ギルドマスターの受難たぶんふぁいなる
私たちがギルドに入ると、カウンターで職員さんと話しているギルドマスターさんがいた。仕事の指示か雑談かは分からないけど、険悪な雰囲気ではない、と思う。どちらかと言えば和やか。
でも、そんなギルドマスターさんの顔は、私たちを見つけた瞬間に引きつってしまった。
「げ」
「げ、はさすがに失礼だと思う」
アリシアさんがずんずんと奥へと歩いて行く。私もその後に続く。周囲の冒険者さんは、我関せずとばかりに視線を逸らしていた。
「待て。来るな剣聖。わしは何も聞きたくない!」
「そんなこと言わずに。大事な報告がある」
「よせ! やめろ! 何も言うな! わしの体重がどれだけ減ったか分かっているのか!」
「素晴らしい。ダイエットは大事。是非協力したい」
「ぶっ殺すぞ貴様」
「やってみなよギルマス」
「できるわけがないだろうがクソが!」
『コントかな?』
『実は仲良しだったりするのでは?w』
『まあどう見てもキレてるわけだけどw』
ギルドマスターさんが怒ってるのは間違いないと思う。気持ちはちょっと分かるけど。でも今回は私が原因になりそうだから、少しだけ申し訳ない気持ちもある。
「ギルドマスター。本当に大事な話」
「ああ、ああ、分かったよ。わしの部屋で待っておれ」
ギルドマスターさんも話を聞いてくれる気になったらしい。とりあえずは安心、かな?
階段を上って、ギルドマスターさんの部屋へ。二人で椅子に座って待っていると、すぐにギルドマスターさんも部屋に入ってきた。
ギルドマスターさんは警戒心たっぷりにアリシアさんを睨んでる。今回もアリシアさんが何かをやったのだと思ってるみたい。
「心外。今回は私じゃない」
「なんだと?」
「今回は、魔女の方」
ん。その通りなんだけど、そんな裏切られたみたいな目で私を見ないでほしい。ちょっと罪悪感を覚えてしまうから。
『ギルドマスターさん視点だと、多分剣聖のストッパーみたいな感じだったんだろうな』
『残念、その子も爆弾だぞ!』
『なんなら一発の威力は剣聖よりも遙かに上だぞ』
その言い方はちょっと悪意を感じてしまう。否定ができないけど。
ギルドマスターさんは緊張の面持ちで私の対面に座った。ちなみにアリシアさんは私の隣に座ってる。こっちはなんだかわくわくしてる、気がする。
「よし……。よし。良いぞ。何でも言え!」
『覚悟完了』
『じいさんかっこいい!』
『なおこれから胃痛で倒れます』
『やめたれwww』
別にそこまででもない、と思うんだけど……。違うのかな?
「つまり、なんだ。隠遁の魔女殿は精霊の森の守護者で、賢者コウタはその師匠、かつ先代の守護者と。そういうことかの?」
「ん」
「ふむ……。よし。待っておれ」
そこまで長い話でもないからさっと話してみたけど、ギルドマスターさんはそう言うとおもむろに立ち上がった。ゆっくり歩いて、部屋の奥、本来の自分の椅子に座る。机の上で手を組んで、深呼吸。そしてそのまま頭を抱えてしまった。
「情報量が……多い……!」
『草』
『話そのものは数分だったのになあw』
『最初のリタちゃんの一言でフリーズしたのはちょっと笑った』
『わたしは精霊の森の守護者、からの、ほ?』
『お腹を押さえてぷるぷるしててかわいいと思いましたwww』
『お前ら老人はもっと大切にしろwww』
『なら草を生やすなw』
「んー……。でも、王様にも話した後だし、ギルドマスターさんはあまり気にしなくていいと思う」
「魔女殿、実はバカだろ? 間違いなくわしもこの後、城に呼ばれるだろうが……!」
「そうなの……?」
「間違いなく」
アリシアさんに聞いてみると、すぐに頷いた。どうしてそうなるのか分からなかったけど、アリシアさんが言うには、ギルドマスターという立場は冒険者のまとめ役みたいなもの。そして私も今は冒険者だから、これを知っていたのか、今後どういう関わり方をするのか、とかそういったことを間違いなく聞かれるらしい。
うん……。ちょっと、ごめんなさい。
「でも、それならやっぱり話しておいたほうがよかった、よね?」
「いや? 言われなければ知らぬ存ぜぬで通せたんだがな?」
「ん……」
ちら、とアリシアさんを見る。話した方がいい、と言っていたのはアリシアさんだから。アリシアさんは、なるほどと手を叩いていた。
「言われてみればその通り」
「今の一言で魔女殿がここに来た経緯を察したぞやっぱりお前が元凶かクソが……!」
『さすがにギルドマスターさんが不憫になってきたんだがw』
『本人に悪気がないのが一番たちが悪いなこれw』
えっと……。うん。私も、もう少し考えればよかったかもしれない。
「ごめんなさい」
そう言うと、いや、とギルドマスターさんが慌てるように手を振った。
「魔女殿は悪くない。原因はそこの剣聖殿だからな」
「心外」
「お前は少し反省しろ」
意味が分からないといったように首を傾げるアリシアさんと、青筋を立てるギルドマスターさん。今後はもう少し気をつけよう。
それにしても、とギルドマスターさんは私とアリシアさんを見比べて、しみじみと言った。
「Sランクにまともなやつはやはりいないな……」
『いや草』
『そこまでか? 誰かまとめて』
『灼炎の魔女、婚約破棄されて公爵家を出て冒険者になった元上位貴族。貴族との繋がりあり』
『深緑の剣聖、ハイエルフ、つまりエルフの王族で控えめに言ってトラブルメーカー』
『隠遁の魔女、ご存知リタちゃん、精霊の森の守護者、ある意味一番の爆弾』
『まともなやつがいねえ!』
『まともなやつがSランクになれるわけがないだろうがいい加減にしろ!』
そこまで言われることかな、と思ったけど、確かにその通りかもしれないと思ってしまった。私も、さすがに普通の出自とは言えないぐらいは自覚があるから。
ギルドマスターさんは最後に大きなため息をつくと、すっと背筋を伸ばした。きりっとしたお顔になってる。そうして、まっすぐに私を見つめてきた。
「では、守護者殿。あなたは守護者として、我らに何を望むのでしょう。もちろん可能な限り協力を……」
「え?」
「え?」
私が首を傾げると、ギルドマスターさんも首を傾げた。
「守護者殿、ちなみにですが、何故このことを伝えに来てくれたのでしょうか?」
「ん……。アリシアさんが、その方がいいって。顔が利くから便利、だって」
二人で同時にアリシアさんを見る。アリシアさんは頷いて、
「よろしく、ギルドマスター」
「…………」
ギルドマスターさんはなんだか遠い場所を見るような目になってしまった。なんというか……。うん。ごめんなさい。
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