ラーメン屋さん

「おねーちゃん、魔法少女?」


 そう、側の男の子に声をかけられた。


「んー……。似たようなもの」

「かっこいい!」

「ん……」


『照れリタ入りましたー』

『照れるリタちゃんもええものです』


 怒るよ?

 男の子に手を振って、また飛ぶ。いろいろあって楽しい公園だね。

 噴水の向こう側にも、また別の噴水があった。これもまた不思議な形だ。噴水の外周部から水が噴き出てて、中心の変な形の何かにかけてるような、そんな形。でもこっちも見た目はとても涼しそう。


 そのまま進むと、大きめの広場にステージみたいなものがいくつかあった。ここで何かのイベントをしてるのかも。機会があれば見たい、かな?

 さらに進んで、今度は変な像というか、何かがあった。何あれ。小さい子供が中に入って、上に出て滑ってる……?


『ヘンテコな形ですが滑り台です』

『ちなみにその奥にも幅の大きい滑り台があるよ』


「え? あ、ほんとだ」


 奥の滑り台はとても幅が広くて、下が砂場になってる。滑り台で滑ってる子もいれば、滑り台から少し離れた場所で遊んでる子もいる。

 滑り台。いいよね。私もまだ小さい時に、師匠が魔法で作ってくれた覚えがある。わりと楽しかったよ。

 滑り台を過ぎてさらに進んで、大きめの建物にたどり着いた。ここがこの長い公園の端っこらしい。何かの資料館らしいよ。見てみたい気持ちも少しはあるけど、それよりも私は味噌ラーメンを食べたい。


「あのお兄さんが教えてくれたお店はこの公園の向こう側だったかな」


 いくつかの道路を過ぎて、細い路地。あまり目立たない場所にそのお店はあった。

 小さな一戸建てのお店。のれんにはラーメンと大きく書かれてる。行列ができるお店っていうわけじゃないみたいだけど、中からは賑やかな声が聞こえてきた。


『わりとお客はいる方なのかな』

『知る人ぞ知る名店ってやつかも』


 おー……。なんだかかっこいいね。

 スライド式のドアを開けて中に入ってみる。中はとてもシンプルで、カウンター席があるだけのお店だ。横に長いカウンターで、十人ぐらい座れるようになってる。逆に言うと十人しか入れないってことだけど。

 今のお客さんは六人ほど。みんな友達なのかな。端っこに固まって雑談してる。


「いらっしゃい」


 店主さんが私を見てそう言った。あまり驚いてないみたい。逆に珍しい気がする。


「嬢ちゃん、コスプレかい? 何かのイベントでもあったかな」

「そんな感じ」

「そうか」


 コスプレと思われてるみたい。別にいいんだけど。


『コスプレw』

『いやでも、リタちゃん本人が来店する確率とか考えたら当然なのでは?』

『普通は来るとは思わんか』


 そういうものなの? でも、今も光球は私の側で浮いてるから、それで気づきそうなものだけどね。


「最近のコスプレはすごいな。その光とか、どうやってるんだ?」

「えっと……。内緒」

「そうか」


『そうきたかw』

『ここまで来たら店主さんが鈍感なだけだと思うw』

『鈍感でいいのかこれはw』


 私としては味噌ラーメンが食べられたらそれでいいよ。

 団体客さんの逆側の端っこに座って、メニューを開く。味噌ラーメンの他にも、醤油ラーメンとか塩ラーメンもあるみたい。


「何にする?」

「味噌ラーメン」


 店主さんがすぐに作り始めた。ラーメンをお玉みたいなものに入れて、お湯に入れる。そうしている間に、たくさんの具材を包丁で切ってる。卵とチャーシュー、ネギともやし、あとはメンマっていうやつ。


『ちなみにあの深いザルみたいなやつ、てぼっていうらしいよ』

『てぼw』


 なんだか不思議な名前だね。

 ラーメンが茹で上がったら、てぼを持ち上げて、上下に振る。このちゃっちゃっていうやつ、テレビで見たことあるけど、結構好き。


「なんだかすごくプロっぽい」


『わかる』

『いやプロなんですがそれは』


 そうだった。変なこと言わないようにしよう。

 器にスープを入れて、ラーメン、具材を入れて、完成。目の前に置いてくれたそれは、とても美味しそうだった。


『あああああ!』

『いつものことながら食べたくなってきたw』

『出前頼むかなあ……』


 それもいいと思うよ。

 私がおはしを手に取って、手を合わせたところで、


「あ!」


 そんな声が、団体客さんから聞こえてきた。見ると、手に持ってるスマホと私を見比べてる人がいた。スーツの男の人だ。


「いや、そんな、まさか……」

「どうした?」


 周囲の人が怪訝そうにしてる。スーツの人は立ち上がると、私に向かって聞いてきた。


「あの……。リタ、ちゃん?」

「ん」

「本当に、本物?」

「ん。もういい? ラーメン、食べたい」

「あ、はい! どうぞ!」

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