ミレーユさんのおへや


 ギルドマスターさんは顔が利く、というのは間違いないみたいで、他の街や国に行くなら紹介状を書いてくれることになった。王都のギルドのトップなだけあって、他の街のギルドマスターさんよりもその点は優れてるらしい。

 代わりに、定期的に難しい依頼を受けにくるって言ったら喜んでくれたから、ちゃんと忘れずに来ようと思う。

 ギルドマスターさんとのお話が終わった後は、お部屋に戻る。途中で串焼き肉を買って食べながら、歩いてお屋敷へ。串焼き肉は安かったけど、香辛料が少なめでちょっといまいち。


「んー……。やっぱり、安いと微妙」

「安いには理由があるってことだよ、リタ」

「なるほど」


『輸送費とか上乗せされるだろうしね』

『この世界だと輸送費がわりと高そう。魔獣も出るし』

『ごめん関係ないけど、アリシアさんが肉食ったことに驚いたよ俺は』

『エルフだからかな?w』


 そういえば、日本のお話だとエルフはお肉を食べないっていうのがあったね。この世界のエルフはどうなんだろう。私は気にせず食べるけど。


「アリシアさん。エルフもお肉は食べるの?」

「え? 普通に食べるけど」

「そうなんだ」


『どうやらこの世界だと関係なさそうやな』

『そんなんいやや! エルフはお野菜しか食べないんや! それこそエルフじゃん!』

『勝手な価値観を押しつけちゃいかんよ』


 私が問題なく食べられることから予想しておくべきことだったかもしれないね。

 お屋敷に帰ってきて、部屋に入る。部屋ではミレーユさんとメグさんが待っていた。荷物の整理は終わってるみたいで、メグさんの足下には少し大きめの鞄がある。

 メグさんは私に気が付くと、すぐに立ち上がって頭を下げてきた。


「守護者様。お待たせ致しました」

「ん……。リタでいい。荷物それだけ?」

「かしこまりました、リタ様。残りの荷物はミレーユがアイテムボックスに入れてくれています」


 ミレーユさんを見ると、少し得意げに見えた。ただ、なんとなく分かる。これは、あれだね。


「点数稼ぎってやつだね」

「リタさん!?」

「いいところを見せて、この後のお説教を短くするつもり、とか」

「やめてくださいまし!」


 図星みたい。ミレーユさんがそっとメグさんを見ると、メグさんはにっこり笑って言った。


「大丈夫だよ、ミレーユ。お友達でしょ?」

「メグ……!」

「この程度で変わらないから」

「メグ!?」


『この二人なんかいいなw』

『メグさんがすっごい、いきいきとしてるw』

『ミレーユさんはちょっとかわいそうだけどw』


 自業自得の部分だから仕方ない、ということで。

 準備はこれで完了みたいだから、すぐに行こう。三人に私の周りに集まってもらってから、転移魔法を使う。一瞬だけ光に包まれて、次の瞬間にはミレーユさんが宿泊する宿にいた。

 一応、応接室というか、客間の方だね。つまりとても綺麗に片付けられてる部屋だ。その部屋を見て、メグさんは目を丸くしてる。とても驚いてるみたいに。


「ここが、ミレーユが宿泊する宿ですか?」

「ん」

「うそ……! ちゃんと片付いてる!」

「メグ? そろそろ怒りますわよ?」


 ミレーユさん、それは自室を見られてから言った方がいいと思うよ。言えなくなると思うから。


「ふふん。どうですかメグ。わたくしだって、家事ぐらいできるのですわ」

「ここ、客間か何かだよね、ミレーユ。間違いなく」

「どうして分かるんですの……!?」

「やっぱり」

「はめられましたわ!?」


 さすがにミレーユさんがわかりやすすぎるだけだと思うよ。話を聞いてるだけのアリシアさんは小さくだけど肩を震わせてるし。


「ミレーユ、部屋、見せて?」


 にっこり笑顔のメグさんに、ミレーユさんは頷くことしかできなかったみたい。

 そのまま部屋を出て、まっすぐミレーユさんの部屋へ。ミレーユさんがドアを開けると、うわ、と誰かの声が聞こえてきた。ちなみにアリシアさんだった。アリシアさんから見ても汚い部屋らしい。

 メグさんは、表情から感情が抜け落ちて無表情になっていた。怖い。


「あ、あの……。メグ……?」

「…………。ミレーユ。今すぐ片付けよう。後回しだめ」

「そ、そうですわね。でも、危険なものもいくつかありますの。メグに触らせるわけには……」

「うん。だから、ここで見てる。監視する」

「え?」

「ここで、見てる。監視、する。ミレーユ、がんばって?」


『メグさんに笑顔が戻ったけど目が笑ってないでござる』

『これはマジギレしてますねえ!』

『ミレーユさんwwwかわいそうwwwがんばってwww』

『草生やしてやるなよw』


 これは、もう絶対に動かないと思う。ミレーユさんは、うん。がんばって。一回片付けたら、維持は簡単なはずだから。大変なのは最初だけだよ。


「そうだよね、メグさん」

「その通りです。だからミレーユ、早くやろう?」

「で、ですがメグ、その……」

「やろう?」

「はひ」


 とぼとぼと片付けを始めるミレーユさんと、それを睨み付けるメグさん。なんというか、二人の関係性が分かるやり取りだった。本当に、主従というよりは友達なんだね。

 だって、ほら。メグさん、今はちょっと苦笑いしてるし。


「それでは、リタ様。私は宿の方にご挨拶に行ってきます。軽食も作ってあげたいので」

「ん。私は帰るね。ミレーユさんをよろしく」

「はい。アリシア様も、お気をつけて」

「うん。ありがと」


 手を振るメグさんに手を振り返して、私はアリシアさんを伴って今度は森に転移した。

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