ジュースで一休み
「ん……。ありがとう。参考になった」
「いえ。あまりお力になれなかったようで、申し訳ない」
「んーん。師匠がどこに行ってたか、とかは知ってる?」
「そうですな……。賢者殿を招いて晩餐会を催させていただきましたが、その際に旅の話をお伺いしました。目的地にはすでに寄ったからあとは帰るだけ、と話してもらいました」
「目的地……?」
それは、初めて聞いた。やっぱり師匠は何か目的があって、旅に出たらしい。世界を見て回る、というのもあったんだと思うけど、それとは別の目的が。それも、私には言えないこと。
「その目的地は知ってる?」
「エルフの里だったはずです。行き方が分からず、調べるのに苦労したと聞きました」
「え……?」
エルフの里? 師匠が、エルフの里を探して、行ったの? どうして?
『エルフの里って、なんでだよ』
『普通に考えれば、リタちゃんに関わることだろうけど』
『リタちゃんの出生を調べに行ったか、もしくはどうして捨てたのか聞きに行ったか』
『どっちもありそう』
そう、だね。師匠なら、どっちでも可能性はあると思う。つまり両方かもしれない。
ただ、理由までは考えたところで分からないと思う。今は、目的地だった場所が分かっただけでも十分だ。十分、だけど……。どうしよう。
「守護者殿、いかがなさいましたか?」
「ん……。何でもない。お話ありがとう。知りたいことはこれで聞けた」
「はあ……。そうですか」
王様はちょっと怪訝そうにしてたけど、それ以上は何も言ってこなかった。詮索はしないでくれるみたい。こっちも説明するつもりはあまりないけど。
それじゃ、そろそろ帰ろう。
「失礼、守護者殿。少しだけよろしいでしょうか」
私が立ち上がったのと同時に声をかけてきたのは、ソレイド公爵だった。あまり直接会話はしなかったけど、何の用かな。
「なに?」
「私は深緑の剣聖を雇っていたのですが、彼女からの伝言でして。バルザス公爵家で待っている、と」
「ん」
そういえば、精霊様に挨拶したいって言ってたね。一緒についてくるつもりらしい。別にそれはいいけど、フェンリルのランはどうするのかな。森に連れて行くなら、守ってあげないとさすがに危ないけど。
それは会って相談すればいいか。とりあえず帰ろう。
「それじゃ、王様。お話、ありがとう。お邪魔しました」
「いえ。また何かありましたら遠慮なくお越しください。最優先で対応させていただきます」
「ん」
王様たちに手を振って、私はバルザス公爵邸へと転移した。
転移した先は、もちろん自分が使ってる部屋だ。部屋にいたのは、ミレーユさんと、そしてアリシアさん。二人とも、のんびりとお茶を飲んでる。
「あら。おかえりなさい、リタさん」
「おかえり」
「ん。ただいま」
メグさんはいない。まだ荷物の整理中かな。
私も椅子に座って、アイテムボックスからジュースを取り出す。じっと見られてるのはすぐに気が付いたから、二人にも渡しておく。コップにジュースを入れて、どうぞ。
「ありがとうございます、リタさん」
「おいしそう」
二人がジュースを飲むと、わずかに目を見開いて一気に飲み干した。お代わりほしい? いいよ、たくさんあるから。
「リタ。このジュース、なに?」
「グレープジュース。お気に入り」
「へえ……」
アリシアさんがじっとジュースを見てる。気に入ってもらえたみたい。美味しいからね。
『グレープジュースは子供が好きなイメージ』
『分かる』
『つまりここにいるのは全員子供……?』
『なお最年少はミレーユさんです』
『頭バグりそう』
アリシアさんとミレーユさんだと、ミレーユさんの方が年上に見えるからね。実際の年齢を知ってると、違和感がとてもあると思う。
ジュースも飲んだし、今後の予定だ。
「アリシアさん。私はミレーユさんを送ったら一度森に行くけど……。一緒に来るの?」
「うん」
「ランはどうするの?」
「お留守番させる。さすがに精霊の森は危ないと思うから」
そうだね。あの子もそれなりに強い魔獣だと思うけど、精霊の森だと下から数えた方が早い程度になる。多分、フォレストウルフの群れでも厳しいんじゃないかな。
だから、もうしばらく街の外で待機だ。ランにはちょっと悪いけど。
「じゃあ、あとはメグさん待ちかな」
「そうなりますわね」
「時間があるなら、リタ、冒険者ギルドに行こう」
「ん……」
そういえば、そんな話もしてたね。ギルドマスターさんには全部話しておいた方がいいっていうやつ。ギルドマスターさんには悪いけど、メグさんの用意が終わるまでは暇だし、先に行こう。
『これはギルドに行く流れやな?』
『ギルドマスターさん逃げて、超逃げて!』
『かわいそうに、もう逃げられないぞw』
『Sランクが二人の時点で避ける選択肢がないんだよなあ』
一応は最上位の冒険者だからね。さすがに避けれないと思う。だから、頑張ってほしい。
「行こう」
「ん。ミレーユさん、ちょっと行ってくる」
「分かりましたわ」
ミレーユさんに手を振って、私たちは冒険者ギルドに向かった。
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