アリシアさんとの別れ
翌朝。アリシアさんは昨日と変わらない姿で本を読んでいた。違うのは、読んでる本のタイトルぐらい。本当にずっと読んでるのはびっくりだね。気持ちは分かるけど。
「アリシアさん。おはよう」
そう声をかけると、アリシアさんはすぐに顔を上げた。
「おはよう、リタ」
もう朝なんだ、とアリシアさんは窓を見て、少し名残惜しそうに本を片付け始めた。もう少しぐらい、読んでいてもいいんだけど。
「もういいの?」
「リタが少しそわそわしてるように見えるから。何か楽しみがあるみたいだし、邪魔にならないように帰る」
表情に出していたつもりはないけど、アリシアさんは察してくれたらしい。今なら学校前の真美とも会えるだろうから早く行きたいとは思ってたけど、察せられるとは思わなかった。
でも、急かすつもりがなかったのは、本当。アリシアさんがゆっくりするつもりだったら、それぐらいは付き合おうと思ってたから。
さすがに引き留めるつもりまではないけど。真美に会いたいのも本当だから。
「それじゃ、リタ。王都の側に転移で送ってほしい」
「ん。分かった。忘れ物は?」
「ない」
頷いて、転移を発動。転移先はアリシアさんの要望通り、王都の側。おとなしく待ってくれてるランの姿がかすかに見える。
アリシアさんは周囲を軽く見回して頷くと、私に向き直った。
「ありがとう。精霊の森に行けば、また会える?」
「ん。森の前で呼んでくれたら、精霊たちが案内してくれると思う。勝手に入るのは、だめ。アリシアさんなら大丈夫だとは思うけど、危ないから」
アリシアさんなら、森の魔獣にも勝てると思う。でも、それでも危険なことに変わりはない。油断して足をやられて、なんてこともあり得るだろうから。
アリシアさんも分かってるみたいで、頷いてくれた。
「私もずっと戦い続けられるわけじゃないから、さすがにそんな無謀なことはしない」
「約束だよ」
「もちろん」
それなら安心、かな?
それじゃあ、と手を振ろうとするアリシアさんを、慌てて止めた。まだ私からも用事があるから。
「アリシアさん。すぐに、じゃないけど、エルフの里に行きたい」
「え」
アリシアさんが固まってしまった。目を大きく見開いて、私をじっと凝視してる。そんなに意外なことを言ったかな。
「エルフの里に……? まさか、襲撃するの?」
「しないよ。興味もないから」
「それならいいけど……。じゃあ、理由は?」
「師匠がエルフの里に行ったらしい。王様が言ってた」
アリシアさんが目を見開いて驚いてるから、アリシアさんも知らなかったらしい。あまり帰らないらしいし、仕方ないと思う。
「ちなみにアリシアさん、最後に帰ったのはいつ?」
「三十年ぐらい前……?」
三十年。私が生まれるよりも前だから、本当に私に関係することには一切関わってないんだね。
「理由は、分かった。でも少し待ってほしい。一度、確認しに行ってみる」
「いいの?」
「もちろん。そろそろ一度、帰ってもいいかなと思ってたから」
そう言って、アリシアさんは私の頭を撫でてきた。んー……。悪くないなで方だと思う。精霊様ほどじゃないけど、気持ちいい。
「何か分かったらギルドを通して連絡する」
「ん。よろしくお願いします」
頭を下げると、アリシアさんはしっかりと頷いてから王都へと歩いて行った。
アリシアさんを見送った後は、お家に転移。時間は、朝の七時、かな? 今なら真美はまだお家にいるはず。
というわけで、また転移。今回の転移先はもちろん真美の家だ。
真美の家に転移すると、真美とちいちゃんがトーストをかじってるところだった。
「あ、リタちゃん。いらっしゃい」
「トースト……」
「食べる?」
「ん」
頷くと、真美はなんだか嬉しそうに頷いて、すぐに立ち上がって行ってしまった。
私は……待っておけばいいかな。
ちいちゃんを見る。ちいちゃんが食べてるトーストには、なんだか白いものがふりかけられてる。バターとかジャムとはまた違うみたい。なんだろう。
「ちいちゃん、美味しい?」
「もぐ!」
口をもぐもぐさせながら頷いてくれた。かわいい。
とりあえず配信を開始、と。
「おはよう」
『おはよう』
『挨拶できてえらい!』
『おん? すでに日本? 真美ちゃんの家?』
「ん」
光球を移動させて、ちいちゃんが食べてるトーストを映してみる。少しずつ食べるちいちゃんは、なんだか小動物みたい。
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