非楽しんできてください。職務中なので配信は見られませんが、あとで過去配信を視聴させていただきます」

「ん」


『いやこの警官視聴者かよw』

『き、きっと最近話題の子の情報収集のためだから!』

『今回みたいに偶然巡り会う可能性もあるわけだし!』

『どんな確率だよw』


 料理屋さんとかで会う確率よりは低いと私でも思うよ。

 転移する前に女の子に挨拶。女の子へと手を振ると、泣いていた女の子は慌てて言った。


「い、いっちゃうの!?」

「ん。ちゃんとお父さんとお母さんの言うこと聞くようにね。怒られてるのは大切に想ってくれてるってことだから」

「わかんない!」

「んー……。いずれわかる。きっと」


『小さい子に言ってもわからんわなあ』

『年を取ると親のありがたみがよく分かるよ』


 ちょっとだけ、いいな、とも思うよ。私も師匠に会いたくなっちゃう。

 最後にもう一度、元気よく手を振る女の子に手を振り返す。頭を下げるご両親には私も小さく頭を下げて、その場から転移した。




 転移先は稚内市にある、なんだか不思議な建物。いや、建物じゃないかな。施設? 設備? なんだか不思議な形をした建築物だ。大きいから目印にしやすかった。


『なんだこれ』

『半分のアーチ? それがずっと延びてるな』

『防波堤ドームだね。結構長い防波堤。駅からも近いからオススメの観光地』


 防波堤、というものらしい。防波堤はよく分からないけど、大きな波を防ぐためのもの、なのかな?

 大きな支柱がたくさん並んでいて、なんだかここだけ日本の建物とは違った雰囲気だ。ちょっとおもしろい。


「雨宿りとか便利そう」


『リタちゃんに必要あったっけ?』


「ないね」


 私は結界で雨も防いでるから確かに必要ない。でも、雨は嫌いじゃないよ。あの音も好き。

 えっと……。お店は駅から少し南に行ったところみたいだね。あまり遠くないし、のんびり歩こう。面倒になったら飛ぶけど。

 歩道をのんびり歩いて行く。人はあまり歩いてないけど、たまにすれ違う人には二度見されてる気がする。いつものことかな。


 しばらく歩いて、目的地が見えてきた。少し人通りは少ないけど、ビルの一階を使ってるお店。綺麗な植木が並べられていて、看板もなんだかおしゃれだ。多分。

 そのお店の前で、エプロンを着た女の人が立っていた。なんだかそわそわと落ち着かない様子で、きょろきょろと辺りを見回してる。誰かを探してるのかな?


『間違いなくリタちゃんを待ってるんだと思う』

『普通に仕事してたら兄からこれからリタちゃんが行くという連絡を受けた人の気持ちを述べよ』

『まずは兄の正気を疑うだろうなw』

『確かにw』


 本当に私を探してるのかな? 近づいていくと、女の人と目が合った。大きく目を見開いて、喉を鳴らしたのが分かる。そしてゆっくりと深呼吸。なんだか緊張しているのが私にも分かる。

 そうしてから、その人が言った。


「ようこそ、リタちゃん。兄から話は聞いています。どうぞ中へ」

「ん」


 本当に私を待ってたんだね。お仕事の邪魔をしちゃった気がする。

 女の人に案内されて、お店の中へ。お店はたくさんのテーブル席が並ぶお店。ただ、今までのお店よりはなんだか綺麗というか、ちょっと印象が違う。


『料理屋とか定食屋というより、カフェみたいな感じだな』

『若い子がたくさん通ってそうなカフェ』

『これお店間違えてない? もしくはあっちの店主さんが間違えて覚えてるとか』


 それはないと思う。だって、あっちにいた人もここで食べたことがある人がいたみたいだから。

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