札幌の長い公園
「お昼ご飯、行こう。牧場長さん、何かある?」
「え。あ、えっと……。味噌ラーメン、とか……?」
牧場長さんが言うには、北海道は味噌ラーメンも有名なんだって。ラーメンは真美に作ってもらったことがあるけど、専門店の方が絶対に美味しいとは真美もよく言ってる。
それじゃ、まずは味噌ラーメンを食べに行こう。どこがいいかな。
「味噌ラーメンと言えばどこ?」
「札幌ね」
『札幌だろ』
『札幌味噌ラーメンは有名』
コメントには一部別の地名もあるけど、大半が札幌だった。札幌の味噌ラーメンは有名みたい。じゃあ、札幌だ。スマホを取り出して、地図を開く。札幌の場所を確認して、と。
『目印ならテレビ塔が分かりやすいよ』
『大きい、というか長い公園の端っこにあるからオススメ』
『俺としては北海道で一番高いビルを言いたいけど』
んー……。長い公園が気になるから、テレビ塔にしようかな。長い公園ってなんだろうね。広いなら分かるけど、長い。見に行けば分かるかな。
「牧場長さん。またね」
「はい。お気をつけて」
手を振る牧場長さんに手を振り返して、転移した。
転移先は北海道の札幌という場所。やっぱり北海道だから自然がいっぱいかなと思ってたんだけど……。なんだかすごい都市だった。
「おー……。東京とか大阪みたい……」
都会って感じだね。ちょっとびっくりした。
長い公園もすぐに分かった。都市の真ん中にまっすぐな公園がある。テレビ塔が端っこみたいで、そこからずっとのびてる。都会だけど、その公園の部分は木もいっぱいだ。
都会の中に長い公園。おもしろい。
『お、リタちゃん発見』
『札幌に住んでて良かった……』
『リタちゃん、写真撮ってもいいですか!?』
「写真? 別にいいよ」
悪用するならともかく、写真ぐらいなら好きに撮ってくれて構わない。
『テレビ塔のてっぺんでローブをはためかせるリタちゃん』
『かわいくてかっこいい』
『視聴者が写真撮り始めたからか一般の人も気付いたっぽい』
公園の方に視線を向けてみると、スマホを向けてる人の他にも、こちらを指さしてる人とか慌ててカメラを取り出す人とか、たくさんいるみたい。私の配信は見てなくても、私のことは知ってるのかな。
テレビ塔から離れて、地上に下りてみる。こうして見ると、長さだけじゃなくて広さもそれなりにあるね。たくさんの草花と木。端っこまでのんびり歩くのも楽しそう。
「景色を楽しみながら端っこまでゆっくり歩くのもいいかも」
『それ、すごくいいです』
『道路はいくつかあるけど、それでもわりとゆったりできるよ』
「ん。やらないけどね」
『やらないのかよw』
今はご飯を食べたいから。
周囲に視線を巡らせて、私の写真を撮ってる人を確認する。目的はもちろん怒るわけじゃない。どうせなら、写真を撮ってる人にお店を聞こうかなって。写真の対価、というわけじゃないんだけどね。
近くで写真を撮ってる人に近づく。その人はすぐに気付いて、口をあんぐりと開けて固まってしまった。
「こんにちは」
私がそう挨拶すると、目の前の男性は慌てたように姿勢を正した。
「こ、こんにちは!」
「味噌ラーメンのオススメ、教えてください」
「え……、ええ!?」
『リタちゃんwww』
『それはさすがに無茶ぶりやでw』
『側に旅行鞄あるし、多分地元の人じゃないw』
言われてみれば、確かに大きな旅行鞄がある。テレビで見たことあるようなやつだ。取っ手をのばして、引っ張ったりしてごろごろと転がす鞄。ちょっとおもしろいよね、この鞄。
男性は申し訳なさそうに眉尻を下げて、言った。
「すみません、実は俺も旅行で来てて、詳しいわけじゃないんです」
「ん……。味噌ラーメンは食べた?」
「それは、はい。食べました」
「じゃあ、そこのお店でいい」
「ええ……」
『これは草』
『いやでも、悪くないかも。旅行で来て味噌ラーメン食べたなら、ある程度調べて行ってるだろうし』
『なるほど確かに』
そういうこと、だね。これも何かの縁ということで、たまにはこういう選び方もいいかなと思う。視聴者さんが言ってたのは考えてなかったけど、それは黙っておこう。
男性はスマホを取り出すと、地図を見せてくれた。えっと……。公園の向こう側みたい。テレビ塔の逆側だね。
「ここ、有名ではないですけど、友人に勧められて行ったんです。美味しかったですよ」
「ん。行ってみる」
地図を覚えて、もう一度ゆっくりと飛び始める。男性に手を振ると、写真を撮りながら振り返してくれた。
せっかくだから、この長い公園を見ながら向かおうかな。
「人がたくさん。えっと……。いこいのひろば、みたいな感じ?」
『概ねそんな感じ』
『ちょっとしたイベントもたまにやってるよ』
「ふうん」
イベント。そういうのもあるんだね。
「あ、噴水。大きい」
噴水の側に下りてみる。ちょっとだけ中に入ることができるみたい。すぐに囲いがあって奥には行けないみたいだけど、でも暑い時だとここに足をつけるだけでも快適そう。
「私の隣でぱちゃぱちゃしてる子がいるみたいに」
『ちょwww』
『(推定)男の子がぽかんとリタちゃんを見てるw』
三歳ぐらい、かな? じっと私を見てる。とりあえず撫でてあげよう。なでなで。
そうしていたら、お母さんなのか女の人が走ってきた。私の姿を見て、驚きながらもまっすぐに男の子の方に向かってる。お母さんは側まで来ると、勢いよく頭を下げた。
「あ、あの! ごめんなさい!」
「んーん。私も邪魔してごめんなさい」
気付けば、たくさんの人が私を見てる。やっぱりスマホで写真を撮られるのも一緒。最近はちょっと慣れてきた。
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